うごめく妖怪たち
一方その頃、全く別の場所でも暗躍する者達がいた。暗闇の中、ゴミの積み上がった塚山が複数並ぶ場所。その塚山の一つの頂に佇む者がいた。夜空の元で星明かりと遠方の街明かりのみがその男を照らす。黒い着物姿の男だった。辺りが暗い為か顔は良く見えない。
男の元に膝を付いて傅いているのは黒衣の僧侶だ。
「王よ。この度は如何なるご要件でございましょうか?」
王と呼ばれた男は塚山の天辺より空を見上げたままだ。
「『はこ』を探している」
王はただそう呟いた。
「さて、箱でございますか? それは一体いかなる物にございましょうか」
黒衣の僧侶からの問いに、王は空から塚山の麓にいる黒衣の僧侶に視線を移した。
「石版が入ったのみの箱だと聞く」
「石版、にございますか。探すには些か難儀しそうにござりまする」
「構わん。私が戯れに探しているだけに過ぎないのだから。もし見つかれば面白い事になるぞ」
黒衣の僧侶が周囲の影法師達に該当する箱をすべて探し出すように命じた。
影法師達は承諾し、散開していく。影法師は妖怪の手下であり、決して逆らわない。たとえどのような命令であろうとも聞く。影法師達を束ねる黒衣の僧侶が仕える、王と呼ばれる男は興味なさそうにそのような光景を眺めていた。
「王に伝える事がござりまする」
「言え」
「かつて魑魅魍魎達を従え、人間たちを震え上がらせていた御身。またそのようなお立場として立たれる意志はございませぬか?」
王は嗤った。
「私には似合わぬよ。私は魑魅魍魎を世に解き放って回るだけだ。あれをせい、これをせいと指図をして回るのは性に合わぬ」
黒衣の僧侶が王を仰ぎ見る。
「左様にござりまするか。残念至極にござりまする」
「いや、構わん。私を神輿に旗揚げを望む一派も存在するのは存じている。だが、今は私の気まぐれを許せ。これは悲願でもある」
「王に何かしらの思慮があっての事。自分が何故に異議を挟みましょうか」
王は緩やかに立ち上がり、塚山を下る。
「で、あるからして、貴様の為すことも自由にするが良い」
黒衣の僧侶が王に向かって深々と礼をする。
「人間共にオカルトドラッグを流通させる真似にございますか」
「そうだ。私が言っているのは海外の魔物共をドラッグの密輸に用いている点だ」
「ご存知とは! 恐れ入りまする!」
「世辞などよいぞ? 貴様が利用しているのは深き者どもと言ったな」
「確かに、そのような名の者達にござります。かつてはインスマスなど海外の街を乗っ取り支配するまでに至ったこともある魔物達にございます」
「海底を密輸ルートにするとはなかなか考えたものだ。人間達も見つけられまい」
「恐悦にござります。取引は彼らの言い値での売買となりますが、商品は人間共の魂を効率よく濁らせる格好の道具にございます」
王は黒衣の僧侶の脇を通り過ぎる。
「そちらの話に興味は無い。お前が深き者どもに顔が利くというならば、かつては海外にあったというはこの情報を得るにもよかろう」
「ははっ、該当のはこに心当たりがないか、やつらめに当たってごらんにいれましょう」
「期待せずに待つとしよう」
そういうと王は静かに闇の中に溶け込むように姿を消していった。
人ならざる者共は闇から闇へと渡り歩き、静かにこの世を蝕んでいく。彼らにとっては闇こそが本来の居場所だった。
黒衣の僧侶は完全に王の気配が消えるのを確認する。
「道楽好きの西国の大妖怪は去ったか。全く、何を考えてふらふらしておられるのやら・・・さてさて、我が偉業に妨げることがなく何よりよ。人間の魂は迷いに迷うわ金は手に入るわで、こればかりはやめられんな。カッカッカッ!」
黒衣の僧侶は高らかに笑った。先ほどまで王に対してへりくだって見せていた姿もどこへやら。悪態を付きながら自らの私利私欲を優先する有様。
周囲の影法師達は何を言うわけでもなく黙って立っている。彼らが付き従うのはあくまで黒衣の僧侶に対してであるのが見て取れた。
決して一枚岩ではない妖怪サイド。彼らには彼らの思惑と思想と価値観があり、それぞれが独自に動いているようでもあった。人類に安らぎが来る事はなさそうだ。
黒衣の僧侶も緩やかに闇の中へと姿をくらましていく。影法師達は無言で黒衣の僧侶の後に続いた。




