シャ・ノワール
通り魔事件が解決してから一週間後の事。
その日の朧木は迷い猫探しの依頼を受けていた。彼は午前中に依頼を受けて出掛けていた。
事務所にはさくら一人。他には寡黙な護法童子が留守番をしているばかりである。護法童子は以前さくらが誘拐された事もあって、その用心の為に守りを任されている。護法童子は子供のような外見であり、さくらには護法童子が鬼神の類であるという意識は無かった。
特に何事も無く時間が過ぎていく一日。夕方近くになってきた頃、朧木がペットケージを持って事務所に帰って来た。
「やぁ、丼副君。迷子になっていた猫を保護してきたよ。飼い主が2時間後くらいにやってくるので、それまでこの子を見ていてくれないか? 僕は少々出掛けるところがある」
ゴトリ、と朧木はペットケージを床に置いた。
「わかりました」
さくらは猫を引き受けた。朧木はあわただしく事務所を出て行った。
さくらがペットケージを覗き込むと、中には可愛らしい黒猫が入っている。さくらが軽く手を振ると、猫は興味深そうにさくらの顔を見つめている。
だがさくらも仕事があったので、猫にかまけてばかりいるわけにはいかなかった。彼女は手紙を投函する為に、近くのポストへと向かった。用事を済ませて手早く事務所に戻る。
と、事務所のソファーにはいつの間にか黒いゴスロリ服の女の子が座っていた。女の子の年齢は中学生くらいであろうか。ふわふわのボブヘアーをしている可愛らしい女の子だった。護法童子はどうしたものかと無言でおろおろしているばかりだ。
さくらがどうしたものかと考えあぐね、女の子に話しかける。
「あの・・・・・・どちらさまでしょうか?」
女の子は不思議そうな表情を浮かべた。そして、
「にゃーん?」
と、返事を返す。さくらが困惑する。
「えっ、あのぉ。何・・・・・・猫のまね? ・・・・・・あれ、ペットケージに猫がいない!」
さくらは朧木が置いて行ったペットケージが空になっているのに気がついた。慌てて室内を捜し始める。
女の子はそんなさくらを気にも止めず、自分の髪の毛を手でいじっていた。
護法童子は猫を捜すさくらに対し、女の子を指差している。
「護法童子君。何? この子が猫をどこかへ連れ出したの?」
護法童子は首を横に振った。そして女の子を再び指差した。
「にゃにゃん?」
女の子はもう一度子猫のように声をあげた。
「どういうことなんだろう・・・・・・」
さくらは状況が全くわからずにいた。と、そこに猫まんが猫ドアをあけて入ってきた。
「ただいま・・・・・・おや、この子はなんなんだい?」
猫まんは女の子がいることに気がついた。
「えーと、わからない。私が帰ってきたら座っていた」
猫まんがじーっと女の子を見つめる。
「この子、人間じゃないねぇ。あんた、名前はなんていうのかい?」
猫まんが女の子に話しかける。
「・・・・・・あたしぃ? マルにゃん」
女の子はそう答えた。
「えっ、マル? 所長が探しに行った迷い猫の名前だ」
猫まんがすっくと二足歩行で立ち上がった。
「この子も化け猫の類だねぇ。ふむ、さてはシャ・ノワールだね?」
「あたし何も知らないにゃん」
マルはぷいっとそっぽを向いた。
「えっ、猫まん。シャ・ノワールって何?」
「魔女の使い魔とも言われる黒猫たちのことさ。予言の力を持っているなど言われている。それが人間に化けているんだろう」
「へぇ、じゃこの女の子はさっきの黒猫なんだ? 飼い主は知っているのかな」
「そんなの知るわけ無いにゃん。飼い主はただの人間にゃん。それよりさっきの魔法使いのお兄さんはどこに行ったにゃん?」
「えっ、魔法使い? 所長の事かな。用事があるとかでどこかへ行っちゃったけれど」
「あたしぃ、あのお兄さんの飼い猫になりたいにゃん。魔法使いの飼い猫になるのが自分達の使命だって、お母さんも言っていたにゃん」
「やっぱりシャ・ノワール辺りだね。化け猫ともなると、普通の人間には飼えないかも知れないねぇ」
と、化け猫が化け猫の事を語る。




