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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介の受難
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フェイの依頼

 さくらはその日自分のマンションにいた。さくらは親元で暮らしているのだ。3LDKのマンションの一室がさくらの部屋だ。部屋の中は白とピンク色を基調としたカーテンレースや壁紙で整っており、さくらが名前の由来となっている桜色を好んでいるのが丸わかりだった。その部屋の角にハムスター用のケージが置いてある。さくらはそのペット用ケージの餌入れに穀物を入れていた。


「ねぇ、ちゅう太。今日も元気にしてた?」


 さくらがペット用ケージに話しかける。ちゅう太とはさくらが飼っているハムスターの名前だ。普通なら動物相手に話しかけても仕方が無い。殆ど独り言だがこれは彼女の日課となっていた。


「所長ったら酷いんだよぉ。私が熱中症で倒れたってのにまるで心配してくれなかったんだから。救急車で運ばれて大変だったんだよぉ?」


 さくらが縊鬼に襲われていたことは朧木しか知らない。気を失っていたさくらは熱中症で倒れた事になっているのだ。朧木はさくらに大事無いことを知っていたので平気だったのだ。

余計な心配はかけさせたくなかった朧木は縊鬼のことはさくらに黙っていた。縊鬼については既に退治してしまっているがそのこともあえて黙っていた。

ちょっとは気にかけて欲しかったさくらとはやりとりがかみ合わなくなっても仕方が無かったのだ。


「まったくもう、今度妖怪探しに行く時は猫まんを連れて行こうかな。私一人じゃ妖怪を見つけられそうにないや」


 さくらは未だに妖怪を探すつもりでいた。妖怪がすでに退治されていることを彼女は知らない。


「猫まんって人間の言葉をしゃべる猫でね。可愛げがないのなんのって、探偵事務所のマスコットキャラかと思ったけれど、とてもじゃないけど向かない! 時代は可愛らしいマスコットなのよ。ちゅう太もしゃべれたらいいのにね。ねずみのマスコットでなんか可愛いのいたかなぁ。ピカチュウとかどうかしら。私に代わって妖怪と戦ってくれるの! いいなぁ、そういうのも。さてと」


 さくらが飲み水入れの容器の水を交換しようと立ち上がった。その時である。


「ぴっぴかちゅう?」


 ハムスター?の鳴き声が聞こえてきた。


「・・・ちゅう太、何か言った?」


 この時点で既になにか怪しい出来事はあったのかもしれないが、さくらはただの聞き間違えかと考えたのだった。ペット販売店で妖怪など売っているわけが無い。そういう先入観があったのだ。妖怪の中には齢を得た動物が化けたものもいる。妖怪と動物の関連性はどこにでもあるものなのを彼女は知らなかった。

 ハムスターはおかしな鳴き声はあげなくなった。さくらは気を取り直してハムスター用の飲み水を交換しに行った。

 部屋に一匹取り残されたハムスターはつぶらな目で虚空を眺めていた。



 その後、さくらはいつものように朧木探偵事務所に顔を出した。事務員のアルバイトとして働いているので、きっちり時間通りに現れる。基本は土日だが平日の夕方辺りにもシフトが入る事がある。

 朧木が外に仕事に行ってしまうと事務所が誰もいなくなってしまうので、そんな時の為にさくらはいるのだ。事務員ではあるが事務所が余りに暇なので、掃除等の雑用をこなす事もよくあった。

 その日は猫まんの姿が無く、朧木が一人で事務所にいるだけだった。


「所長。今日は一件アポイントメントが入っていますね」

「ううむ、その人物が問題なんだけれどさ」


 朧木は困ったように頬をかいた。


「・・・フェイ・ユーさんですか。一体何用なんでしょうね」


 さくらがホワイトボードの予定表を確認する。たしかにあの中国人道士の名前があった。


「さぁ、仕事がらみでの相談とも思えないのだがね。面倒そうなら断ろうかな」


 と、そんなこんなで各自が思い思いに過ごしていると、フェイは時間通りに現れた。いつものように黒い拳法着に身を包んでいる。サングラスをしているので、どうにもガラの悪さが漂う。


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