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朧木探偵社  作者: ペテン師Mark
朧木良介と見る霞町
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朧木と亜門

 朧木が応接室で客人の正面に座り語り掛けた。


「お久しぶりです。亜門さん。怪貝原議員はお元気ですか?」


 来客の一人、男の名を亜門という。

 亜門は怪貝原議員という男の秘書だった。客人はすすっていたお茶をテーブルに置いた。


「すこぶる元気だとも。朧木さんと会いたがっていたよ」

「是非そうしたいもので。さて、本日は何か御用があってこちらに?」


 朧木の言葉に亜門は頷いた。


「そうだとも。仕事上で君の元に訪れる用件に、今までおめでたいものはあったかね?」


 朧木は亜門の言葉を受けてしばし考える。


「ははぁ、ないですねぇ。つまりは良い知らせではないわけですね」

「そうだとも、そうだとも。我々としても朧木さんを必要とするような出来事など起きないほうが望ましい」


 亜門はあえて権力者の側に立ち、『我々』と強調した。自らを誇示しようとする意思があったのかないのかはわからない。


「確かに、僕の仕事は誰かが困る事で仕事を得る訳ですから。暇なのは世の中が平和だと言う事に相違ないですね」

「困りごとと言う事は時として誰かを必要とすると言う事。誰かの助けを必要とすること。助け合いとはすばらしい。仕事とは必要とする者があって初めて生まれるわけだ。私は怪貝原議員に必要とされる議員秘書であることを誇りに思っているよ」


 亜門は自分が議員秘書であると言う事に特別な優越感を持っているようだった。肩書きで自分自身を勘違いしている人種である可能性は高い。


「誰かにお力添えできる事は僕にとっても望ましい事ですから。しかし、確かに誰かが困る事で必要とされるなんて、卑しい仕事かもしれませんね」

挿絵(By みてみん)

「おっと、職業の貴賎の話をするつもりはなかったが」


 亜門は自分が望んでいた方向に話が進んだ為、ニヤニヤしながら話しをしている。どうやら亜門は朧木良介を好んでいないようだ。もっとも、朧木の方も歓談を飛ばしていきなり用件を尋ねていた辺り、亜門を好んではいなかった。


「いやいや、怪貝原議員の秘書である亜門さんのおっしゃり通りかと」


 朧木良介が亜門の肩書きを口にした辺りで、亜門は満足そうな表情を浮かべた。


「人に必要とされるというのは実に重要だ。朧木さん。あなたが必要となったのは裏と表、どちらの用件だと思うかな?」

「わざわざこうして亜門さんが僕の元を訪れるくらいですから、裏でしょうな」


 朧木は亜門を軽く持ち上げながら話を進めた。本人としては面倒くさいと思っているかもしれないが、必要な時には必要な行動は取る。二人の力関係は立場の差で現れていた。朧木にとっては『クライアント』の使いでしかない。朧木には亜門のことなどどうでもよかったが、怪貝原という男はそうではない。従って朧木は亜門の扱いは丁寧にせざるをえなかった。

 亜門のような男を雇っている怪貝原と言う男の人格や能力、責任を問う者がいるかもしれないと思う。だが、亜門も元々はこのような接し方ではなかった。

 政治的都合。いわゆる大人の事情である。


「さて、朧木さん。その『裏』の話となる。この話を聞いた段階であなたは引き受ける義務があるが、もちろん構わないね?」

「えぇ、いつものように事を運びますとも。なにより怪貝原議員のご指名であるならば、僕が断るはずがない」

「そうだとも、そうだとも。怪貝原議員は今から自分が話す内容は朧木さんが処理するのが適切と判断された。超法規的措置に基づいて行われる極秘の話だ。構わんね?」


 亜門はちらりとさくらの方を見てからそう話した。


「あぁ。彼女でしたらつい最近雇った事務員ですのでお気になさらず。守秘義務の件もきちんと雇用契約書と共に交わしておりますもので」

「ふむ。最近、この霞町で通り魔事件が発生しているのは知っているかね?」

「えぇ、夜間人気のいない所で、刃物で襲われる人が相次いでいるとか」

「そうだとも。よりによってこの霞町でそのような不届きな真似をする輩がいるとは許せん!」

「亜門さんのおっしゃる通りで。警察の活躍が望まれますね」

「そうだとも、そうだとも。市井の者であるならば誰もがそう思うだろう。そして不安で眠れぬ日々を過ごしている事だろう。平穏な日常が壊されるという一大事だ。私も議員秘書として、一刻も早くこの事件の解決を望んでいる一人だ」

「僕としても協力できるならそうしたいところで」


 朧木のその言葉に、亜門の声がトーンダウンする。


「そうだとも。そこであなたの出番となった」


 朧木は意外でもなさそうであったが、あえて聞き返す。


「これは警察の管轄の問題でしょう? 僕が出張っていって良い理由があると?」

「ある。というより、前日にそのようになった」


 亜門はタバコを取り出した。朧木はさくらの方に目配せする。さくらは気を利かせて灰皿を持ってきた。尚、普段は館内禁煙である。亜門がタバコに火を灯した。


「そのようになった、とは?」


 朧木は亜門が一呼吸置いているのを察し、落ち着いた頃を見計らって切り出した。恐らくはこれから話す内容は亜門にとって朧木には依頼したくない事なのだろうと察している。

 亜門が一服してから口を開く。


「つい先日も一人の男が通り魔に刃物で襲われた。その光景を目撃していた者が、『狼男が逃げていくのを見た』と証言した」


 亜門の言葉を聞いた朧木は一瞬「ん?」と意外そうな表情をした。


「狼男、ですか」

「そうだとも、そうだとも。意外に意外。なんとこの霞町に狼男がいるときたものだ」


 朧木が「ふーむ」と考え込んだ。そして亜門に尋ねる。


「その目撃情報は確かな話で?」

「そうだ。その目撃証言によって超常現象のエキスパートの出番となった。…怪貝原議員のお抱え退魔師の君に声がかかったのだよ。これからは警察との合同捜査だ」

「つまり、これは公の機関からの正式な仕事の依頼、というわけですね?」

「そうだとも。これは町議会でも議決された問題だ。怪貝原議員より直接の依頼でもある」


 怪貝原議員は町議会議員だ。霞町の町議会はかなりの予算を持っていて、行使力も強い団体だった。地元への影響力も当然強い。つまり、その議員の意向はかなりの力を持っていた。


「わかりました。直ちに事件に当たります」


 朧木はあっさりと仕事を請けた。


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