暗躍する山国議員
そこは真っ暗闇な議会室。
「「のうまく さまんだ ばざら だん せんだ まかろしゃだ そわたや うんたらたかんまん」」
室内に複数の真言が重なり合う。国家安泰の祈願。
顔に梵字を描いた白い布を付けた者たちが居並ぶ。
霞町町議会議員の集まりだった。その上座には影の町長と呼ばれる男が座っている。
町議会議員一同が深々と町長に礼をする。
「うむ。皆のもの、おもてをあげい」
町議会議員たちが顔を上げた。町長が話を続ける。
「今日こそは良き知らせであろうな」
町長の言葉に怪貝原議員が前に出た。
「町長。うちの秘書より我が手の者が通り魔を捕らえたと報告がありました」
町長は鷹揚に頷いた。
「なるほど。良き報せよ。でかした。怪貝原君」
「はっ! ありがたき幸せ! 良き報せのついでに重ねて報告させて頂きます。かねてより通り魔と認識されていた狼男も捕らえたとのこと。今は事件を解決した男が身元引受人となり、保護しているそうです」
町長は怪貝原議員を正面に見据えた。
「怪貝原君。君の元にいる男は大層優秀なようだな。確か古くからの子飼いの者だったか?」
「左様に御座います。古くからある伝統派の陰陽師にござりまして、在野にて放浪していた所を拾い上げました。今後とも何卒よしなに」
町長は頷く。
「良かろう。この町の超常現象対策事業は継続してそやつに任せるが良い」
町長の言葉に怪貝原議員は深々と礼をした。その表情はとても満足そうだった。
一方で山国議員の方はと言うと、拳を握りしめながら静かに目を閉じていた。
町長が山国議員の様子に気がつく。
「山国君。君のところの者が通り魔より返り討ちにあったと言う話は報せ聞いている。君はまだ若い。怪貝原君のように長年かけて作り上げた人脈でも無かろう。急造の組織は脆く様々な問題を同時に抱えるものだ。今回は良き勉強となったな?」
山国議員は目を閉ざしたままだが、拳をわなわなと震えさせている。
「返すお言葉もございません……」
怪貝原議員が山国議員の方を向いた。
「山国議員の手の者が我が方の男の従業員を拐ったと聞いた。いかが弁明するおつもりか?」
山国議員は目を開き、怪貝原議員を見る。
「……当方が素性のあやしき者まで編制していた事による落ち度。此度の一件、怪貝原議員側に迷惑をかけたこと、誠に申し訳ない」
山国議員は怪貝原議員へと頭を下げた。彼にとっても手下が悪事を働いたのは想定外だった。この点にしてみれば、フェイ・ユーも決してお行儀が良かったわけでもない。それもこれも全ては山国議員が怪貝原議員に対抗すべく、無闇矢鱈に掻き集めた人間達であった為に今回のような出来事となった。その上で起きた不始末について、山国議員は深く反省していた。
在野の優秀な退魔師は誰かしらが囲い込んでいる。その他の有能な者を探してヘッドハントしてようやく人数は揃い始め、その事に満足したがゆえの失敗でもあった。
町長が山国議員の姿を見ながら怪貝原議員へと語りかける。
「怪貝原君。山国議員配下の者の問題も無事解決したのだろう? 今回は一件落着でよかろう」
怪貝原は重い口を開く。
「確かに問題は表面上解決しましたが、新たな問題と脅威が現れました」
町長は「ふむ」と一言呟いた。怪貝原議員が言葉を続ける。
「問題を起こしたものは通り魔に加担していた何某かと繋がりがあり、その手の者とうちの朧木が交戦。その場はやり過ごす形で終えたようですが、巷を騒がすオカルトドラッグの流通ルートの組織と揉めた事に相違無しとの事」
町長が苦々しげな表情を浮かべた。
「新たな問題か。万事良しとならぬものよな。今度は組織立った相手だ。こちらもそれなりの対策が必要であろうが……」
町長は山国議員を見た。
「面目も無く……」
山国議員がうなだれた。それもそうだろう。山国議員が提案した戦力はドラッグを流通させているような組織を相手どるための組織再編案でもあった。
山国議員にとっては格好の場であったはずが、先の失態により目も当てられない事となった。
「怪貝原君。山国君だけではない。この場にいる同胞全てに告げる。総本山は動かぬ。国の危機にでもならぬ限りは動く事はない」
怪貝原議員は困ったような表情をした。
「総本山はあくまでも時代を見据える立ち位置を崩しませぬか」
町長は頷いた。
「左様。我らがこの街の政治を牛耳る迄になったが、それでもお山の者には些事に過ぎぬ。よって皆のもの励めよ! 我らは我らの意思で動く。山国君も今回の反省を活かし、組織を再編するが良い。山国議員の提案は採択する。我ら霞町配下の退魔師軍団を編制せよ」
町長は手を掲げて力強く言い放つ。
周囲の議員達は立ち上がり、手で印を結んだ後に最敬礼の形で答えた。暗闇の中に浮かぶ梵字達。彼らは彼らの思惑で町政に介入する。
皆が退室を始める中、山国議員もその場を後にする。
議会室を出た先で政治秘書が山国議員を待っていた。
「至急車を手配しろ」
山国議員が政治秘書にそう言い放つ。
「かしこまりました。いずこへお出かけでしょうか?」
「横浜の中華街だ。フェイ・ユーの師匠である在日中華退魔師軍団の元締め。青椒老師に会いに行く。フェイ・ユーはそれなりに使える男のようだ。中国道士を重点的に囲い入れる事にした」
政治秘書は承諾した。
「山国様。フェイ・ユーは華僑道士としては新進気鋭のエースだと聞き及んでおります。彼を基準にするのは危ういかと思われますが・・・・・・」
「構わん。今は信用のおける使える駒が欲しい。とにかく頭数だ。頭数をそろえねば・・・。それも烏合の衆ではない確固たる指揮系統を備えた集団を」
山国議員は今回の千載一遇の機会を逃した自覚があった。失敗は失敗として受け入れる。その上で今一度自らが肩入れする流派や組織を見直す。
未だに怪貝原議員の派閥が優勢である事に変わりなく、現体制を打倒し自らがのし上がる為には強固なピラミッドを作るしかない。国内勢力で難しければ、海外勢力も利用してでもやってのけてやろうと山国議員は息巻いていた。
霞町議会の動向は現時点を持って尚朧木側には優勢であったが、状況は刻一刻と変化をする。
山国議員は更なる手を打つべく動き出していた。




