仕掛け
緊張感に包まれた事務所内。
その外に1羽の鳥がいて、窓から朧木たちの様子をうかがっていた。
鳥の頭はしゃれこうべとなっている。何かしらの妖怪だった。鳥の妖怪は羽ばたいて行った。
朧木がさくらを教会まで送り届けたあとの帰り道。
朧木はチラリと近くの電線を見た。頭がしゃれこうべの鳥が来ている事を確認している。彼は行動を監視されているのに気がついていた。
「さて、普通にしていては仕掛けてこないだろう。誘いかけてみるか」
朧木はぶらりぶらりと町中を歩く。彼の目的地は決まっていた。
朧木が訪れたのはいつもの店。『女狐CLUB』だった。
朧木が扉を開けて店に入る。
「あら。良介ちゃんじゃない。いらっしゃい」
ジュリアが朧木に声を掛ける。
平日の為か、店の中はまだ空いていた。朧木は真っ直ぐにジュリアの正面のカウンター席に座った。
「やぁ、今日は予定があるが、立ち寄らせてもらったよ。なにか軽く食べるものがある?」
朧木はジュリアに尋ねた。ジュリアが怪訝な表情を浮かべる。
「うちは料理屋じゃないからおつまみになるようなものしかないよ?」
朧木は「それでいい」と笑った。
「どこに立ち寄るか迷ったが、いつものところがいいかなとね。少しだけ時間を潰させてもらう」
「そうよね。このあとの予定が押しているの?」
「すぐに片付ける仕事さ……」
そう告げる朧木の瞳には覚悟の光が宿る。
「お仕事なんだ?なら、珈琲も付けようか」
ジュリアが背後の棚を漁る。
「ちょうどいい。ありがとう。それで頼む」
ジュリアが調理を始める。
「今回の仕事は楽な仕事ではないの?」
「何時だって楽な仕事なんかいないさ。今回は気を引き締めていく。用心するに越したことはないさ」
朧木はジュリアから出されたサイコロステーキを受け取る。続いて珈琲が差し出された。
「これならいいでしょ? ご飯とかはないよ」
「十分さ!」
朧木は出された料理にありついた。
そしてその二時間後。
「長居してしまった。また来るよ」
そう言って朧木は店のドアを開けて出てきた。足取りはフラフラだ。布で包まれた何か、おそらく霊剣を杖代わりになんとか歩く。
「おっと、飲みすぎたかな……」
お店の置き看板に倒れかかるようにもたれ掛かる。その姿は泥酔している姿そのものだった。
「ちょっと公園で休んでいくか……」
朧木が独り言のようにそう呟く。
そんな様子を頭が髑髏の鳥が見ている。朧木は気がついているのかいないのか、気にも介さず歩き始めた。
大通りから外れた人気のない公園。朧木はベンチの上に横たわる。酔って寝ているようにも見えた。
暫くして、ジャリッジャリッと何者かが近付いてくる。
「ほっほっほ。無様な姿ですな、陰陽師!」
黒衣の僧侶だった。
朧木は起き上がらない。
「おやおや、しこたま飲まれたようですな。このような状況で飲酒とは余裕がお有りで…」
黒衣の僧侶は嘲笑する。その背後から影法師達が出てくる。
「お前たち。やってしまいなさい」
黒衣の僧侶が影法師達に命じる。影法師達はベンチで寝ている朧木を取り囲む。
影法師達が一斉に斬り込む!
ザン! 何かが斬られる音。影法師の一体が倒れ伏す。
「な、なんだと……」
黒衣の僧侶が驚愕する。
「やれやれ。酔ったふりをしてみるものだな。僕は酒を飲んで仕事をする癖があるから、酔ったふりをしているとは思いもしなかったろう」
霊剣を手にした朧木が立ち上がる。影法師達が怯み後ずさる。




