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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介と見る霞町
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酒場にて

 しばらくして事務デスクで作業をしていたさくらが朧木の元にやってくる。


「所長。前回私を攫った連中と戦うんですか?」

「そうだ。また危険な目に合うかもしれない。しばらくは仕事の方は無理をしなくても構わないぞ?」


 朧木はさくらを気遣った。相手は反社会的勢力だ。何をしてくるかも定かではないし、規模もわからない。その為に朧木も下手な手出しはしないでいたが、いよいよ直接対決をせざるを得なくなった。楽観はできない。


「私なら大丈夫ですよ」

「以前の誘拐事件のこともある。気をつけるに越したことはないさ」

「今回は魔紗さんの助けも借りるし大丈夫そうですか?」


 朧木は難しい表情を浮かべている。


「度々遭遇している黒衣のお坊さんの様な妖怪だ。やつを破らなくてはならないだろう。あの尋常じゃあないプレッシャー、その正体を突き止めなくては」

「気にせずサクッと倒せちゃわないんですか?」

「気軽に言ってくれるな丼福君は。相手の正体がわからなければ、相手の妖術にやられる可能性がある。妖怪退治はその正体を見破ることが八割を占めるんだよ」


 さくらは話をしながら床掃除を始める。


「意外と難しいんですね。力技で行けるのかと思っちゃいました」

「力技なら霊剣や月魄刃でカタを付けるだろうなぁ。それなら僕も楽なんだけど」


 朧木とさくらが話をしながら店仕舞いの準備を始める。気がつけば時刻は十九時近くだった。


「所長。今日は遅くまで残りますか?」

「いや、今日は早めに帰るよ」

「わかりました。戸締まりお願いします」


 そう言うとさくらは帰宅して行った。

 事務所には朧木だけが残る。

 チクタクチクタク。壁掛け時計だけが音を鳴らす。

 朧木は所長席に座って思案にふける。彼はどこから捜査したものかを考えていた。前世を知るオカルトドラッグ。手掛かりを知るものがいないかを。ただ闇雲に探しても見つからないだろう。だが、思い浮かばない。

 朧木は帰り支度を始めた。彼は家まで直帰せず、寄り道して帰る。馴染みの店『女狐CLUB』に立ち寄る。

 店は他の客たちで既に一杯だった。カウンター奥の椅子が一つ空いている。

 BGMでJAZZが流れる店内。朧木は空いた席まで歩いていく。カウンター越しに出迎えたのはバーのママのジュリアだった。彼女が朧木に話しかける。


「良介ちゃん。今日は来てくれたのね。ここの所は居ない日が目立っていたから心配していたのよ」


 仕事がある日にも立ち寄って酒を飲んで行くのが朧木良介。そんな男がしばらく来ないともなれば、何かあったのかと思うだろう。


「いやぁ、ここの所はハードな仕事が多くてね。しばらく酒を控えていたんだ」


 ジュリアは何も言わずにグラスを差し出す。朧木は最初に頼むお酒は決まっていた。その日のママのおすすめで、と頼むのが通例。その日出てきたのはウィスキーのマッカランだ。


「お酒飲んで仕事をしに行く人が禁酒していただなんて、どんな風の吹き回しなのよ」


 朧木はジュリアからグラスを受け取り、クッとグラスを傾ける。


「んー、旨い。その日一日が報われる瞬間というものだよ。まったく、今日も大変な仕事がやってきたよ。いつか来るとは思っていたがね」


 カタン、と朧木はグラスを置いた。


「またまた、今回はどんなお仕事?」

「前世を知るオカルトドラッグを知っているか? アレの流通組織を叩くお仕事さ」


 ジュリアは心当たりがあるようだった。


「あー、アレね。うちの子の中にも使ったことがある子はいたわ。可哀想な子でね。男に裏切られて捨てられた女が前世だったってさ。そんなのだからドラッグには依存しなかったみたい」


 朧木はジュリアの話に気になる点があったようだ。


「薬物としての依存性は無いのか」

「あまりないみたい。前世が有名著名人だと依存する人は多いらしくて深るみにハマるらしいんだけど、皆がみんなそうじゃないでしょ? 大半は普通の人だから」


 それもそうだ。だが、依存するのが有名人ほどその傾向が強いならば問題はあった。


「なるほど。有名人がドラッグの流通組織に肩入れするのも当然の流れか。それはマズイな」


 組織の構成員にヘッドハンティングするのが楽になるという事だ。流通させているのが人外のものであっても、前世へ依存してしまっては加担してしまうのだろう。


「うちの店の子は町田で買ったらしいわよ」


 朧木はしめたと思った。予想以上にオカルトドラッグの情報が入った。それもそうだろう。ジュリアの店は前世で悪女や女狐と罵られた女が集まってくる店だ。オカルトドラッグへ手を出したものがいても不思議ではなかった。


「依存する人は徹底的に依存するようになるドラッグか。面倒で厄介なことには変わりないな。使用に問題はあるのだろうか」

「ある。ドラッグ使用者の人格をこれでもかというほどに変えてしまう」


 ジュリアはそう断言した。


「……お店の子に何かあったのか」

「生前大切だった者の記憶を思い出しちゃうんだよ? それまでとこれからも比較し続けちゃうんだよ? なんともないと思う?」


 良い記憶を思い出しても辛いことになる。たとえ最後は裏切られて捨てられていたとしても楽しかった思い出もあるのだ。物事の多面性は決して単純なものでは無かった。


「今後の人間関係に多大な影響を受けそうだな…」


 前世がただの人であれ、その人の一生がある。大切だった者の記憶も。


「ショックが強かったみたいでね。しばらく寝込んでいたみたい」

「やはりドラッグはドラッグ。害は害だ。オカルトドラッグを流通させる裏組織を必ずや壊滅させよう」

「良介ちゃん。正義の味方みたいなことを言っている」

「僕のは仕事なだけだよ!」


 そう返す朧木であった。

 市民の平穏を護る仕事。それは裏の顔だった。


「何、良介ちゃん。シリアスな顔しちゃって。決め顔でお酒飲んでどうしたの?」


 すかさず茶化しに来るジュリア。


「何でもないさ!」

「オカルトドラッグの件、お店の子に聞いておく?」

「あぁ、頼むよ。さて、仕事の話は抜きだ。ゆっくりと酒を楽しむか」


 朧木は次の酒をオーダーする。彼らの夜は静かに更けていった。

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