迷い家
と、そこに朧木の背後から猫まんが現れる。
「困った子だねぇ。家出どころか世界出をしてしまうなんて。異世界転移はラノベ主人公がする程度にしておくものだよ」
猫まんの姿に洸が驚く。
「うわっ、猫がしゃべった! ニャースみたい!」
「洸君。こいつは猫又の猫まん。ポケモンじゃあないぞ。ここはこんなやつがうろうろする場所なんだ。危ないよ」
だが、こんなやつといわれるほどには猫まんには危険は無い。
「そのとおり。良介の言うとおり、人間の子供は人間がいるべき世界に帰るのが一番だからねぇ」
「・・・本当にここには化け物がいるの?」
「いるわけさね。そもそも君が住み着いていたこの家も迷い家という怪異なんだ。・・・一時的に立ち寄った人の伝承はあっても、住み着いた人の話は無かったかなぁ」
猫まんが記憶を思い巡らせながら語る。
「うーん。でもボクは家に帰りたくない・・・どうせお母さんも僕がいなくなったほうがいいんだろうし・・・」
少年の言葉は残酷な真実だ。少年には帰るべき場所が無いのだ。
「洸君。友達はきっと君のことを心配しているよ」
朧木が少年を諭す。
「ボクにはあまり友達は居ないけど・・・ダイキはボクの事を気にしているかなぁ・・・」
幸いにして、少年には一人友達が居るようだった。
「そうだよ。きっと君のことを心配しているはずだ」
だが、朧木はだから帰ろう、とまでは言えなかった。全く心配もしていない親元へと返したところで、少年が幸せになれるとは思えなかったのだ。だが、その点を解決できるような力は朧木には無い。だから無責任に帰ろうなどとは言えなくなったのだ。
「やだなぁ。帰りたくないなぁ・・・」
朧木と猫まんは顔を見合わせた。と、猫まんがふと何かを思いついたようだ。
「良介や。迷い家といえばひとつ言い伝えられている事があるだろう」
「迷い家の言い伝え・・・そうだ! 洸君。この迷い家の中の物を一つ持ち帰ってみてはどうだろうか」
どうやら朧木は何か閃いたようだった。一つの提案を持ちかける。
「えっ、でも人のものじゃないの?」
「ここはこういう怪異なんだよ。だから大丈夫なのさ。ここの物を一つ持ち帰ると、持ち帰った人は幸せになると言うらしい」
「そうなんだ・・・うーん。じゃあこれにしよう。ここに居る時に使っていた食器なんだ」
洸は小さな女の子用のピンク色をしたプラスチックの茶碗を手に取った。
「それでよい。もしかしたら、君の境遇が変わるかもしれない。ここの物を持ち帰ったものは道が開けるという」
「なるほど。確かにそのような伝承であるかいね。故事に習うのはよかね」
猫まんは満足そうに頷いた。
朧木は色々と考えていたようだが、どうやら考えがまとまったようだ。
「洸君。僕も君の友達になろう。困ったことがあったらなんでも相談してくれ。猫まんも面倒見てくれるよな?」
猫まんが少々複雑な表情をした。
「子守かい・・・経験が無いわけではないが、・・・まぁある程度分別はつく年頃だから大丈夫かいね」
猫まんには小さな子に大変な目に合わされたトラウマのごとき経験があったのだろう。
「と、いうわけだ。僕は君を家まで送り届ける義務がある。だが、それは根本的な問題を解決しなくては意味をなさないことだ。だから僕にできる事があったらなんでも言ってくれ!」
「・・・うん。おにぃ・・・おじさんもいい人だね」
「うっ、たしかにそういわれる年齢ではあるが、わざわざ言い直さなくても・・・」
軽くショックを受ける朧木であった。
「良介や。ここも長居は無用」
「そうだな。帰り道で妖怪に出くわすかもしれない。気をつけて帰ろう」
朧木は霊剣を握りなおした。
朧木達は迷い家を出て、真っ暗闇の異界を歩く。他の妖怪がいるかもしれない先の見通しの悪い世界。朧木は先頭を切って歩き、少年の行く手を切り拓かんと歩く。彼は少年の母親との問題もこのようにしてあげられたならばと思わずにはいられないのだった。




