死闘。術者の戦い
東京都青梅市。中央線で移動し、途中から青梅線に乗り換える。東京都でも西側に位置する土地だった。
朧木が訪れたのはその中でもさらに山に当たる場所。奥多摩町方面側だった。広大な土地を有し、大規模施設を建設するにはうってつけだったようだ。
そして民家からも少し離れた場所。ごみ処理施設を建設するのにちょうど良かったはずだった。幽霊が建設反対をしなければ、であるが。
「ごみ処理施設建設反対ー!」
そう激を飛ばす幽霊。周りの幽霊たちも「ごみ処理施設建設反対!」とシュプレヒコールをあげている。
その場に朧木がやってきた。
「これはまた元気な幽霊達だなぁ。幽霊もデモ行進をやる時代かぁ」
幽霊のリーダー格は朧木の存在に気が付いて近付いてきた。
「あんた、ただの人間じゃあないな? さてはごみ処理業者に雇われた退魔師か」
朧木は相手がこのデモの中心人物であることに気が付く。
「僕の名は朧木良介。たしかに陰陽師をしているが、今日は話し合いに来た」
朧木は握手を求めようとして手を下ろした。相手が幽霊であることを思い出したのだ。それほどに相手の幽霊ははっきりと視認できた。
「なら話は早い。この場所にごみ処理施設を建設するのは辞めて頂きたい」
言葉は通じるが、話し合いは通じないパターンだった。
「そこをなんとかして頂きたく僕がやってきた」
と、朧木が交渉を持ちかけようとした時である。ごみ処理施設建設予定値にワゴン車が止まった。中から数人の男たちが降りてくる。その中の一人はフェイ・ユーだった。
「立ち退き反対している幽霊達が大勢いるネ。退治してしまうよろし」
フェイ・ユーが男たちに指示を飛ばし、散開する。フェイ・ユーは手にしていた霊剣を抜き放っていた。
辺りに幽霊達の叫び声が響く。
「朧木さんと言ったな? これがあんたらのやり方かい!」
リーダー格の幽霊が叫ぶ。
「待ってくれ! 僕は彼らとは無関係だ! ったく、フェイ・ユーの奴め。おそらくは山国議員の横槍か? 公共事業絡みの問題だ。さては介入するつもりだな?」
朧木はフェイ・ユーの元に歩いていった。
「おや? 朧木サン。こんな所で会うとは奇遇ですネ」
フェイ・ユーに驚いた様子は無い。朧木がこの案件に関わっているのはすでに知っていたようだ。
「大勢で押しかけて何のつもりだ? この件は僕がごみ処理業の事業主から依頼を受けているんだ。引いてもらおう」
朧木はフェイ・ユーを睨んだ。
「そうは行かないヨ。この問題は都政の延長上ネ。山国議員が都内で起きている霊的災害に武力行使するネ」
「退魔師集団を公営化しようとしているのは知っていたが、それがお前らか!」
「彼らはうちの門下生ネ。老師と山国議員はつながりがあるので協力させてもらっているヨ。仕事の邪魔をするつもりカ?」
朧木は逃げ惑う幽霊達の姿を見た。そして意を決する。
「月魄刃!」
朧木は幽霊を追い掛け回していた男の一人に術を仕掛けた。
ヒュパッヒュパッと三日月の光輪が男の服を切り裂き、朧木の指の間に戻ってくる。術を受けた男は慌てて逃げ出す。
「それが答えのようネ。致し方無し」
フェイ・ユーは七星剣を抜剣した。今回の朧木は手ブラだ。前回フェイ・ユーが朧木と戦った時は陰陽五行によって朧木が勝ったが、今日は同じ手を使う事ができない。
「僕は市井の者の味方だ。ゆけ、月魄刃!」
ヒュパッ、と青白い三日月の輪光がフェイ・ユーを襲う!
「なら私は市政の者の味方ネ」
フェイ・ユーは月の光をガッ、と七星剣で叩き伏せた。
砕け散る月光。
「馬鹿なっ、月魄刃を物理的に砕くなんて! ウグッ!」
朧木は胸を抑えて蹲った。術を破られた反動が来たようだ。
「その術は道術だから知っているヨ。己の魂魄を用いて練り上げた月の光であるト。七星剣は北斗七星を神格化した北斗星君の力が宿る剣。北斗は死を司る。魂魄を用いた術を砕くぐらいわけないヨ。一度見た術。破るすべも無いようなボンクラと思ったカ? 今回はこちらの勝ちネ」
フェイ・ユーは勝ち誇った。
「相克や相関と言った相性の問題か……」
「前回は術の相性を用いて破られた。今回は術の相性の上で勝たせてもらうネ。さぁ、とっとと逃げ帰るがよろし。この件は私たちが引き取るネ」
フェイ・ユーがヒュンヒュンと七星剣を振り回して構えを取る。胸を抑えて蹲る相手にも油断はしない構えのようだ。容赦はなかった。それはフェイ・ユーが朧木を高く評価している現れでもあるのだが、今は最悪な形でそれが現れている。
「万事休すか……」
朧木は最後の切り札を用いようかとスーツの内ポケットに手を伸ばそうとする。




