真相解明に向かって
たどり着いたのはホテルの506号室。
「この部屋ですか。鍵はいくつあります?」
朧木は刑事に質問した。
「貸出用が二つ。マスターキーが一つ」
「貸出用の鍵は二つですか。所持していたのはどなたです?」
刑事が手帳を調べる。
「どちらも被害者の部屋の中に。それは第一発見者のホテル従業員も確認しています」
「では、室内は完全な密室であったと?」
「はい、そうなりますな」
朧木は頭を掻いた。密室の謎を解かなくてはどうしても犯人を特定できない。
朧木は考えを巡らす。何か証拠は残っていないか。痕跡は残っていないか…。
朧木はふと何かを閃く。
「刑事さん。死体には何か証拠になりそうなものはありませんでしたか?」
死体はすでに運ばれたあとだ。調査に回されているだろう。
「と、いうと?」
「派手な遺体の損傷は、別の何かを隠蔽しようとした結果かも知れません。自らが化け物であるとしても、むざむざありえない方法で殺人を行えば却って疑いが向くことになる。むしろ不自然に作られた遺体に、化け物がどんな化物か追及可能な証拠が残っていた可能性がある。…たとえば損傷の激しい箇所に不自然な傷跡などはありませんでしたか?」
刑事が朧木の話に驚き、署に慌てて電話する。十分後に刑事が戻ってきた。
「朧木さん。有りましたよ! 不自然な痕跡が! 被害者がフォークで抉られたのは死んだあとのようです。首に僅かながら何かが噛んだような痕が残っていたそうです」
朧木は腕組みして考え込んだ。首筋あたりに噛み付くようなもの。それは珍しくもなんともない。
人間の姿をしている。あるいは人間に化ける。その前提を敷いた上で考える。その上で密室に出入りできそうなものは何か。
「可能性は見えてきたな。今は僅かばかりだが」
「密室に出入りできるもの。幽霊の仕業ですか朧木さん」
朧木は笑った。
「まさか! 首周りに噛みつき、密室にも出入りできて、人間の首をねじ切りかねない怪力を持つ。犯人は状況証拠を残しすぎですよ。想定できる化物の種類はそう多くないくらいには。これなら特定出来る」
朧木は考え込んだ。後はこれまで話を伺ってきた中で、違和感があった話を整理するだけだ。それで犯人が誰なのかまでを特定出来る。
化物の正体を看過するだけでは駄目だ。誰がその化物なのかまでを特定しなくては。
そうでなくてはこの○特案件は解決しない。
朧木は懐を漁った。式神の召喚符は1枚。霊剣は無い。戦闘になったら月魄刃頼みだ。
「どうしましたか。朧木さん」
刑事が心配そうに尋ねる。
「いや、化け物が推理通りならば準備不足かなと」
「朧木さん。怖い事言わないでください! 我々も拳銃はありますが…」
化け物の正体が朧木の想像通りならば、おそらくただの銃火器は通じない。
「…覚悟を決めなくては」
朧木の頬を汗が伝う。それはかつてない緊張感に包まれていた。
朧木の第六感は危険を感知していた。
夜は長い。だが、その日の夜はもっともっと長くなりそうな予感があった。
「刑事さん。同行者一同を一箇所に集めて。それから警官に周囲を包囲させて下さい」
朧木はそう刑事に指示を出す。
「朧木さん。犯人がわかったのですか!?」
「えぇ、化け物としてもなんなのか、おおよその見当はつきました」
「わかりました! さっそく警官たちを集めます!」
刑事は勢いよくフロントバックルームを飛び出していった。
「さて、僕は一旦厨房によってみるか…」
朧木は一人部屋の中でそう呟いた。




