円満なる解決
後日。朧木探偵事務所にて。朧木が暇そうに所長椅子に座っている。前回の仕事を終えてしばらく新しい仕事は来ていないのだ。朧木はとくにやることもないので新聞を読んでいたが、それも読み終えていよいよやる事をなくしていた。仕方が無いので未使用の式神の型代を机の上に並べて確認している。この作業にとりわけ意味は無い。
さくらも慣れたもので、朧木を気にせず事務仕事に精を出していた。
「そういえば所長。この間の子供さんはどうなったんですか? 聞けば親と不仲で家出したって話じゃあないですか」
「どうしたもこうしたもないよ。ほんととんでもない母親だよ。家出事件の原因となった親との不仲は僕にも解決できそうに無い」
「所長にも出来ないことってあるんですね」
「おやおや。僕だって普通の人間だよ。それに僕は家庭相談の類は受け持ってはいない」
「所長って何でも屋だとおもっていました」
「なんでもはないよ。なんでもは」
さくらは不思議そうな顔をする。
「えー、十分何でも屋ですよぉ。表の御仕事なんてまさにそれじゃないですか」
「あー、うん。確かに似たようなことはしているかもね」
「それでもお仕事はないから大変ですね!」
さくらはふふっと笑った。
「笑い事じゃないけどねぇ。ま、世の中平穏で何よりだよ」
朧木も笑った。彼は仕事が無くとも世の中が平穏であればそれでよいのだ。
と、そこに急に電話が鳴った。さくらが電話に出る。
「所長。児童相談所の玖珠木さんからお電話です」
「うん、わかった」
朧木は電話を代わった。
「御久しぶりです。朧木さん」
軽やかな女性の声。どうも良い知らせの予感をさせる雰囲気だった。
「えぇ、そうですね。いかが致しました? まさか、また少年が家出したとかで無いでしょうね!?」
朧木はたぶん違うだろうなと思いつつも探りを入れてみた。
「いえいえー。それは大丈夫ですよ。それより、朧木さんは少年と母親の仲が悪い事をたいそう御気になさっておいででしたが、どうも状況は変わってきまして」
朧木はおやおやと思った。
「それは一体どういうことでしょうか」
「その後、洸君に色々話を聞かせてもらっているのですが、母親との関係は良好になったらしいですよ。嬉しそうに元気に話していましたので間違いないでしょう」
「それはすばらしい! どういう心境の変化だったんでしょうね!」
「そうですねぇ。子供さんがしばらく行方不明になったので、母親も思うところがあったのではないでしょうか」
「うーん。あの母親に限ってそれはなさそうですが・・・」
第三者達にはまったくわからない変化。だが、少年と母親の関係性が改善されたらしいことは確かだった。
「まぁ、ともかく洸君の生活環境が改善されたのは良い事です。今後も経過を見守りますが、いずれは我々が不要になる日もそう遠くないかもしれません」
「そうですね。良い傾向です。僕もご協力できた事、嬉しく思います」
「えぇ。ともかく、今回は仕事の依頼を引き受けていただきありがとうございます。聞いたところによると怪異がらみの特殊な事件だったとか。朧木さん抜きでは解決は難しかったでしょう。ではでは、失礼致します」
がちゃりと電話は切られた。
「ふぅむ。丼副君。どうやら少年は報われたようだぞ。母親との関係は良好になったらしい」
朧木の表情はとても嬉しそうだ。
「なんだ。自然解決する問題だったんですね!」
「むぅ、とてもそうなるとは思えなかったのだが」
「所長の思い過ごしだっただけなんじゃあ」
「あれを見て思い過ごしと言うにはさすがになぁ」
朧木はどうにも腑に落ちなかった。
「それじゃあ、ちょっと私は郵便局まで行ってきますね」
さくらは社用にて外出する。後には朧木がひとり残された。
「うぅむ、これが迷い家の伝承に添えられている出来事に関わることなのかな」
朧木は所長用の椅子をくるりと回して窓側を向いた。外は明るい日差しだ。今日もきっと暑い日であることを思わせた。
静かな事務所内で朧木は一人笑顔を作ったのだった。




