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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介の受難
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恋の魔術の噂

 その日は例の如く魔紗が朧木探偵事務所を訪れていた。ヴォルフガングは狼の姿をとっており、寝そべって魔紗の相手はしていない。主に話し相手になっているのはさくらだ。彼女たちはロールケーキを食べながら御茶会をしている。


「まぁ狼男が元気にしているようでよかったわ。現存するキリスト教の歴史にも関わる西洋妖怪ですもの、いつか必ずバチカンまで連れ帰ってやるんだから」


 魔紗が決意を新たにぐっと拳を握っている。


「魔紗さんは狼男さんにご執心なんですね。ヴォルフガング君の果報者ぉ!」


 きゃっきゃと囃し立てるさくらであったが、ヴォルフガングとしてはとてもそんな気にはなれなかった。


「で、朧木良介。いつになったら狼男を引き渡してくれるわけ?」


 魔紗がくるりと所長デスクの方を向いた。その椅子では朧木がうたた寝をしていた。


「ごめん。呼んだ? 眠りかけていて話を聞いていなかった」


 朧木がはっと目を覚まして辺りをきょろきょろと見渡しながら言った。


「はぁ~、この探偵事務所。所長がこんな感じで大丈夫なのかしら」


 さくらが腰に手を当ててこめかみに手を当てている。


「そういえば亜門がうちのエクソシスト達に声をかけて回っているみたいだけれど」

「魔紗さんの教会にはエクソシストがたくさんいるんですか?」

「普通はそんなにはいないわよ。エクソシストはそれなりに修練を積まないとなれないんだから」

「魔紗さんも特殊な訓練を受けたりしてたんですか?」

「していたわ。それはもう幼少期の頃からね」


 さくらが感心している。


「いいなぁ。私も魔法の訓練とか受けたかったな。もしかしたら大魔法使いになっていたかも!」

「魔術はあまり感心しないわね。教会側としては基本的に禁止してきた歴史があるし」

「へぇ。そうなんだ。最近は乙女の間でも魔術のようなおまじないが流行ってますよぉ」

「・・・魔女の量産される時代なんてとんでもない話ね。どんな魔術なのよ」

「それがですねぇ。深夜0時に針の頭を咥えて、水の張った洗面器を覗き込むと、なんと水面に将来結婚する運命の相手が映るという噂なんですよ!」


 さくらは興奮しながら語った。どうもこの噂話にかなり入れ込んでいるらしい。


「それはまた乙女チックな魔術ね。・・・という噂という話しぶりからするに、あんたはまだ試していないみたいね?」


 魔紗は噂にはさほど興味なさそうだった。


「えぇ、そんな事で将来の相手を知ってしまってもつまらないと思って。未来はわからないから面白いと思うんですよ」

「へぇ。あんたにしてはしっかりとした考えを持っているのね。かしこいわね。その通りよ。人生一寸先は闇の道を切り拓くもの。起こることが全てわかっていたら退屈でしょうね」


 魔紗にとってはさくらの回答は意外だったようだ。考えなしに何でもかんでも行うイメージを持っていたのだ。その評価が多少変わった程度だが好転している。


「友達の中には試したけれど何も出なかったという子がいて、これってやっぱり魔術的な素養が無いとできないものなんでしょうかね。私の周りはあまり運命の相手が見れたって子がいなくて。美人の子も何も映らなかったって言っていて、でもその人が生涯未婚のままともとても思えないんです」

「私は魔術には詳しくないからなんとも言えないわね。朧木ならわかるんじゃない?」


 急に朧木に話が振られたが、今度はきちんと話を聞いていたようだった。ただ、その表情はあまり面白そうではなかった。


「遊び半分に魔術を行うのは感心しないな。将来の相手を占うような魔術の類も珍しくは無いが、魔術の中には代償を必要とするような危険なものもある。少なくともよくわからないものを試すものではない。丼副君の友人がうまくいかなかった原因は、魔術そのものの精度が低いからか、手順を間違えたか、運命の相手が映る条件があると見た。それにしてもどこか不穏なものを感じさせる方法の魔術だな・・・」

「所長が試せばうまくいくって感じです? 所長、独身だからまだ試せるでしょ♪」


 さくらは興味津々だ。この手の話が本当に好物なのだろう。


「僕は試さないよ! というか、その魔術。既婚者が実践したらどうなるんだろうね」

「水面に映ったのが結婚相手じゃなかったらどうなるんでしょうね!? セカンドラブの始まりを教えてくれたりして」


 さくらは真剣に考え込み始めた。そんなに重要なポイントだったのだろうか。


「丼副君の周りで実践者が出たようだが、それだけこの噂話は信憑性を持って広まっているという事なのだろうな。出所不明の魔術を試すというのはどうしてもいただけないが」

「口コミで広まった噂なんです。どこから始まったのかは私も知らないです」


 さくらの説明に魔紗は考え込む。


「やはり感心しないわね。魔術は魔術。素人が使っていいものではないわ。特に実戦的魔術はね。宗教的な理由もあるけれどさ。朧木と同意見で、私もやはり危険だと思うわ」

「えぇー、運命の相手を知るためのささやかな魔術じゃないですかー!」

「ささやかに見えるが、それは運命変転を可能とする恐ろしい魔術だぞ。未来を知るというのはそういうことだ。丼副君、君は魔術を知らなさ過ぎる」


 さくらはしゅんとなった。乙女のささやかな遊びとして広まっているおまじない程度の話をしたつ

もりだったが、本業魔術師やエクソシストからの反対を受ける形となってしまった。


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