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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介の受難
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少年を見つける

 境界線を越えた先には現代風の町並みが続いていた。ただし空は真っ暗闇であり、まるで夜のようだった。であるにもかかわらず、明かりの灯った建物は無い。


「これは異界だ。あの世とこの世の境目にできるという不確かな世界さね」


 猫まんは周囲の様子を観察しながらそう呟いた。


「妖怪達が移動の手段に使っているという世界か。これはいけないな。とても子供一人が出歩いていていい場所じゃあないぞ」

「たしかに危険さね。しかし、この分では子供の行き先がわからなくなってしまうじゃあないかとね」


 猫まんが朧木の顔を見上げた。その顔は不安そうな表情だった。


「ヴォルフガング君を連れてこなかったのが仇となりそうかな・・・式神達も境界線をくぐらせた。・・・おや、一点だけ明かりが灯った場所があるぞ」


 朧木の視野の眉間部分。式神の視界を通してみる異界の中に、確かな光が一点だけあった。

 朧木達はその光を頼りに向かった。

 光の元にあったのは一軒の古びた民家だった。周りが現代風のビルなどであるのに雰囲気が異なる。

 朧木は意を決して玄関をたたいた。古びた引き戸の玄関だ。


「ごめんください。誰かいらっしゃいませんかー?」


 朧木は家の中に呼びかける。だが、何の反応も無い。


「良介。ここは異界。人家とも思えんのだから、お邪魔しても良いんじゃあないかいね」

「ふむ。確かにそうかもしれないなぁ。よし、あがらせてもらおう」


 朧木は玄関をガラガラと開けた。中には電気が通っているのか明かりが灯っている。朧木達は中に進んだ。・・・廊下には誰も居ない。居間に向かったところ、出来立ての料理がちゃぶだいにずらりと並べてあった。料理からは湯気が出ている。まるでつい今しがたまで誰かがここに居たかのようだった。

 猫まんが目をカッと開いた。


「良介や・・・これはともすると迷い家じゃなかとね」

「迷い家。山で遭難した時に行き当たるという無人家屋の怪異か」

「そう。東北の伝承になるかいね」

「ここが普通ではない世界の民家となると、その可能性もあるかね」


 と、二人の背後からごとりと物音がした。猫まんがすばやく朧木の後ろに隠れる。


「誰だ!」


 朧木は即座に振り返り、手にしていた霊剣の布を取り払う。すらりと霊剣破軍があらわになった。そして物音がした方向へと切っ先を向ける。


「うわわっ、ごめんなさい・・・」


 慌てて出てきたのは背の小さい人間の子供だった。それは朧木が預かっていた行方不明児童と同じ顔だ。もっとも、その身なりは着替えをしていなかったのだろう。選択もしていなかったのであろう。薄汚れていた。或いは家に居た頃からこうだったのかもしれないが・・・。


「もしかして、行方不明になっていた洸君かな?」


 洸はこくりと頷いた。


「はい、そうです・・・」


 朧木の呼びかけに洸は素直に返事をした。朧木は掲げていた霊剣をおろす。


「大丈夫かい? 君はなぜこんなところに?」

「・・・すみません。僕はここがどういうところかはよくわかっていないです。だけどこの家を見つけて、ここは食事が勝手に出てくるんで、秘密基地として使ってました」

「秘密基地か・・・。しばらく家を不在にして、親御さんも心配しているんじゃないかな」


 朧木はつい一般的な想定で話をしてしまった。


「それはありえない!」


 子供はそう叫んで表情を曇らせた。朧木はしまったという表情をした。この子の親がどういう親かは見てきたというのにそれを失念していたのだ。


「あぁ、ごめんね。僕は児童相談所から依頼を受けて君の捜索をしていた探偵だ。親御さんのこともある程度は知っている。そのなんだ。君が居なくなった事はニュースにもなって大事になっている。だから帰るべき場所へ帰ろう」


 朧木は帰るべき場所と言っておいて、それが本当に少年の家が帰るべき場所なのかどうか迷った。


「いやだ!」


 その答えも朧木には予想できていた答えだ。やはり率先して家出したのだろう。


「・・・ここは危険なんだ。妖怪が通り道に使っている世界だ。人間の居ていい世界じゃあない」

「妖怪? 僕は妖怪なんて見たことないし、ここでも見かけたこと無いから大丈夫だよ!」


 妖怪に人権が認められる世界ではあるが、一般人が関わる機会があるかというとそうそうなかった。だから少年も大して妖怪を危険視していなかった。


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