謎の妖怪
「お初お目にかかる。陰陽師殿、私はしがない妖怪に過ぎない。名乗りは控えさせてもらおう。さて、あなた方の用件は把握している」
「なら、うちの従業員を返してもらおうか!」
黒い僧侶が「カカカカ!」と高らかに笑った。
「予想以上に早い対応。まさかこれほど早くにここを突き止めるとは。流石に計算外でしたよ。さてはさては名のあるお方か」
朧木は黒い僧侶への警戒を解かなかった。生き残ったうちの1体の式神に命じてさり気なく工場内に突入させる。
「貴様の目的はなんだ?」
朧木が黒い僧侶へ尋ねた。
「まぁまぁ、そう焦らずに。まずはお聞きください。我々はあなた方に敵対するつもりはさらさらない」
「言い直そう。貴様らの目的はなんだ?」
朧木の鋭い視線は黒い僧侶を射抜かんばかりだった。
「・・・・・・ほっほっほ。ほんとうに威勢のいい陰陽師殿だ」
黒い僧侶から若干の苛立ちが感じられた。
「僕に干渉してきたからには直近の出来事が絡んでいるのかね?」
「あぁ、沖田殿のことか。彼は残念な事になったものだ。彼はうちの顧客でね。商品をいつも買ってくれる良い上客だったのだよ。まったく持って困った事になったものだ」
朧木が拳を握り締める。
「彼が道を踏み外したのも貴様らのせいか!」
「バカを言っちゃあいけない。彼は元々あの有様だった。寄る辺も無く何をするわけでもなかった彼が、自分自身が何者であるのかを思い出し、生き生きとし始めたのだから。我々はその手助けをしたに過ぎない。その結果彼が何をしたのかは彼自身の問題であって、そこに我々がどうこうしたと言われるのは、はなはだ言いがかりを突きつけられているに過ぎないね」
と、そこに先程潜り込ませた式神がさくらをつれて戻ってきた。
「丼副君、無事だったか!」
「おっと、口上につられておなごを取り返されましたか。なかなかに抜け目ないお方だ。まぁ、用事はどちらにせよ済ませられます。今回はここらで手打ちと致しませんかね?」
黒い僧侶は嘲笑した。
「貴様らを見過ごすわけにはいかない!」
朧木がビシッと黒い僧侶を指差した。
とたんに黒い僧侶のオーラが膨れ上がった。
黒い僧侶がより巨大になったように錯覚する。周囲にすさまじい重圧が掛かる。
側にいた狼男が気圧されて後ずさる。
「ほっほう。陰陽師殿、威勢だけでは生き残れませんぞ。さて、いかがなさいますかな? こちらとしては面倒ごとは御免被りますがね」
強烈なプレッシャー。狼男がつばを飲み込んだ。
「ぐっ、感じるこの脅威・・・・・・貴様は一体何者だ?」
朧木は気圧されながらも黒い僧侶へ問うた。
「だから名乗るつもりはございません。今日のところは軽い挨拶だけにしておきましょう。重ねて言いますが、我々はあなた方に敵対するつもりは毛頭ない。ゆえに『我々に干渉しないでいただけないでしょうか?』これが本題で。おわかりいただけましたでしょうか」
朧木が押し黙る。本当はなおさら見逃すわけには行かない、と言いたいところであったろうが、朧木は相手の力量を見切れずにいた。
強烈な存在感。圧倒的な重圧。まるで巨大な何かに敵対しようとしているかのような危機感。この場は穏便に済ませてしまうのが一番ではないかと、朧木の心のどこかでそのような意見が出てくる。
精神が負けかけている。重圧に負けそうになっている。
さくらが無事であった安堵感が気の緩みに繋がりそうにもなっていた。
黒い僧侶の妖術にやられているようだ。気圧されて汗が滲み出る。
廃工場の屋根に乗る黒い僧侶は、廃工場よりも巨大なナニカのように錯覚させるほどの威圧感を放っていた。
廃工場から20体程の影法師達が現れた。先ほどの20体とあわせて、合計40体もの影法師がいたようだ。
「影法師。まだいたのか・・・・・・」
既に式神は7体から3体に減っている。このままではかなり分が悪い。
「このまま戦ってもただの消耗戦。こちらも駒を無駄に減らすのは極力避けたい。陰陽師殿、今日のところはこちらが引き下がりましょう。では、もう遭わない事を祈りまして、さらば」
廃工場の上にいた黒い法師は姿を消した。それにあわせて影法師たちも引き下がっていく。




