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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介の受難
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日常の仕事

 ちょうどさくら達がそんな話をしていた頃、朧木は街中にいた。人間の姿をとっている狼男のヴォルフガングも一緒だった。

 朧木の表情は真剣そのものだ。気配を隠して注意深く様子を伺っている。


「ヘイ、メイガス。首尾はどうだい」


 ヴォルフガングも気配を隠している。元々狼なので気配を隠すのもわけはなかった。


「うん。ターゲットに動きがあるかもしれない。もう少し様子を見よう」


 朧木の視線はとある喫茶店へと向いていた。彼は注意深く出入り口を見張っている。


「なぁ、今回の仕事に俺は必要だったか?」

「ヴォルフガング君。君の追跡能力は今回の仕事にとても向いている。まかり間違ってターゲットを見失ったとしても後を追うことができるだろう」

「あんたも手広く仕事をやっているのさな。不貞行為の調査なんぞ、術師がやる仕事じゃねぇだろうによ」


 ヴォルフガングの質問はもっともだった。朧木は術師としての能力は高い。それは朧木と戦ったヴォルフガングもよく理解していた。朧木は何かを使役するサマナーのような戦い方であるが、とても戦い慣れ手いると感じたくらいだった。


「一応僕の仕事は探偵なんでね。表向きの仕事もきちんと請けている。迷い猫探しもやったなぁ。前回の事件も失せ物が発端だったんだ」

「しかしよぉ、メイガスと狼男が揃ってやる事かい? なんだかオレは気乗りしねーよ」


 ヴォルフガングは呆れ顔だ。


「僕はこういう仕事も市井の皆様の為になる大事な仕事だと思っている。超常現象の対応が必要な仕事なんてのはそうそう発生しないしね。それに妖怪相手に切った張ったばかりなのもねぇ」


 そういう朧木の表情はとても真剣なものだ。自分の考えに一縷の迷いさえ感じさせない。


「ま、たしかに危険もない楽な仕事だから良いけどよ」


 その点にはヴォルフガングも納得がいったようだ。モンスターではあるが彼は好戦的ではない。積極的に人に害を為そうとするものでもない。


「おっ、ターゲットが動き出した。僕らも後を追おう」


 朧木達は動き出す。会話の最中にも注意を怠ってはいなかった。

彼らが成果を出すのはその数時間後だった。ターゲット達があるホテルから出てくるところを写真に写す。


「これでよし。最低限の成果はあがったぞう! これも狼男君のおかげだな」


 朧木は上機嫌だった。ターゲットを追跡してそれなりの日数が経過していたのだ。


「へいへい。お役に立てたようで何よりだ」

「では一旦事務所に戻ろう」


 ひと仕事終えた彼らはいつもの場所へと帰る。戻る二人をさくらが出迎えた。


「おかえりなさーい。今日も魔紗さんが来ていらっしゃいましたよ」

「おやおや、ヴォルフガング君。ほんと君は彼女に熱烈に愛されているねぇ」


 朧木の台詞にヴォルフガングは露骨にいやな顔をした。


「勘弁してくれよ。生きた神秘の証跡としてバチカンの地下に幽閉されるんだろう? 勘弁してくれって。あの女のは狩人のしつこさだぜ」

「ともかく今日は御疲れ。ヴォルフガング君はもう上がってもいいよ」

「そうさせてもらうぜ。じゃあな」


 ヴォルフガングは颯爽と探偵事務所を出て行った。彼は自由気ままな狼が本性だ。規則だとか役割とかで、何かと縛り付けておくものではないという朧木の気配りだった。


「ところで所長。御仕事の方はどうでした?」

「あぁ、物的証拠を押さえられたよ。何とか依頼人の要望を果たせたな」


 さくらは難しい表情だ。何かが納得いっていないようだ。


「所長。依頼された段階ではまだ不貞があったかは確定じゃあなかったんですよね。本当なら何もなかったのが一番だったんじゃぁ・・・」

「ふむ。丼副君の言いたい事もわかる。だがね。僕のところに依頼が来る段階で、依頼人の中では既に確信があったからなんだ。そうじゃなきゃ高額な調査依頼なんてやらないさ。裁判にまで持っていくつもりだから僕のところまで来たんだよ」

「そういうものなんですか?」

「残念ながらね」

「でも、所長。不貞行為を働いている人達も市井の人なんじゃないんですか。所長は市井の人々の安寧を護るとか普段から言っているじゃないですか」


 朧木は苦笑した。


「そこはほら、僕はまっとうに生きる人々の味方だからさ」

「じゃあ、その全うな市井の人に御仕事の成果があったご連絡を差し上げておきますね」

「あぁ、頼むよ。あぁ、疲れた。尾行は見つからないように、見失わないように気を張り詰めたままになるから大変だよ」


 朧木はドカッと所長用の椅子に座った。


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