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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介と見る霞町
64/228

やぶれさるもの

「まさか誘い出すために演技を?」

「卑劣な手段に講じる輩だ。こちらが万全の体制では仕掛けてこないだろうと思い、泥酔した振りをして仕掛けてくるのを待たせてもらった。貴様らはこの場で討たせてもらう」

「おのれ! 小癪な。やれっ、やれ! やつを切り伏せろ!」


 黒衣の僧侶が影法師達に命じる。三体の影法師が一気に朧木へと斬り掛かる!

 ザシュッ、ドカッ! と立て続けに音が鳴る。ばたり、ばたりと二体の影法師が地に伏せ塵へと消えてゆく。


「うぬぬぬ! ならば我が妖術を喰らえぃ!」


 黒衣の僧侶がそう叫ぶ。全身から醸し出される闘気。圧倒的なプレッシャー。まるで巨大な何かを相手にしているような感覚。


「未知のものを相手にするから大きく見えるのだ。見越したぞ、黒衣の僧侶よ」


 朧木は静かにそう告げた。

 バチィッ! と音が鳴る。黒衣の僧侶の圧倒的な存在感が消えて失せてゆく。


「なっ、まさか私の妖術が破れる?」


 黒衣の僧侶がニ歩、三歩と後退する。


「黒衣の僧侶。いや、見越し入道よ。お前の正体はもはやわかったぞ」


 見越し入道。坂の上などに現れ、みるみる姿が大きくなるという。そのまま見続けると喉を食い破られたりする。対処法は「見破ったぞ」「見越したぞ」などと言うと良いと言い伝えられている。


「チィ! 正体を勘付かれたか! 生かしてはおかん!」


 見越し入道が吠える。朧木は静かに深呼吸をした。


「・・・・・・諸天善神に願い奉る。陰にひなたに歩く道。市井の者の静謐を守らんが為、我が行く手に勝利を」


 朧木良介の祈りとともに行われる反閇。場が清められた。戦いの舞台は整った。


「先見越す 戦備えに 望む死地 背後を見せぬ 猛貪狼(たけきとんろう)


 朧木が式神の符を投げ打つ。ひらひらと舞う式神召喚舞台が光り輝き、箱車を押した一人の侍が姿を表す。手にした刀は胴太貫(どうたぬき)

 モチーフは子連れ狼。

 子連れ狼の拝一刀は拝郷と言う姓であったが、武士が見せてはならぬ背後に通じるとして改名した。

 その戦いは死地に赴く事を見越して様々な仕掛けを用いたこともあり、忍者さながらに多彩な戦い方をした勇士でもある。

 その武士をかたどった式神。貪狼。


「ぬぅぅう、式神を出して勝ったつもりか? その身、引き裂いて腸を喰らい尽くしてくれるわ!」


 見越し入道は怯まない。影法師達が一気に貪狼に襲い掛かる!

 ダダダダダン! 勢い良く続く発砲音。貪狼の押す箱車に据え付けられたガトリング砲が火を吹いた!

 あっという間に蜂の巣になる影法師達。皆地に倒れ、塵へと帰っていく。


「子連れの狼は只者じゃあないぞ。観念するんだな、見越し入道!」


 朧木は腕組みをして成り行きを見守る。


「ええい! この時代の陰陽師になど遅れを取れるか! 式神共々引き裂いてくれる!」


 見越し入道の手に鋭い鉤爪が生える。朧木へと襲い来る見越し入道。

 迎え撃つのは質素な造りの刀を構える貪狼。

 一閃。煌めく刀の光。すれ違う見越し入道と式神。

 ザッ、と両者が互いに背を向け立つ。

 静まり返る場。一迅の風が吹き抜ける。


「わ、わたしが敗れるだと……こんな、こんな若造の式神に……」


 見越し入道は地に膝を付いた。ゆっくりと崩れ落ち、斃れる。

 やがて見越し入道は黒い塵へと消えてゆく。

 見越し入道はすでにいにしえから伝わる攻略法を用いられていた。それを和歌にまで練り込まれた時点で見越し入道に勝ち目は無かった。


「三度もやりあえば、いくら僕でも正体の予測ぐらいはつけられるさ」


 朧木は静かに見越し入道が消え去った場所を見つめる。


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