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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介の受難
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人望をなくす朧木

「わたくしの生まれかい? そいつは江戸だねぇ」

「江戸」


 さくらがおうむ返しに答える。


「そう、江戸。東京がまだ江戸と呼ばれた時代の生まれですから」

「猫まんは生まれた時から化け猫をやっているの?」

「生まれた時はただの猫だったよ。今と違ってにゃうにゃうとしか鳴けなかったねぇ」

「化け猫ってどんな猫でも進化する可能性があるんだ!?」

「どんな猫でもなるかは知らないけれど、わたくしは長生きしているまに猫又になったねぇ。長生きする動物は化けるとはよく言うからねぇ。まぁ、人間も長生きすれば化けることもあるかもしれませんけれど」

「残念っ! 人間は化けません!」

「おやまぁ、人間が何かに化ける話もごまんとあるねぇ。この子ったら時折猫の皮を被るからねぇ。猫娘にでもなるんじゃないかいね」

「何か言いたげね。しかし朧木家の人はどこでこんな猫を拾ってきたんだろう」

 

 さくらのセリフに朧木は笑った。


「僕も猫まんがうちに来た由来は知らないね。そんな朧木家だが大昔は京都にいたらしいが、流れに流れて東の国まで来たんだそうだ。これも猫まんに又聞きした話だけれどね。猫まんは朧木家の生き字引さ。代々当主とともに行動してきたからね。頼りになるよ、ほんと」

「その代わり戦うのは無理だから戦働きは勘弁だよ」

「猫まん。火を噴いたりとか出来ないの?」

「なんだいそれは。どんな化け物かいね。猫又は火を使うなんて話もあるが、わたくしは明かりを灯す程度が関の山さ」

「丼副君。猫又にも色々いるのさ。それこそ化け猫と言うにふさわしいやつから、屋根の上で踊っていたら人に見つかって矢を射掛けられて転げ落ちたやつまでね」

「ぴんきりなんですね。で、猫まんはどっち?」


 ご馳走を前に浮かれて踊り狂う猫又であった。


「自分以外の猫又とはあまり交流がないからなんともいえないねぇ。あぁ、たまに化け猫の猫会はあるから出席はしているよ。どいつもこいつも狸のように腹黒い連中さねぇ」

「丼副君。猫はむかしむかしのそのむかし、家狸と呼ばれていたし、似たものと捉えられていたかもね」

「そうですよね。ドラえもんも青い狸とか言われていますもんね。まぁ、猫には見えないと思いますけれど」

「はいはい。それで良介。事件の捜索はどうするのかいね」

「これからは足を使った捜索となる。主に子供の目撃情報が出た街の捜索さ。必ず何かある。子供の足だ。そんなに行動範囲は広くないだろう。今はヴォルフガング君がやってくるのを待っていたところさ。彼が来れば即座に出発だ」

「子供がどのような状況かもわからないから捜索を急ぐんですか、所長」

「あぁ、そうだ。もしかしたら危険な状況にある可能性も無きにしも非ずだ。だから今夜中には足取りを掴んで見せるさ」

「子供の側の視点で考えていませんでした。確かに行方不明中にどのように過ごしているのかはわかりませんものね。急がなきゃ」

「そういうことだ。ま、目撃情報が出るという事は無事に過ごしているという事だからあまり危険はないだろうと僕はにらんでいるけれどね」


 と、そこに玄関が開かれる。やってきたのは人の姿を取っているヴォルフガングだった。


「遅れてすまない。またせたな、メイガス」

「・・・まるで物語の主人公のような登場の仕方ですね」

「ははは! 丼副君。彼こそ今回の児童行方不明事件の解決の鍵を握る男さ。間違いなく彼の嗅覚がいなくなった少年を見つけれくれるはずだ!」

「なぁ、メイガスよぉ。オレを警察犬か何かと思っていやしねぇか?」

「いや、すまない。君の能力を僕は高く買っているんだよ。さぁ、これが手がかりの品だ」


 朧木は借りてきた児童の服を取り出した。


「くっさ! 洗っていねーのかよ!」

「そこは僕もどうかと思っていたんだが、君が臭いを元に追跡するならこの方が好都合かと思ってあえてこれを選んできたんだが」


 ヴォルフガングは臭さのあまりにうっすらと涙を浮かべて朧木を睨む。


「後で覚えていやがれよ!」

「ま、まってくれ。捜査のために良かれと思ってだな・・・」


 朧木は慌てて弁明しようとした。


「所長。それはあんまりです。それで捜査をやる人の身にもなってみてください」


 朧木探偵事務所の構成員二人からの人望をなくしかけている朧木であった。


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