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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介の受難
80/228

帰宅

 その後は妖怪に出くわすことも無かった。闇の中を切り拓いて朧木達は異界を脱出する。

 表の世界。人間の世界に出る。既にあたりは夕方となっていた。日も落ち少しは涼しくなっている。


「良介や。後は子供を親元まで送り届けるだけだろう。わたくしは先に帰らせてもらうかいね」

「ありがとう、猫まん。助かったよ」


 洸は猫まんにバイバイと手を振った。猫まんはとっとこと歩き去っていく。


「さて、洸君。おうちに帰ろうか」

「はい・・・あまり気が進まないな・・・」


 今回のはあくまで少年の家出である。その事情は変わらない。無事帰れるとしても、それが本当に良い事なのかはわからない。


「僕に何か力になれればよいのだけれど・・・あぁ、僕にできる事はやっておくか」


 朧木は少年が事件に巻き込まれた可能性を考慮されて警察が捜索していた件を思い出し、知り合いの警察関係者に電話をかけた。少年の家出だった件と怪異が絡んでいた件、そして少年の無事を伝える。こうすれば警察から親元へと先に連絡は行くだろう。朧木は警察への協力の形を整えた。あちこちの方面への朧木の配慮である。


「ねぇ。おじさんって何者なの? 化け物をあっという間にやっつけちゃうし、普通の人って雰囲気じゃあなさそうだった」


 朧木は笑った。


「僕は陰陽師。普通の人間だよ。妖怪がらみなどの特殊な案件を受け持つ事もある探偵なのさ。今回の件は一応君が行方不明になった事件の捜査協力という形で手伝わさせてもらっている」

「すごいや! いつも妖怪と戦ったりするの?」


 少年は目を輝かす。朧木がヒーローっぽい何かと理解したようだった。


「たまに戦う事もあるよ。今回はたまたま遭遇しちゃったけれどね。もっともいつもいつもあんなものと戦っているわけじゃあないよ」

「ねぇねぇ、どうやって戦うの? あの月魄刃っていうのはなぁに?」


 少年の興味は尽きない。洸は月魄刃を使う朧木の真似をした。年頃の少年らしく、バトルモノっぽいものに興味津々のようだ。


「そうさねぇ。月魄刃というのは己の魂を練り上げて作るかりそめの刃さ。道教というものの術なんだ。昔友人に、とてもとても大事な友人に教えてもらった技なんだよ。もっとも今回のように剣で戦う事もあるし、陰陽道の術で戦う事もある。得意なのは式神という使い魔のようなものを召還して戦わせる事なんだ。まぁ、僕の流派は戦いの流れを変えるのを極意とするらしいので、それらは本筋の戦い方じゃあないんだろうけれどさ」

「かっこいいー! もっと戦うところも見てみたいな」

「それは危ないよ。妖怪の中には人間に平気で害をなす輩もいるからね。猫まんみたいなのばかりじゃないんだよ」

「いいなー。ボクも術を使えるようになりたい!」

「はっはっは。あいにくと僕は弟子をとらない主義なものでね。残念でした」

「ちぇっ、ケチ!」


 少年は頬を膨らませていじけだした。


「君には何か将来なりたい職業とかはあるのかな」

「うん。おまわりさんになりたい」

「ほほう。法の番人か。それも立派な仕事だね」

「悪いやつらをやっつけたいんだ!」


 少年は少年らしい夢を語る。


「悪者、か」


 朧木は遠い目をする。悪という概念について考えていたのだ。


「そう。悪いやつ。人間でもいいし、妖怪だっていい。僕は正義の味方になりたいんだ」


 ヒーロー願望の強い少年だった。


「ならばどちらにしてもしっかりと勉強しないとね」

「うーん。ボク、勉強が苦手なんだ・・・」


 複雑な家庭環境が災いし、少年は学業に専念できていなかったのだ。それを朧木は知らなかった。


「はっはっはー! 猫まんは勉強を見ることもできるから、こんどあいつに相談してみたらいい。僕も昔は猫まんに勉強を見てもらっていたんだよ」

「おじさんが子供の頃からあの猫ちゃんはいるんだ」

「あー、あいつは御年寄りなんだ。今度会うときに猫用のおやつでも持っていくと喜ぶと思うよ」

「へぇ、ボクと同じで食い意地が張っているんだね!」


 と、何のかんと会話をしながら歩いていると、少年の家が見えてきた。家が近づくに比して少年の表情は暗くなっていく。そのことに朧木は気がつく。


「・・・大丈夫。いつかきっと道は開けるさ」


 朧木は少年を励ます。今の朧木にはその程度のことしかできなかった。


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