朧木の苦渋の決断
だが、朧木には仕事の上での信条がある。それは仕事を安請け合いしないこと。適切な報酬で仕事を請ける、である。これは業界全体のあり方にも影響する。朧木がタダで仕事を請ければ、ともすれば同業者が得られたであろう仕事を一つ潰すことになる。安く請け負ったら請け負ったで相場を下げることになる。それはひいては同業者全員に迷惑をかけることになるのだ。今回は子供の依頼で特例として受けても良かった。だが、もうひとつ思うところがあった。少年たちに人を無償で労使しようとする人間になって欲しくはなかったのだ。ましてやそれが命がけになるかもしれない仕事である。尚の事軽がると受けるわけにはいかない。
「仕事の依頼であるからには報酬を伺おうか」
朧木は無慈悲であるとは承知でこう切り出した。
「えっ、ダイキ。お前いくら持ってる? ボクは三百円かな」
少年達がポケットをごそごそとまさぐる。
「僕は六百円ほど・・・」
二人が硬貨をテーブルの上に乗せた。あわせて九百円弱だ。洸がお金を出そうとしたのは優しさからだった。子供達が御小遣いを精一杯かき集めての頼みごと。しかしである。
「ふぅむ。これでは話にならないよ」
朧木は眼を閉じて首を横に振った。
「そんなぁ!」
洸は泣きそうな顔をしている。朧木としても何かあったら相談してくれと言っておきながらこのようなことになってしまってバツが悪かった。
「僕は仕事で妖怪退治を請け負っている。正当な報酬が無ければ動けないね」
「おじさんのケチンボ!」
「なんとでも。こればかりは譲れないよ」
朧木は子供の話を取り合わない大人としての態度を取った。
「なんだい、なんだい! おじさんなら何とかしてくれると思ったのに! いいよもう。ダイキ、行こう」
洸はダイキを連れて探偵事務所を出て行った。騒々しさの後に静けさが戻る。
その沈黙を破ったのはさくらだった。
「所長。おとなげなーい」
「むぅ、これは危険な仕事となる。安請け合いは出来ないよ」
「ちっちゃな子の頼みごとだったんですよぉ?」
「子供の頼みだったとしても、だ。できる事とできない事がある」
朧木は不機嫌そうにソファで反り返った。こういう対応を取る事は彼も不本意だったのだ。だが、それもこれも考え抜いた上でのことだった。
「所長。所長のひとでなし! 見損ないました!」
さくらはぷんぷん怒っている。子供の側に感情移入しすぎているところもあったが、元々感受性豊か過ぎるのだ。朧木の態度に納得できていないのも大きい。
「むむむ・・・」
朧木が返す言葉を失った。
「それじゃ、私は上がりますね。御疲れ様でした」
挨拶も手短にさくらは帰っていった。事務所に乗り残されたのは朧木一人・・・ではなかった。棚の上でのそりと動く影。猫まんだった。
猫まんはすとんと床に降りる。
「良介や。全くお前にも困ったものだよ。あんな事を言って、仕事としては引き受けなかったってだけじゃないのさね」
朧木はそこでようやく笑った。
「仕事は仕事。プライベートではどうするかはまた別の話さ」
そう。朧木は仕事としては依頼を受けなかっただけだった。嫌われ役を買って出ただけのことである。
もっとも、さくらはそのことを知らない。




