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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介の受難
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人探しの依頼

「と、おっしゃいますと?」


 朧木は亜門の腹積もりを探りながら返事を返す。


「君に仕事の話を持ってきた。話の出所は児童相談所であり、とある問題から力を借りれないかと相談を受けている。もっとも、今回の件はさすがに怪貝原議員の御手を煩わせるものとも思えぬゆえ話は通しておらんがな」


 つまり、こなしたところで朧木は恩人の覚えがめでたくなるわけではないと暗に伝えている。そして・・・。


「朧木さんに仕事の話というのは、児童相談所で相談を受けていた児童の一人が行方不明になったというのだ。この街中で。これはテレビ等のニュースにもなっている」


 朧木は記憶を遡る。確かに児童が行方不明になったというニュースは少し前に見ていた。


「なるほど、人探しと言うわけですね」

「そうだとも。君は表稼業で人探しもやっている。適任と思ってこの話を持ってきた。なに。きちんとした報酬の出る仕事でもある。君は警察関係者とも懇意にしているだろう。彼らと協力して行方不明になった児童を探してもらえないだろうか?」


 朧木は思わず舌を巻いた。してやられたといった思いだ。亜門は朧木に仕事の斡旋をしているという姿勢は崩していない。その上で対応に時間が掛かりそうな事件の話を持ちかけている。これは亜門が対朧木用の布陣を整える間に他の事ができないように牽制する意味もある仕事の依頼だ。ほんとに困った事に、亜門は朧木と不仲な事を除けば非常に優秀なのだ。

 朧木には亜門の思惑が透けて見えていたが、しかし断るような真似等しない。なぜなら、それは困った市井の人間からの相談であるからだ。


「わかりました。御引き受けいたします」


 朧木の返事に迷いはなかった。


「そうであろう、そうであろう。ここに今回の事件のあらましと関係者各位の連絡先がある。君は実に優秀だ。きっとこの事件も解決してくれるであろうことを祈っているよ」


 亜門の腹芸、ここに極まれり。内心自分の策どおりに話が進んで上機嫌でなのである。仕事がうまくいこうがそれは当然。失敗したら槍玉に挙げるつもりなのは明白だ。

 亜門は鞄から書類を取り出して応接用のテーブルの上に置いた。朧木はそれを受け取った。


「・・・亜門さん。毎度御仕事を斡旋して頂きありがとうございます。今後とも御引き立てのほど、よろしくお願いいたします」


 朧木は複雑な胸中であったが、きちんと亜門に礼をした。少なくとも正すところは正す。相手にいささかの問題があろうとも。


「ふむ。・・・これも怪貝原議員を思えばの事。君が活躍すればそれはひいては怪貝原議員の評価ともなるのであるからな」

「亜門さんの怪貝原議員への深き忠誠、並ぶ者はいますまい」


 朧木は亜門の自分への仕打ちも怪貝原議員への忠誠から来ていることは知っていた。だから感心しているのだ。的確適切な選択で自分を追い詰めてくる亜門という有能な男を。そうであるからこそ朧木は亜門と同じ方向を向いて仕事を出来ないことを悲しんだ。


「おだててくれてもこれ以上は何も出んぞ。さて、私は帰るとしよう。では、朗報を待っている」


 亜門は悠々と探偵事務所を後にした。それはすべての策略が思惑通りに進んだ男の凱旋であった。

 静まり返る事務所内。その沈黙を破ったのはさくらだった。


「私、やっぱりあの人嫌いですっ!」


 感情表現がストレートだった。さくらは朧木が冷遇されているのが未だに納得できていないのだ。様々な事件で活躍している朧木を見ているからこそ尚更だ。


「・・・まぁまぁ。こうやって御仕事を運んできていただいているんだから」

「所長は悔しくないんですかっ!」


 さくらの怒りは収まらない。


「僕としても内心思うところはあるよ。だが、亜門さんの考えに間違いは無い。本来は彼こそが怪貝原議員の懐刀と呼ばれるべき存在であるのだろう」

「所長だってたくさん活躍しているじゃないですか?」

「・・・僕のやっている事は与えられた仕事をこなしているだけだ。怪貝原議員の抱える本質的な問題には対応できていない。それをやろうとしているのが亜門さんだ。ほんと、かなりのやり手だよ。あの人は」

「なに怨敵に感心しているんですかっ!」

「怨敵って! ま、今回は僕がやり込められてしまったからね。勉強させてもらおう」


 朧木は早速亜門から渡された資料に眼を通した。

 書かれているのは行方不明になった児童名。家族構成。児童相談所に相談があった履歴。相談を受けていた児童相談所の連絡先と、事件の対応に当たっている警察署の記述、それから事件のあらましだ。

 要約すると、児童相談所に通報のあった一家から、ある日問題の児童が忽然と姿を消してしまったことにある。

 この件では親はあまり慌てておらず、ことを重大視した児童相談所が警察に相談。事件として発覚している。


「家族構成は・・・ふむ。シングルマザー。母子家庭か。行方不明の児童は小学六年生の男児。三週間前に忽然と姿を消す。行方不明事件として地元警察は追っているが、その後の進展なし。・・・三週間か。子供が一人だけで生きていけるような期間ではないな。これは誘拐を疑った方がよいレベルだが、特に怪しい目撃情報や電話もなしか」


 朧木は最後に書かれていた内容に気を取られた。それは、3日前に一家が暮らす街の隣町で児童の目撃情報があったという事だ。それは行方不明児童の同級生が目撃している。だが、その時の児童に同行者がいたと言うような話は書かれていない。


「所長。解決できそうな事件ですか?」

「この情報ばかりじゃあなんともいえないよぉ。そうだなぁ。3日前に目撃情報がある。この地点を重点的に探してみるしかないが、それは既に警察がやっている事だろう。ならば僕が探してもたいした情報は見つけられないだろう。それより気になるのは行方不明児童が単独で行動していた点だ。もしかすると、これは行方不明児童の意思で行方をくらましていると考える事もできる」

「・・・なんですか。それ」

「つまり、家出ってことさ」


 朧木は眉間の辺りを揉み込んだ。少々裏がありそうな事件だった。小学生が自分の意思で行動している。だが、三週間も寝食をする場を持っているのも間違いなさそうだ。第三者の手引きがあった可能性が高い。

 朧木は僅かながらに捜索が難航しそうな予感を感じたのだった。


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