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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介と見る霞町
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静まらぬ夜

 ある日、朧木は『女狐CLUB』で飲んでいた。彼はローストナッツをつまみにバーボンロックを嗜んでいる。


「良介ちゃん、なんだか狼の匂いがするね」


 そう語りかけてきたのはバーのママのジュリアだった。うっすらと狐耳が見えている。女狐妖怪が人間に化けているのだ。かつては様々な男をたらしこんでは貢がせていたが、思いつめた男に呪殺されかけたのを朧木に助けられて以来、彼女はまっとうに生きている。


「あぁ、狼男君を雇ったんでね。いやぁ、荒事に強い従業員は重用だよ!」

「あらら、護法童子クンはどうしたの?」

「世の中にはもっと自分にふさわしい修験者がいるのではないかと、自分探しの旅に行くらしくてね。近々うちの事務所を出て行っちゃうのさ」


 ジュリアが空のグラスにカクテルを注ぎながら笑った。


「あらぁ、良介ちゃん。護法童子クンに見捨てられちゃうんだ?」

「いやぁ、彼はまだ若い。きっともっといい相手が見つかるさ!」


 ジュリアも朧木もまるで恋愛の話のように笑ってそう話をしている。


「それでも狼男を雇うなんて。ちょっとまともな退魔師の道から踏み外してなぁい?」

「大丈夫大丈夫。今は魔物使いなんてメジャーなジャンルだよ。うちも既に猫を飼っているからね」


 ジュリアが何かを思い出すように頬に指を当てた。


「あぁ、あのお年寄りのにゃんこちゃんね」

「そう。猫を飼うも犬を飼うもそう変わらないでしょ」


 狼男のヴォルフガングは普段は狼の姿をとっていた。普通の人には図体のでかい犬くらいにしか見えないだろう。


「えー、違うよぉ。強いて言うなら狐もそうだけれど、狼も人間に家畜化されていない種でしょ。てか、狼は犬じゃないでしょ!」

「確か犬は家畜化された狼という通説が一般的だね。実は狼自体が社会的な生き物だって研究成果が出ているんだよ。狼は家族単位で社会を形成し、その絆は確固たるものがある。彼らに家族と認められれば強い信頼関係で結ばれるのさ。ようは認められれば彼らはどこまでも寛容的になる」


 朧木とヴォルフガングの信頼関係の形成はまだまだこれからだ。だが、術者と魔物の垣根を越えて共生関係は構築された。


「えぇぇー、なにそれ。それで護法童子クンから狼男に乗り換えちゃうんだ!?」


 ジュリアはどうも恋愛問題のように茶化して話すのが好きなようだ。元々色恋沙汰の渦の中で生きてきたような女妖怪である。もちろん朧木にも言い寄った事はあるが、朧木に正体看破されて軽くあしらわれてからはおとなしくしているようだ。


「護法童子クンがもっと良い術者を求めているからねぇ・・・僕もそこそこにはやる方だと自負していたんだが傷ついちゃうよ」

「あららぁ、今日は慰めてあげる?」


 女狐ジュリアは朧木を諦めたわけではなかった。ただ隙を探しているだけのようだ。


「ハハハ! 君が新たなパートナーにでもなってくれるのかい?」


 朧木も笑って答える。もはや仕事の話ではなく色恋沙汰の話にしか聞こえない為、ジュリア(本名は別)の思惑がどこにあるのかわかりづらくなっている。


「・・・・・・まぁ、それもいいけどね」


 と、ぽつりとジュリアがささやいた時である。朧木のスマホの着信が鳴った。


「おやおや、事務所から電話だな。丼副君はもう帰宅したはずだから、猫まんから電話かなぁ」


 そういって朧木が電話に出ると、案の定猫まんからの電話だった。


「良介や。今電話できるかいね?」

「あぁ、問題ないよ。今呑んでいたところだ」

「なんだい。あの狐の店かいね。お前もほんと物好きだねぇ」

「ハハハ! 付き合いは大事にしないと!」

「それはさておき、お前に仕事の依頼だよ」


 朧木の顔が急にシリアスになった。


「こんな時間にかい。という事は緊急の依頼だね。話を続けて」


 もう二十二時を回った時刻である。事務所自体は営業時間外のために、看板をCLOSEにしておいてあるはずだ。それでも仕事の依頼が来たという事は・・・


「先ほど警察署から電話があってね。○特案件の可能性があるので、良介の力を借りたいとさ」


 ○特案件とは特殊案件。超常現象が絡んだ、あるいは人外のモノが関わる事件を指している。


「わかった。これから署に向かう。詳しい話はそこで聞こう」


 朧木は電話を切った。


「なに、良介ちゃん。これからお仕事?」

「あぁ、商売繁盛で何よりだよ」

「じゃあ、はい。お冷。酔い醒ましにどうぞ」


 ジュリアは朧木にコップを差し出す。良介は水を一気に飲み干し、内ポケットの財布からカードを取り出し決済する。


「さてさて、どんな仕事の依頼が来るやらな・・・・・・」


 朧木はバーを勢いよく飛び出していった。


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