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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介の受難
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現代幽霊話

 朧木は夜道をふらりふらりと歩く。彼の足はいつもの如く女狐CLUBを目指していた。朧木の行きつけの店である。

 からんからん、店の扉の鈴がなる。


「あら、良介ちゃん。お久しぶりね」


 迎えたのはバーのママであるジュリアだ。


「あぁ、いつものをロックで頼む」


 まだまだ空いている店内。その日は他に女性客が訪れていた。店の水晶占い師目当てに女性客も訪れるのだ。朧木は迷わずカウンター席に座った。

 カウンターにコトリと置かれるロックグラス。朧木は琥珀色の飲み物が注がれたグラスを手に取った。


「今日もお仕事お疲れ様」

「疲れるようなことはなにもやっていないがね。ははは!」

「自慢できる事じゃないでしょうに。あなたも相変わらずね」


 いつものように御決まりのような言葉を交わす。ジュリアも普段は朧木が暇しているのは知っていた。

 朧木の息抜きタイム。それは静かに夜が更けていくと思われた夜の出来事。

 からんからん・・・入り口の鈴がなる。誰か他の来客があったようだ。いつもの事なので朧木は気にせず酒を呑み続ける。と、朧木とは一つ席を空けて女性がカウンター席に座った。どうやら一人客のようだった。ジュリアは後から来た女性の接客に入る。

 女狐CLUBに来る女性はただの女性ではない。店は女狐や悪女と罵られる様な女が集う魔の巣であった。だからというわけではないが、朧木はこの店で女性と関わろうとはしない。わけあり女が多すぎるので詮索も危険である。

 朧木の近くに座った女性も陰気な雰囲気を漂わせていて近寄りがたいものがあった。ただ、その女性はその店に訪れるタイプ以上に輪をかけてただならない存在だった。

 女性は酒を呑むたびため息を吐く。そのため息が炎となっているのだ。度数が高すぎるアルコールを呑んでいるわけではない。彼女は生きた人間ではなかった。幽霊なのだ。

 しかし、これまたジュリアは慣れたもので普通に接客していた。ジュリアも普通の人間ではないのだ。全く問題視していないらしい。

 落ち着かないのは朧木だった。隣で火を吐く女がため息混じりに酒を呑んでいる。その女が酒を飲み干し、グラスの中でころりころりと氷を転がし始めた。

 ジュリアがグラスにお酒をついで女性へと差し出した。


「御隣のお客様からです」


 そう言うジュリアに対し、女性は怪訝な表情でグラスを受け取った。そして横にいる朧木に視線を移す。


「・・・・・・・・・いかが致しました?」


 朧木は椅子の上で足を組み、女性にそう尋ねる。僅かながらに興味が勝ったのだ。朧木は根負けして火を吐く女性に酒をおごって話しかけたのだった。


「えっ、・・・私?」

「そうです。ため息が多く、何かあったのではないかと思いまして」

「たいした問題じゃあないわ」

「そうですか、だいぶ思いつめていた表情だったので気になりまして」


 女性は朧木に話しかけられて困惑していた。特に話す気もなさそうであったので朧木も余計な深入りはせず、自分の酒に戻ろうかと思った時であった。


「そうね、聞いてくださるなら話すことも吝かではないわ」


 女性は重い口を開いてくれるのであった。


「ええ、私で出来る事なら何でも。話を聞くくらいであればできますし」


 朧木もジュリアに追加のお酒を頼んだ。そして女性はつらつらと話し始める。


「私は生前とあるホストに貢いでいたの。それはもう何百万とね。その時は後悔をしていなかったわ。相手の人の役に立っているって嬉しかった」


 朧木は話の始まりから既に何かどろどろした物を感じ取っていた。既に話のオチまで予測している。だが、黙って聞いていた。時折相槌を打ちながら。


「でも、ある時そのホストが他の女と歩いているのを見てしまって。つい飛び出したわ。その女は何!? ってね。でもホストにとってはその女の方が本命だったみたい」


 朧木はその本命と思われる女性もそうじゃないのではないかと疑った。だが、疑うだけで特に何も言わなかった。


「私は必死になってホストに食い下がったわ。でもダメね。都合よく捨てられちゃった。失意のどん底にいた時に、無理してお金を稼いでいたのが祟っちゃってね。倒れちゃったのよ」

「それはつらい時に大変だったんじゃあないですか。苦しかったでしょうね・・・」


 流石にここは朧木も同情した。泣きっ面に蜂というやつであろう。


「そう。とても辛かったわ。でも一向に体が良くならなくて、結局死んじゃったの」


 自分で死んじゃったという女性はしかし、さしてそのことは気にしていない風であった。


「それはまたご愁傷様でした」


 当人にかける言葉なのかどうかはわからなかったが、朧木はそう言った。


「失意のうちにこの世を去って、はじめは呆然としていたわ。死んでも死に切れなくて街中をさまよっていたら。なんとあの男を見つけたの。高級車を乗り回して助手席に女を乗せていて・・・見かけたらなんだかどす黒い感情がわきあがってくるのを感じて、たたり殺してやろうとホストの車のボンネットに張り付いたの。彼、ビックリしていたわ・・・」


 ボンネットに女性が急に張り付いてきたら、相手が生きていようがそうでなかろうが仰天するだろうなと朧木は思った。


「後一歩のところで私は車から振るい落とされちゃって、腰を強く打っちゃったの。目的は果たせないわ、腰の痛みはひどいわでどうすることも出来なくて、仕方なく生前に良く通っていたこの店にやってきたのよ」


 流石の朧木もこんな話のオチは予想していなかった。なんともかける言葉が見つからない。


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