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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介の受難
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日常に迫る影

 それはいつもの如くなった探偵事務所の様子。暇をもてあました魔紗が、これまた退屈している丼副さくらと談笑している。他にいるのは床で寝そべっている猫まんだけだった。

 ご機嫌で話しているのはさくらだった。


「この間猫まんの餌を買いにペットショップに行ったんですよ。その時に私もペット飼いたいなと思って、店内を色々見て回ったんです。犬や鳥、猫・・・はこいつがいるからいいや。とにかく今いろんな種類のペットがいるんですね。爬虫類は苦手なので、小動物がいいなと思って色々みていたら、運命の子がいたんです! 一匹だけ売れ残って、やさぐれた態度で過ごしていたハムスターちゃん! 思わず買っちゃいました!!」


 さくらの台詞に、魔紗は怪訝な表情を浮かべた。猫まんは一瞬「猫まんの餌」と言うさくらの台詞のキーワードに眼をカッと見開いたが、餌の時間ではなかったと知るや直ぐに寝た振りを決め込んでいた。


「やさ・・・ぐれた? どういう選考基準であんたはペットを選んでいるわけ?」

「きっと、他の子と離れ離れになってやさぐれていたんです。つぶらな瞳で足を投げ出して、ペットケージでデデンと座っていた姿が可愛いのなんのと」

「うーん、時々あんたの事がわからなくなるわ。可愛いの定義が私と違いそうな気がする。あと、なんかあんたダメな男に引っかかりそう」

「えー。私、所長のような人はタイプじゃないですよぉ」


 さくらがないないと身振り手振りでアピールする。


「ふーん、あんたの朧木に対する評価はそんな感じなんだ」


 魔紗はとても意外そうな表情だ。


「だって、先行き怪しい探偵事務所の経営者じゃあ将来性も危ういですし、仕事に消極的で展望も望めないですからね」

「そのダメな所長は今なにをしているのよ」

「なんでも、表の御仕事があるとかで出払っています」

「そこが私には意外なのよね。朧木くらいの腕があれば、退魔業だけでやっていけると思うのだけれど」

「うーん、なんでなんだろう。聞いたことないです。というか、私は退魔業の御仕事をしているところを見たこと無いのでなんともいえないです。所長が転生者と呼ばれている方々を妖怪以上に敵視していたような記憶しかないです」

「へぇ、そこのとこ、あんたは何か話を聞いていないの?」

「残念ですが詳しい事は聞いてないですね。猫まん。何で所長が転生者を嫌っているか理由を知っている?」

「・・・知ってはいるが、本人のいないところでべらべら話すのもなんだねぇ」


 猫まんはそ知らぬ顔でぺろーりぺろりと毛づくろいを始めた。


「猫まん。餌の買い置きに猫缶も買っておいたんだよ」

「この子ったら、大事な話は先にするもんだねぇ。・・・そうさねぇ。良介には古い友人がいてね。良介に月魄刃という術を教えた人物なんだが、彼は転生者でね。ただ、その人物と仲違いしてしまってねぇ。ひどい喧嘩で良介はこっぴどくやられてしまったんだよ」


 急に饒舌になった猫が朧木の過去を暴露する!


「へぇ、所長ったら喧嘩で負けて根に持ったんだ。転生者嫌いは他の人への八つ当たり?見損なったな・・・」


 猫まんは無言で目を細めてさくらの様子を見ている。


「・・・まぁ、根に持つだろうねぇ。その人物とは現世にて決定的に決裂してしまったんだねぇ」

「猫ちゃん。朧木と喧嘩したというその転生者もオカルトドラッグの使用者だったわけ?」


 魔紗も興味津々に尋ねた。


「いや、違うよ。生粋の天然の転生者。術者としても良介よりも上だった。・・・良介は善戦した方さ」


 猫が無表情で遠くを見るような眼をした。猫なので何を思っているのか読み取りづらい。


「へぇ。高名な術師の転生者なわけ? それなら朧木がこてんぱんにやられたとしてもおかしくはないね。まぁ、彼がそれで根に持つというのは意外だけれど」


 魔紗は軽く朧木をフォローした。


「そんなところだよ。さて、餌の時間はまだかねぇ」


 猫には餌の事にしか興味はなかった。気がはやる猫まんはそわそわしている。


「猫まん。ご飯はまだまだだよ」


 さくらは笑顔で答える。すぐにはやらんと言う意思が見て取れた。


「うーん。絵に描いた餅だねぇ。まぁ、楽しみに待っておくよ」


 猫まんはコロリンと寝転んだ。


「朧木のことはいいけれど、狼男はどうしたのさ! 私は彼の様子を見にきたんだよ。つい談笑しちゃったけれど」

「魔紗さん。狼男のヴォルフガング君は普段は事務所にはいないですよ。と言うか、今日は所長の御仕事の手伝いをしています」


さくらが言う通り、狼男の姿は事務所内にはなかった。それは普段通りの事。


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