少年の頼み事
さくらが慌てて接客に出る。ドアを開けた先にいたのは先日家出をして事件扱いにまでなっていた洸と、もう一人同年齢と思われる少年だった。
「すみません。朧木探偵事務所はこちらでしょうか?」
洸がさくらに尋ねる。
「はい。そうですが、・・・もしかしてお仕事のご依頼でしょうか」
流石に小学生が仕事の依頼なんて無いだろうと思いもしたが、とりあえず尋ねるさくらであった。
「そうです。朧木良介さんがこちらにいると聞いてきました」
「・・・そうですか。どうぞこちらへ」
さくらは洸たちを中に通した。洸の顔を見た朧木が軽く驚いている。
洸たちは応接室のソファに座った。朧木も対面に座る。
「やぁ。洸君。あれからお母さんとはうまくいっているかい?」
「うん! おじさんの言うとおりお母さんがちゃんと僕の話を聞いてくれるようになったんだ」
「ふぅむ。それは良かった。君を無事親元まで送り届けられて良かったと思うよ・・・今らなそう思える」
「あれからお母さん、ちゃんと料理とか掃除とかするようになったんだ!」
なら、それまではどうしていたのだろうかと朧木は思った。見てきた家の様子を思い出す。確かに掃除とかはしていなさそうだった。それが改善されたのだ。一般家庭と比べると当たり前の水準になったようにも思われるが、それは少年にとっては切実な変化だった。
「さて、今日はどのようなご用件かな?」
朧木はちらりと洸の同行者をみた。
「うん。実はおじさんに相談したいことがあって・・・。ボクの隣にいるのはダイキ。ボクの友達なんだ。実はダイキに大変なことが起こってさ・・・この話はダイキから直接した法がいいかな?」
洸に促されてダイキは頷いた。
「はじめまして。ダイキといいます。洸とは同級生です。実は洸が行方不明になる前に大変な出来事がありました。僕のお父さんが自殺したんです」
いきなり重い話が始まった。朧木はどんな相談になるのだろうと思いながら話を聞いている。
「ふむ。それは・・・大変だったろう」
重いもがけない話の方向に、朧木は返事を返すのがやっとだった。
「はい。御葬式とかが終わってようやく落ち着いてきた先に洸が家出から帰ってきて、それで僕相談したんです。実はお父さんが自殺する直前に、『首を括れ』という声が聞こえると言っていた事を。お父さんは自殺するような人間じゃない! これはないかある、って」
洸は頷いた。その表情はとても真剣なものだった。普段はとても仲がよいのだろう。だからこういった話も親身に聞いていたのだ。
「ダイキ、前に言っていたもんな。お父さんが仕事で忙しくなって、中々家に帰らなくなっていた頃にそんなことを聞いたって」
「うん。お仕事が大変だとは聞いていたけれど、それでお父さんがノイローゼになって自殺しただなんて、僕はとてもそうは思えなくて・・・」
朧木は黙って話を聞いている。
「おじさん。これって妖怪の仕業だったりしない?」
「ううむ。話を聞いている限りではなんとも言えないな。ダイキ君のお父さんはその声をどこで聞いたんだい?」
「お父さんは赤坂のオフィスで働いているんだけれど、その帰り道でよく聞こえたって言っていた」
「赤坂・・・そうか。あの辺りか。ふむ」
「おじさん、なにか心当たりあるの?」
洸が前のめりになって朧木に尋ねる。
「全く無いわけではないが、確証が無い。お父さんの死因が妖怪によるものだというのを今から立証するのはたぶん難しい」
「なぜさ!」
洸が興奮したように立ち上がる。
「おそらくは直接手を下すタイプの妖怪ではないのだろう。妖術で人を誑かすタイプと見た。その場合、証拠や痕跡は残りにくいんだ」
「でも、やっぱり思うんです。お父さんが死んだのは何かがおかしいって。お願いです。お父さんの死んだ原因を解明してくれませんか? そして、できるならばお父さんの敵を討って欲しい」
「むぅ、中々困難な仕事の依頼だな・・・」
「おじさんでも大変な仕事なの?」
朧木は迷った。これは立派な妖怪の仕業だ。それもかなり危険性のある相手と見える。ならば正式に仕事の依頼を受けなくてはならない。だが、依頼人が子供であるので報酬をふっかけるわけにはいかない。




