猫まんの知恵袋
古びた建物。朧木探偵事務所の中である。さくらは猫まんと御留守番をしていた。そこに朧木が帰ってくる。
「良介。何か見つかったかいね? ・・・なんだか臭うよ」
猫まんが顔をしかめながら朧木に近寄った。
「あぁ、行方不明児童の服を借り受けてきたんだ。これからこれを使ってヴォルフガング君の協力を得て捜索に当たろうと思う。彼の力が在るのが大きいよ」
「良介は人の運に恵まれているねぇ。護法童子に見放された時はどうしたものかと思ったが、なかなかどうして優秀な従業員に恵まれているねぇ」
「ははは・・・その話は勘弁してくれよ。僕は修験者ではないからね。たいして修行らしい修行はしていないから愛想を尽かされてしまったんだよ」
「まぁ、そこはしょうがないよねぇ。良介は仕事が忙しいのだから」
「生活も掛かっているからね」
「それでも人運に恵まれているよ。そうでなければ、今回の事件ももっと苦労しているだろうことですから」
「戦闘員としても優秀。探偵としてもすばらしい能力を持っている狼男君に協力してもらえているのは確かに幸運だよね。まったく、ヴォルフガング君様様だよ」
と、そこにさくらが冷たい緑茶を持って現れた。
「御疲れ様です。所長。どんな様子でしたか?」
朧木は緑茶をさくらから受け取った。
「あぁ、思ったよりかわいそうな境遇の子供だったよ。だが、これで断然家出の可能性は出てきた。やはり僕はこの線で捜索するよ」
朧木にとって不快な相手と会って来たのだろう。目つきが少々鋭くなっている。
「所長。なんだか不機嫌そうですね」
「そう見えるかい、丼副君。そうかもしれないね。僕は子供の心配をしない親なんていうものには始めて出会ったよ」
「どんな母親だったんですか?」
「どうもこうもない。なんとか捜索の協力を漕ぎ着けてこれたような相手だったよ。子供の心配より男と話すことのほうが大事だったようだからね。あれではいなくなった児童も浮かばれないよ」
「うーん。典型的なあれですかね」
「典型的なあれといわれてもいまいちよくわからないが、とにかくなぜ児童相談所のほうからの依頼だったのかはわかったよ」
「で、その子供さんは見つかりそうなんです?」
「あぁ、そこは任せたまえ。必ず見つけ出して見せるとも」
「また式神の簡易召還とかいうのをたくさんやるんですか?」
「あれは費用が掛かるからねぇ。今回はどうしたものかな。いかに経費をかけずに事件を解決するかも経営者としてのうでの見せ所だよ。・・・決して手を抜いているわけではないぞ!?」
さくらがじとーっとした眼で見つめていることに気がついた朧木は慌てた。
「打てる手は尽くすというのが所長だと思っていましたけれど」
「確かに一定レベルで有効な手段ではあるがね」
「今回の事件。妖怪の仕業とかではないんですか?」
さくらが頬に指を当てて尋ねる。本人に自覚はないが、中々あざといしぐさだった。
「可能性がないわけではない。猫まん。今回のように子供が攫われるような事件。考えられるとしたらどのような妖怪の仕業がありえる?」
猫まんは目をくわっと開いた。
「そうさねぇ。一般には神隠しがまずは疑われるよ。忽然と姿を消してしまう現状さね。妖怪の名としてあげるなら隠し神というやつさね。それから東北地方では油取りという妖怪がいたねぇ。子供を誘拐してその油を搾り取るというよ」
「うわっ、何その妖怪。こわっ!」
さくらが思わず身震いした。
「子供を攫うようかいと言うのは多くてねぇ。たとえば青森にはかますおやじという妖怪がいて、泣いている子供を見つけると攫ってしまうのさ」
「ふーん。今回のケースに当てはめるとありえるのか。猫まん。続けて」
さくらは相槌を打ちながら話の続きを促した。
「あとは雨女とかかねぇ。雨乳母とも呼ばれているよ。雨を降る妖怪で雨を呼ぶ神とも言われている。信濃の国では雨の日に訪れる神が堕落した姿だといわれている。この種の妖怪も子供を攫うという。一説には幼子をなくした女が妖怪になった姿とも言われているからねぇ。とにかく列挙すればごまんといるよ」
「ねぇ、猫まん。信濃の国ってなぁに?」
さくらが尋ねる。
「現在の長野県の事さね。まぁ、ここから距離はあるが妖怪も移動することもあるからねぇ。東京にいてもおかしくもないさねぇ」
猫まんは目を細めた。知恵を絞る時とか何かを思い出そうとする時は眼をカッと開く癖があるらしい。
「妖怪の仕業もありえなくもないか。確かに妖怪の関与も疑うべきだったね。猫まん、ありがとう。面倒なのは生きた人間の仕業の場合だが、現在は怪しい動きをする人間の目撃情報などは出ていない」
「妖怪の仕業なら所長の出番じゃないですか!」
「まだ妖怪と決まったわけでもないが・・・まぁ、一応式神の召還符も持って行くか。何があるかわからないものな」
「そうさね。準備はちゃんとしておくのがいいですからねぇ」
「そういえば妖怪にも出自ってあるんですね。ねぇ猫まん。猫まんはどこの出身なの?」
さくらが猫まんの顔を覗きこんで質問をする。




