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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介と見る霞町
46/228

戦いの行方は

 戦端の火蓋が切って落とされる。

 3体の式神は影法師たちと交戦が始まる。交わる刀と刀。交わす刃と刃。戦勝の歌より生まれた力の宿る式神たちのほうが影法師達より強かった。

 1体、また1体と影法師たちを打ち破っていく。


「おのれ陰陽師!」


 そう叫んだ黒衣の僧侶の妖術も、離れていれば効果は薄いようだ。

 フェイ・ユーも戦意を取り戻して戦列に加わる。元々剣術が得意な道士である。刃物沙汰ではフェイ・ユーは強かった。


「やるね、朧木さん。その式神召還術は場の流れを変えることも同時に行う術カ。風水的にも興味深いネ」


 ガキィン、ガキィンと打ち合わされる刀。また一体の影法師が塵と消えていく。

 影法師たちは次々に塵へと帰る。


「おのれ、おのれおのれ!」


 黒衣の僧侶は憤怒の形相で二人を見下ろしている。


「俺のことを忘れていやしないか!」


 泥田坊が黒衣の僧侶へと何かを投げはなつ。泥だ。


「こしゃくな!」


 黒衣の僧侶は袖で打ち払った。

 その時には影法師たちは全滅したあとだった。


「西の妖怪とやらよ。3対1か。どうする。続けるか?」


 朧木はそう告げた。


「まてよ、陰陽師。俺はお前達についた覚えは無い。あいつの相手はお前達でやるんだな」


 泥田坊はそう言って後ろに引き下がった。


「そういうわけネ。2対1。それでもやるカ?」


 フェイ・ユーが黒衣の僧侶を挑発する。


「こちらが劣勢か。いいでしょう。今回は引き下がりましょうか。どちらにしても私は用事は済ませられそうですからな。ホッホッホ!」


 そういうと黒衣の僧侶は後退し姿を消した。

 あたりに静けさが戻る。


「さて、あのハゲの妖怪は片付いたネ。次は泥田坊といったカ? お前はどうするネ?」

「中国の道士よ。なんなら相手になってやろうか?」


 そういう泥田坊の周りに周囲にいた普通の幽霊達が集まる。彼らはみな泥田坊の味方のようだった。


「まて、フェイ・ユー。彼らはただの人間だ。手荒な真似は僕が許さん」


 フェイ・ユーはありえないといった表情を浮かべた。


「この国の人間は甘いネ。中国では立ち退き拒否を続けるとどうなるか知っているカ? 家の周りを掘り下げて孤立させられたり、道路のど真ん中にそのまま残されるネ」


 フェイ・ユーの話は事実だった。


「それでも、だ。僕は彼らとの対話を辞めるつもりは無い」

「・・・・・・今日は満身創痍ネ。手下どもを介抱しなきゃいけない。今日は退散するネ」


 フェイ・ユーは倒れていた門下生達をワゴン車に乗せていく。そしてそのまま走り去った。


「残るは陰陽師、お前だけだな」


 泥田坊が構えている。


「まて、僕は君らに危害を加えるつもりは無い」


 周囲の幽霊達がまた集まってきた。


「ならどうするつもりだ。この地にゴミ処理施設を建設するつもりか?」


 泥田坊にそう問い詰められて、朧木は困り顔だった。


「そうだな。街のゴミを始末する為にどうしても必要なんだ」

「わからんな、陰陽師。ご不浄は鬼門の方角へ。東京の街のゴミは東京の鬼門の方角に捨てるが良い。それが昔からの風習だろう」


 朧木は泥田坊に興味を持った。


「君は妖怪だが人間の幽霊達の側にいるね」

「人間の側にいるのではない。この土地の側にいるのだ。ゴミ処理施設を建設すると、周囲の土地が汚染される恐れがある。そうなっては周囲の田畑も使えなくなる。そうなってから『田を返せ!』と言ったところで遅いんだよ」


 泥田坊は田畑を持つ家人に対して田を返せ、田を返せという妖怪だ。田畑を耕せという意味だが、今回は土地を返せという意味だった。


「ゴミ処理施設の建設が行われる際に、君のように反対する事例がなかったわけではない。それでも施設の利用者である東京都民の為に行われる事だ。広義の意味では大儀は公共事業を行う側にある。いずれ君達は退去せざるを得なくなるだろう。僕がこのまま帰ったところで、別の者がこの地に使わされることになるだろう」

「わからんな。この時代の陰陽師よ。この東京の霊脈の力を弱めようとでも言うのか? いずれ大きな災いとなるだろう」

「今はあまり霊的なものを重要視しない時代となってしまった。それ以上に大多数の生活の利便性を優先される時代だ」


 泥田坊は再び人間の幽霊の姿に戻った。


「俺は、俺達は反対したからな。覚えておくが良い。この地の問題は東京の問題となる」


 周囲の幽霊達の姿が消えていく。泥田坊もその姿を消した。この一件から引き下がったようだ。泥田坊が田を返せというのは農家のあるべき姿の話をしている。ゴミ処理施設の建設はこの時代の住民に必要であるという大儀の元に話をしている。家と社会の大儀を比較して、より大きなものを重んじて泥田坊は自ら身を引いた様だ。


「・・・・・・大多数の為に少数派が犠牲となる。(まつりごと)にはそのような側面もあると聞いたが、これが正しかったんだろうか・・・・・・」


 広大な空き地に朧木一人が佇んでいる。今、周囲には何も無い。だが、いずれはゴミ処理施設が建設される事になるだろう。

 朧木の仕事は終わった。


 余談である。シリアスな仕事であったため、朧木は猫まんに頼まれたciaoちゅーるを買って帰るのを忘れたようだった。

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