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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介の受難
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安請け合い

「それはなんと言ってよいのやら・・・」


 朧木は言葉を濁すばかりである。


「なんだか話を聞いてもらったらすっきりしちゃった!」


 女性の幽霊はなんとも明るい雰囲気になった。死んでいるのに元気はつらつである。


「あぁ、僕がお役に立てたのなら何よりです」


 特に何かしたわけではないが、とりあえず朧木はそう言っておいた。


「えぇ、助かったわ。大事なのはこれまでよりこれからの話よね! 一度祟るのに失敗したからってなんだって言うのよね。レッツポジティブシンキング! 人生トライアンドエラーよ! 何が何でもあのホストを祟ってやるんだから!」


 女性の背にぼっぼっと人魂が燃え盛る。これからの人生を前向きに考える一人の女性がここにいた。

 しかしこのままでは生者が祟られる事になるので、朧木は女性をそのままにしておくのも躊躇われたが、話を聞けばホストの男の因果応報もあるだろうと思い、そのままにする事にした。


「えぇ、大事なのはこれからどうするかですよ。人生愉しんだもの勝ちです」


 朧木はとりあえずそれっぽいことを言ってごまかした。教唆にならない程度に話を留めておこうと企んでいる。


「花の命は結構長い! こんなもので終わるものですか。私の人生の第二幕の始まりよ! そうとわかったら仕切りなおしだわ。御勘定!!」


 この間黙っていたジュリアが会計を進める。話の流れにもどうと思うことも無いらしい。淡々と仕事をこなしている。

 女の幽霊は張り切って店を出て行った。


「良介ちゃん、良かったわね。あの子元気が出て・・・」

「・・・良かった、のかなぁ」

「いいのよ。でも、とんでもない御話だったわね。あの子には悲劇でも第三者にはドタバタコメディにしか聞こえなくて、笑わないようにするので大変だったわね」


 ジュリアはくすりと笑った。朧木は何といったら良いのか必死に考えていたので、そっちはそっちで大変だった。


「流石にあの話の行方は想像できなかったヨ」

「幽霊になる人にも色々いるのね」


 生前からこの女狐CLUBに通っていた女なのだ。ただの女であるわけはなかった。


「あれはいずれ本懐を遂げそうだなぁ・・・止めとけば良かったかな」

「いいのよ。男が悪いんですもの。それはそれとしてもとんだ怪談になったわね」

「故事にもこういう話はあるよ。井原西鶴が俳諧の友と訪れた湯殿山にて遭遇した腰抜け幽霊の話さ。あっちは最近の若い者は幽霊になっても気迫が無いから怨念が相手に届かない、口ばかり達者になって困ったものだという説教話だったけれど、こっちの話は女性の幽霊がパワフルすぎる気がするなぁ。これも時代かねぇ」


 朧木はカランと空になったロックグラスの氷を転がして音を鳴らした。おかわりの催促である。ジュリアはいつものように二つ目のグラスを差し出した。


「女は昔からタフなのよ」

「はいはい。恐ろしい事で・・・それにしても今日は恋愛がらみの話ばかりだな」

「へぇ、どんなどんな?」


 ジュリアはとても聞きたそうな雰囲気であった。


「なんだったかな。確か、深夜0時に針を咥えて水を張った洗面器を眺めていると、運命の相手の姿が見えるとか何とか、そんな魔術が流行っているとか」


 ジュリアが話を聞いて驚いている。


「へぇ、良介ちゃんもその話を知っているんだ?」

「うちの従業員の女の子がそんな話をしていたのさ」

「今女の子の間で話題なのよ。確かな効果があるからって、うちのお店でも噂で持ちきりよ。運命の相手の姿を見た子が何人もいるんですもの」


 朧木は気にはしなかったが、どうも効果の有無は話が広がるクラスターによってちがうようであった。さくらの話では何も映らない子がいたと言う話である。


「女性は恋愛に関しては本当に熱心だよねぇ」

「人生の一大テーマですもの。まぁ、うちのお店に来るような子は色々と大変な子が多いけれどね」


 全うな恋愛話は少ないであろう女狐CLUB関連の女性たちである。


「その子にも言ったんだけれどね。遊び半分に魔術なんかしないほうが良いよって。ジュリアの周りの子にもそう言っておいてあげてくれないか」

「うーん、良介ちゃんがそういうならそうするわね。ただ、一つお願いしたいことがあって」

「なんだい?」

「その運命の相手を知る魔術を使った子の中で何かあったような子がいてね。なにやら体調を崩してふさぎ込んじゃっているのよ」

「体調を崩した? そんな危険な魔術だったのか」

「それが関係があるかはわからないけれど、ふさぎがちになっちゃった子が一人いるのよ。お願いできないかしら。御代はそうね、こちらのお酒でどうかしら」


 ジュリアが背後の棚から高そうなお酒を一本取り出す。


「おっ、こいつはいいや。引き受けた!」


 酒には目が無い朧木良介。話を聞く限りでは面倒ごとではなさそうだったので気軽に引き受けてしまうのだった。それが、結構な面倒ごととなる話であることを彼はまだ知らない。


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