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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介の受難
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赤坂鬼退治

 さくらは暑い日差しの下を歩いている。ヒートアイランド現象による暑さが彼女を襲う。それは下手な妖怪よりも厄介な相手だった。さくらは日傘を差している。お洒落な薄ピンク色のレースの日傘だった。流石に熱中症対策はしている。


「確か赤坂って言っていたような気がしたけれど、赤坂のどの辺りなんだろう・・・うーん。やっぱり探すのって難しいのかな」


 さくらは辺りを見回した。流石に一目見て怪しいと思えるようなモノは歩いていない。


「そっか。あの子のお父さん。仕事で帰りが遅くなっていただろうから、夜の赤坂で遭遇したんだろうな。夜かぁ。夜の見回りには嫌な思い出が・・・」


 さくらは狼男を探しておかしな男に捕まった過去を持つ。だから夜に一人で出歩くのにはためらいを感じていた。


「見通しが甘かったかー!」


 さくらはつい独り言が口から漏れ出る。即行動に移るからこうなるのだった。冷静に話を分析できていたらわかったことだった。日中には危険は無い。だから魔紗も夜じゃなければ良いというスタンスを取ったのだ。さすがにそこはさくらの安全を考えていたのだった。

 もっともさくらは安全では困るのだ。なぞの妖怪に遭遇しなければいけない。さくらには考えは及んでいなかったが、もし妖怪に遭遇したとしてもその正体を看破はできなかっただろう。だからせめて猫まんだけでも連れてくるべきだったのだ。あの猫はそういうときには大いに役立つのだ。単独行動をしていたのは失敗だった。

 それでも成果をあげようと赤坂の街を巡回する。重度の暑さの中では意識も朦朧としてくるものだ。さくらはこまめに水分を補給しながら赤坂を練り歩いた。

 もうじき夕方になろうかと言う頃、さくらは人に呼び止められた。それは道に迷っていたおばあさんだった。言葉だけで案内しようとしたが、おばあさんは耳が遠くて困難だった為、さくらは直接道案内することにした。そのため、道案内を終えた時には陽も殆ど落ちていた。


「いっけなーい。もうこんな時間かぁ。結局何も見つからなかったな・・・」


 さくらは携帯で時間を確認する。さすがにこれ以降の時間は危険を伴う可能性を考える。妖怪に限らず、の話である。暗くなった道をさくらは足早に駅の方面を目指すのだった。

 街中の喧騒。車の音。様々な音が入り乱れる中、それは唐突に訪れた。

 はじめは遠くで誰かがしゃべっているようだった。それは周りの喧騒に思われた。だからさほど気にかけなかった。だがそれは暗示をかけるようにぼそぼそと続けられる。


「なんだろう。なんかうるさい人がいるな・・・」


 さくらは周囲を見渡すが近くにうるさそうな人はいなかった。まだ人も多い街中だからだろう。油断があったのだ。謎の話し声に意識を集中してしまった。


「何、なんて言っているんだろう」


さくらは耳を済ませる。・・・それは『首を括れ』と言っていた。気がついたときにはさくらは暗示にかかってぼんやりとしていた。対象を意識し続けた事によって、呼び寄せてしまったのである。

気がつけばさくらの周囲に人の気配がなくなっている。完全に街中にあって孤立していた。


「・・・そうだ。私、自殺しなきゃ・・・」


 さくらは光を失った目で、そうぽつりと呟く。彼女はうつろな目でふらふらしている。明らかに尋常ではない様子だ。


「首を括るロープを探さなきゃ・・・」


 さくらがふらりふらりとどこかへ歩き出そうとしている。その時であった。


「月魄刃!」


 どこからともなく三日月の刃が飛ぶ。刃はさくらのすぐ脇を飛びぬけた。


「ぎゃっ!」


 醜悪な悲鳴が上がる。さくらのとなりから赤黒い肌をした悪霊が姿を現した。ぼろぼろの死装束を纏っている。髪はボサボサで振り乱し、とてもまっとうな存在とは思えない。

三日月型の刃は飛んできた方向へと戻った。ヒュンヒュンと三日月の刃を立てた二本指でキャッチしたのは朧木良介だった。


「縊鬼よ。そこまでだ。観念するが良い」


 縊鬼。人に憑依して自殺させるという。憑依されたものは逆らう事ができないらしい。

 縊鬼はさくらからすばやく離れた。朧木を警戒している。


「何かと思えば陰陽師か。くっ、ここはひとまず退散させてもらおう!」


 縊鬼はしゅるりしゅるりと脇道へと滑り込んで行った。


「・・・そうはいかない」


 朧木は一枚の式神の形代を取り出す。和歌の詠唱なしでそれを投げ払い、一羽の使い魔たる式神を召還した。鳥の式神に縊鬼の後を追わせる。


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