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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介と見る霞町
33/228

追跡する二人

 朧木は静まり返った朧探偵事務所内に戻っていた。狼男と一緒にいる。

「君だけが頼りなんだ! 頼む!」

 朧木が狼男に頭を下げた。

 狼男は嫌そうに朧木を眺めていた。


「俺に何の用かと思えば犬の真似事をしろとはな・・・・・・」


 朧木は両手をすり合わせて狼男に懇願する。


「うちの従業員が何者かに攫われたんだ! どんな痕跡でもいいから教えてくれ!」

「人の話を聞けよ!」

「聞いているとも! 君の事情も知っている! 殆ど不倶戴天の相手ともいえるバチカンの刺客に狙われているんだろう? 強制送還にならずにすませるには君の身元引き受けや身分保証が必要だ。ぜひともうちの従業員になってくれないか?」

「話が飛躍しすぎているぜ!」

「していないとも! 一般的な就労ビザで円満解決! 君は稼ぎ口も見つかりいい事尽くめじゃないか!」

「くっ、足元を見やがって・・・・・・」

「こちらも緊急事態なんだ。手段にこだわってはいられないんだよ」


 狼男が少しばかり考え込む。


「・・・・・・よし、わかった。そちらの条件で手を打とう。で、俺は何をすればよい?」


 朧木は少しばかりほっとした表情を浮かべた。


「この事務所内を何者かが襲ったようだ。そいつが誰なのかどこにいるのかを突き止めてもらいたい。匂いか何かは残っているのではないかと思うんだ」


 狼男は周囲の匂いをかいで回る。


「あんたや猫と人間の女と思わしき匂いはあるが・・・最近と思われる誰かの匂いもあるな」

「その匂いの後を追えるか?」

「できるとも。俺は自然のハンター、狼のモンスターなんだからよ。・・・狼に変身していいか? 街中で地面の匂いを人間の姿で嗅いでいるのはまずいからよ」

「わかった」


 狼男はバック宙返りをすると狼の姿に変身した。


「これなら犬とまちがわれるだろう。俺は不本意だがな。さて、では行くぞ」


 狼が率先して歩き出した。

 街中を歩く朧木と狼。その光景は犬を放し飼いして散歩している男、くらいにはまわりに見えるだろう。それはそれで問題が無いわけでもないが。


「狼男君。君はその姿なら普通の大型犬にしか見えないだろうね。それなら教会の人間もごまかせるんじゃないのか?」


 地面の匂いをくんかくんかと嗅いでいた狼が顔をあげる。


「ところがやつらは俺の目を見て普通の犬や狼と違うと感づくのさ。異様に黄金色に輝くからよ」

「なるほど。あちらも流石専門家だけのことはある・・・それにしても、君はどうして日本に来たんだい? 生まれは海外なんだろう?」


 朧木に問われた狼の表情はいまいちよくわからなかった。複雑な思いを抱いているようだった。


「俺はもともと一匹狼だ。生まれた場所に仲間は無く、もとより土地や国にも執着はない。だから旅に出たんだ。この国に滞在しているのはたまたまさ。俺の嫌いな宗教が蔓延っているわけでもない。居つくには丁度良かっただけだ」

「君らは歴史的背景でみてもキリスト教とは反目しあう間柄なわけだからね。この国にも教会はあるけれどさ」

「そいつら経由でバチカン本国から派遣員が送られている事は知っている。俺を捜しているロングソードを持った時代錯誤な女がいることもな。あれは冗談が通じないから厄介だ。俺を捕まえるまで活動を続けるだろう」

「魔沙のことか。僕も敵対視されていたよ。中々大変なお嬢さんだ。あの若さでバチカン特務院にいるということは相当腕は立つんだろうな」


 狼が周囲にきょろきょろと視線を向ける。


「ところで、周囲に人がいるときは口をつぐんだ方がいいぞ。流石に俺と会話しているとは思わないだろうから、独り言のうるさいやばそうなやつだと思われるぞ?」


 狼が視線を向けた先から一般の歩行者がやってきた。朧木は流石に口を閉ざし、犬を散歩している人間の振りをした。

 歩行者が通り過ぎて遠くへ行った。それを確認した朧木が口を開く。


「流石に狼が街中を歩いているとは思わないようだ。それにしても、うちの従業員を攫ったのは何者なんだ。わかるか?」


 朧木が狼の顔を見た。


「おそらくはあの通り魔と関わりのある者だろう。同じナニカの臭いがした」


 朧木が沖田総司のことを思い出す。あれに共通点を持つものというなら何があるのだろうかと。


「・・・・・・沖田か。あれは前世帰りするドラッグを使用していた。あいつに関わりがあるとなると、その関係者の線が強いな」


 狼が朧木の言葉を聞いて、嘲る様に笑い始めた。


「オカルトドラッグか。聞いた事があるな。製造拠点は海外にあるらしい。売人か何かでも居るんじゃないのか?」

「あり得るな。それにしても今を生きながら前世を気にかけるとはねぇ。僕には理解できないよ。大事なのは今の自分はどうかだと思うんだが」


 狼が朧木の顔を見上げた。


「どうだろうな。自分のルーツというのを、意外と人は知りたがるものなのかもしれない。自分が何者なのか・・・・・・そんな事をよ」

「自分が何者なのか、か。アイデンティティというものか?」

「自分がなぜ人とは違うのか、昔はそんな事ばかり考えていた。違う者は違うのだから仕方ないとはいえ、自分がなぜ狼男なのかということを考え続けていた頃があった。人間ではないのに人間社会の煩わしさに振り回されるんだから割に合わないぜ」

「人間の振りをして生きていかなきゃならないからか。狼に変身していれば狼としては生きられるんじゃないのか?」


 狼が自嘲気味に笑った。


「狼男は狼男だ。狼に変身しようが狼には警戒される。人間に変身しようが狼男として恐れられる。どちらにもなれやしないのさ。自分はどちらでもない」

「生まれついた宿業てやつか・・・・・・」


 朧木と狼が無言で街中を歩く。何人もの歩行者が通り過ぎていくが、誰も朧木や狼を気にする者はいなかった。

 外見だけなら狼男は人間にしか見えず、或いは狼(大きな犬)にしか見えない。どちらかであったならば狼男には何の問題も無かっただろう。そのどちらにもなれるからこその怪物(モンスター)だ。


「で、俺は思うのだが、前世ドラッグを使う連中というのは何者なんだろう、とな。この時代の人間でありながら前時代の人間ですらある。俺は狼でも人間でもない狼男だから尚の事不思議に感じる。彼らもこの時代の人間でもなく、前世の時代の人間にもなりきれないんじゃないのか、とな」

「転生者は確かに過去の人間を名乗ったが、この時代のルールに縛られる。全く同じになどなれやしないのに、なぜなろうとするのかは僕にも不思議だよ。そんな連中が後を絶たないからこそドラッグが蔓延っているんだろうが・・・・・・」

「自らドラッグを手にしなければそうはならないからこそ、俺は人間てのはのんきなものだと言うんだよ」


 狼が地面の匂いの変化に気がつき道を変えた。朧木も後に続く。


「時代も価値観も居合わせる人間も違うのに、過去の人間になったからといって何か大きなことが出来るわけでもないからねぇ。そのギャップにはまり込んで社会のルールを逸脱したのが通り魔事件の犯人像だと思う」

「あの刃物を持った通り魔か。どこからか手に入れた刃物に自己をゆだねているような危ういやつだったな」

「昔誰かが持っていた何かを手にしているからその人物になれるだなんてそんなわけはないのにね。その時代に沿った思想や活動家達がいて、その抑止力として存在したのが沖田総司という人物だったのではないかと僕は思うんだ。敵ありきで存在する人物。その人個人だけでは成立しえないんだよ」

「敵がいるから成り立つ誰か、か。俺はどこまで行っても敵役(ヴィラン)だからなんとも面白い話ではないな」

「そんな決め付けは良くないんじゃないのか?」

「モンスターは人に恐れられるからモンスターなんだよ。俺のように何もしていなくともよ」


 朧木と狼は無言になった。誰かが通り過ぎたわけではなく、会話の内容に対して無言になったのだ。

 静寂の中を狼が先導して歩き、朧木が後を追う。


「その濡れ衣も晴れたから良かったじゃないか。少なくとも行政は一般人としての戸籍を有しない事を問題視するだけであって、ほかは君の存在を問題視してはいない」

「・・・・・・だからこそ俺にあんたのとこの従業員になって暮らせ、というのか?」

「現状の解決案であるから僕は提案している」


 再び互いに無言となった。人通りの少ない工場地帯に入る。

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