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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介と見る霞町
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殺人事件発生

 一時間後。朧木は近場の警察署にいた。出迎えたのは通り魔事件の時の刑事である。


「やぁ、朧木さん・・・・・・・おや、なんだかお酒の匂いが」

「すみません。飲み屋にいたもので」


 刑事が「むぅ」と唸った。


「急なお呼び出しになってしまって申し訳ない」

「いやぁ。さりとてきちんとやるべきことはやりますよ!」

「現場まで移動する間、かいつまんで状況を説明します。まずはこちらへ」


 刑事は車に朧木を案内した。どうやら現場まで出向くようだ。

 朧木は刑事と車に乗り、とあるホテルを目指す。運転するのは刑事。朧木は後部座席に座っていた。その道中のこと。


「さて、刑事さん。僕が必要になったという事はただ事ではないという事ですね?」


 刑事は車の運転をしながら朧木の話を聞いていた。


「そうです。物盗りと思われる殺人事件があったのですが、どうも完全な密室殺人だったようでして・・・・・・犯人は忽然と現場から姿を眩ましたのです」


 朧木は「ん?」と頭に疑問符を浮かべた。


「なんだかおかしな話になってきましたね。密室ですか?」

「そうなんですよ。密室なんです。密室。これさえなければと思いましたよ」


 刑事は何度もうんうんと頷いた。


「密室なんて密室そのものを作る動機でもなければ咄嗟には出来ないですから、トリックがあるのならばかなり計画的な犯行ですな」

「えぇ、えぇ。ですが、そのトリックがなんなのかが判明できず・・・困り果てていました」


 どうやらこのままでは迷宮入りしかねなさそうなようだ。


「・・・・・・が、密室だけではないでしょう。僕が必要とされたのは」

「実は部屋は凄惨に荒らされておりまして・・・その・・・被害者はとても人間とは思えない力で惨殺されたとしか思えない死体となっていたんですよ。熊に襲われたってあそこまでひどい死に方はしないと思いますよ」


 そこで再び朧木は「ん?」となった。


「それで化け物が行った殺人事件だと?」

「とても人間の仕業とは思えない殺人ですよ。前回も狼男が現れたり、転生ドラッグ使用者が通り魔事件を起こしたりとありましたので、これも同じようなものなのではと我々はそう考えて朧木さんに声を掛けました。これはもしかすると、我々の管轄の範囲外なのではないか、と思いまして」

「なるほど。それで僕に話が来たわけですか」

「そうです。事件は今日の夕方ありました。被害者は既に死亡。被害者の同行者は四名。同行者達はまだホテルに滞在していただいています。まだ証拠等が残っているうちに特殊探偵の力をお貸し頂きたく」


 刑事は最後に「おねがいします」と付け加えた。車のフロントガラスに映る刑事の表情は重苦しいものだった。


「・・・・・・わかりました」


 朧木は短く承諾した。その頃には呑んだ酒も抜けていた。



 朧木と刑事は殺人事件現場のホテルに到着する。到着早々にホテルの支配人が出てきた。


「刑事さん! 言われたとおり、日中にいた従業員はまだ滞在させていますが、一刻も早い事件の解決を!」


 刑事が支配人を手で制する。


「わかっております。この事件のために新たに専門家を雇いました。お任せください」


 刑事の挨拶にあわせて朧木は支配人にお辞儀した。二人はフロントのバックルームのテーブルを借りて据わった。刑事と朧木にホテル側からコーヒーが出された。


「さて、刑事さん。早速事件を詳しく説明していただいていいですか?」

「えぇ。まず、事件発覚は今日の二十時三十四分。被害者は松葉隆(まつばたかし)。同行者は被害者が夕食の時間になっても現れない為、連絡を取ろうとしたのが始まりです。電話を掛けても出ず、部屋も鍵が掛かったままの為、ドアをノックしたのですが応答がありませんでした。寝ている可能性もありましたが、具合が悪くなっている可能性も考慮し、同行者はホテル側に相談。ホテル側は合鍵を使って被害者の部屋を開錠。その時に室内で血まみれで倒れている被害者を発見。このときに殺人事件発覚です。被害者の死因は頚椎…骨折。いや、恐るべき力でねじ切られた、と言いますか。顔が三百度くらい回転させられていました…力任せにねじ切られたとしか思えないような有様でして、首周りを執拗に室内にあったフォークで抉ったようなあとも残っています」


 朧木は頷きながら聞いている。時系列に沿ってメモにあらましを記載しているようだ。


「刑事さん。他にも室内を荒らされたような形跡は?」

「あります。物があさられており、被害者の財布が消えていました」


 朧木は一瞬間をおいてから頷いた。どうやら不可解な点があったようだ。朧木の眼光が鋭くなる。


「ふむ。この状況下で物盗りに見せかけて行ったわけですか」

「朧木さん。何か気になる点が?」

「刑事さん。この事件は物盗りの仕業ではない」

「お、これらの話だけでわかりますか? 物盗りの仕業ではないと」


 刑事は驚いていた。


「間違いなくそうでしょう」

「なぜそう推理されたのですか?」


 刑事はとても意外そうに朧木に尋ねる。


「この場合は犯人が化け物であるというのを関係無しに話をします。ただの物盗りというならば、相手を選ばず犯行を行なったことになります。その場合には被害者がどのような人間かわからないし、所持金を大して持ち合わせていない可能性もある。計画的に行うにしてはリスクばかりが先行し、たいした実入りも期待できない。突発的に行うにしても死体に残された痕跡に無駄が多すぎる。かなりの殺意さえ見て取れる殺害方法だ」

「なるほど! 我々は被害者の死因のことばかりに気を取られていました! 逆説的に物盗りに見せかけた内部犯の仕業であると断定するわけですな!」


 朧木は刑事の言葉に頷いた。朧木はホテルから差し出されたコーヒーをブラックのままで飲む。酔い醒ましにするようだ。


「被害者の身近な人間であるから外部犯が疑われるような捜査かく乱を行うのです。今回はそれが裏目に出ているということ。犯人は特殊な力をもっている可能性は高いですが、この事件は実は犯人にとっては逆に計画的なものではないのかもしれません。捜査かく乱の仕方自体が問題となっている。相手を侮る思考は愚の骨頂ですので、犯人がうかつなだけとは思いたくないですが」


 朧木は確信を持ってそう答えた。


「おお、朧木さん。なんと心強い! まるでミステリー小説の探偵ですな!」

「・・・・・・まぁ、僕も一応探偵ですが」

「と、なると同行者四人が怪しいわけですか。一応四人ともまだこのホテルに滞在しています。話を聞きますか?」

「そうしましょう。一人ずつ話が聞きたい。松葉さんと別れてから事件発覚辺りまでの出来事を詳しく」


 刑事は急いで人を集めに部屋を出ていくのだった。


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