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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介の受難
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窮地の朧木

 朧木はふらふらしているさくらへと駆け寄った。朧木は「しっかりしろ!」とさくらを揺さぶる。ぺちぺちと頬を叩くが反応はない。さくらはそのまま気を失い倒れた。


「むぅ、このままにしてはおけんな」


 朧木はもう一枚の式神の形代を懐から取り出し、投げ払った。小さな子供のような式神を召還し、さくらのそばに見張りとしておいた。


「まったく、事務員なのに現場に出ちゃうんだから困った子だよ。だが、そんな君がいるからこそ僕も動かされるというわけだが・・・さて。人に仇為す妖怪退治と行きますか」


 朧木は鳥型の式神が追って行った方角へと向かっていく。

 赤坂の街を陰陽師が進む。その日は霊剣を持っていはいない。

 式神は縊鬼を完全に捕捉していたが、縊鬼はとあるビルの壁の辺りに潜り込んで行った。

 朧木はその壁の前に立つ。


「ふぅむ。こんなところにも異界行きの穴が開いているのか。おかしい・・・東京はかつて徳川家康が江戸を開発する際に、南光坊天海が陰陽道や風水を駆使して霊的加護のある都市を構築した。霊的結界は日本でもトップクラスの堅牢さを誇る都市のはずだ。それがなぜこんな霊的ほころびが・・・。今回はこの穴を追っていくわけにもいかんな。封じさせてもらおう」


 朧木は懐から一枚の霊符を取り出した。冒頭に『勅令』と記されている。天からの命令としての符字や符図も記されている。


「急々如律令」


 朧木は陰陽師が良く唱える呪文を唱える。それは霊符にも記されていた。天からの勅令を速やかに実行せよという意味である。

 朧木は霊符を異界に繋がる穴に張った。とたんにパキッという音が鳴る。


「これでこの穴はもはや意味を成さないだろう。さて、縊鬼の行き先はおおかた見当がついている。縊鬼が逃げ込むとしたらかつての喰違門。麹町の喰違見附跡だろう」


 朧木は異界の穴だった壁を離れ麹町を目指す。

 目的地に辿り着いた頃にはあたりは夜となっていた。

赤坂のかつての喰違門だった場所に朧木は来ている。辺りは人気が少ない場所だ。


「出てこい縊鬼。隠れているのはわかっているぞ」


 朧木の言葉に反応は無い。・・・風の音だろうか。何かが聞こえてくる。


「・・・・・・首を括れ。首を括れ」


 それは縊鬼の声だった。声を識別するや朧木が動く。


「そこだっ! 月魄刃!」


 三日月の刃が空を切る! 果たしてそこから姿を現したのは、件の縊鬼だ。


「ぬぅっ、陰陽師! 存在を知られたからには生かしては返さんぞ!」


 縊鬼が両手を広げる。ばばばっと広がる荒縄。荒縄はあちこちの物に絡みつき、まるで蜘蛛の巣のように展開された。

 ひゅんひゅんと朧木の元に戻る月魄刃。


「もとよりこちらとてお前を野放しにする気は無い! ゆけっ、月魄刃!」


 くるりと回転しながら、朧木は三度月魄刃を放つ! 月魄刃は荒縄にぶつかりぎゃりぎゃりという音と共に軌道が逸れた。月魄刃はあさっての方角へと飛んで行った。どうやら荒縄は妖気に守られている特殊な物のようだ。


「こざかしや、陰陽師。しかし貴様に活路はない。我が絞殺縄地獄に墜ちよ!」


 縊鬼が手をかざし振り下ろすと蜘蛛の巣状に張られた荒縄からひゅんひゅんと縄の先端が飛ぶ!


「ちぃっ、これは!」


 朧木は縄を振り払おうと腕を振るったが、その腕に縄が絡まった、


「我は人に首を括らせる妖怪。首を括るに縄は必要。であれば、我は縄の妖怪でもあるという事だ! そぉれい」


 縊鬼の掛け声と共に朧木の腕に絡まった縄が締め上げる。朧木は完全に動きを封じされた。


「しまった!」


 朧木が腕に絡まる荒縄を振りほどこうとするが、固く締まっていてほどけない。


「ふっふふふ! 数多の人間を地獄に落とせし我が縄を、侮ったがお前の負けよ! 絡み付けい!」


 次々と縄が朧木を襲う! 手に、足に縄が絡まっていく。


「このような妖術も使うとは! 人を誑かして破滅に追い込む卑劣な手段しか使わない陰気な妖怪かと思いきや、意外に意外だな」


 朧木は完全に動きが封じられた。荒縄がぎりぎりと朧木の腕と足を締め付ける。四肢を完全に封じられた格好となった。


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