殴り込み
夜の事務所。朧木は暗い事務所に帰ってきた。
「ただいまーっと、さすがに丼副君はもう帰ったかな?」
朧木が事務所の明かりを付ける。
「なっ、なんだこれは!」
朧木は室内を見て驚愕した。何者かに荒らされた跡がある。床に怪我を負った猫まんが蹲っていた。
「猫まん! どうしたんだ!」
「山国議員の子飼いの者達にやられたよ・・・・・・自分達の立つ瀬がなくなったので、強行的な手段に打って出てきたわけだ・・・・・・あの子ならやつらに攫われて行った・・・・・・」
猫まんはテーブルを見た。そこには置手紙があった。
朧木は手紙を手に取った。その手がわなわなと震える。その内容は脅迫文だった。
「生きた人間の方が始末は悪いねぇ・・・・・・」
猫まんが弱々しくそう言い放った。
朧木はぐしゃりと手紙を握りつぶした。
「連中はよほど僕に失脚して欲しかったようだな。だがこんな手段に出られるとは思ってもみなかった」
朧木は猫まんの傷の手当を済ませると、直ぐに出かける準備を整えて事務所を出て行こうとした。
「・・・・・・良介。どこに行こうというのだ?」
「雑魚を相手にしても仕方ない。主犯格のところに直接行くのさ」
朧木はそういうと事務所を飛び出していった。
中華街。騒がしい通りから少し外れた路地裏にある中華料理屋。
店内に客は少なく、少し寂れた店の雰囲気を冗長しているかのようだった。その一角にフェイ・ユーが座っている。
フェイ・ユーは紹興酒を呑んでいた。
と、そこに中国人女性のウェイトレスが駆け寄ってきた。
「お、お客さんにお客さんがきています・・・・・・」
困り顔でウェイトレスはそう切り出した。
フェイ・ユーはウェイトレスの話を理解しかねている。
「私にお客? どこのどいつネ?」
フェイ・ユーがウェイトレスに尋ね返す。と、フェイ・ユーの背後に黒い影。
ドカッ! とフェイ・ユーは背後から殴られテーブルに突っ伏した。
「グアッ! 何者ネ?」
フェイ・ユーが背後を振り返ると、鞘に入れたままの破軍を手にしている朧木が立っていた。
「フェイ・ユー。お前に聞きたいことがある」
朧木の顔に表情は無かった。
「誰かと思えば朧木サン! いきなり何するカ?」
フェイ・ユーがいきり立ちながら詰問する。
「ソレはこちらの台詞だ。うちの従業員を攫っておいてのんびり酒を呑んでいるとはふてぶてしい野郎だ」
「待て。何のことネ? 私知らないヨ」
「山国議員の手の者がうちの従業員を攫いながら身を引けとおどしてきているんだよ。お前が関与してないわけが無いだろう」
朧木の話を聞いてフェイ・ユーは慌てている。
「ちょっと待つネ! その件はきっと山国議員も知らないヨ。いくらなんでもそこまで非合法的な手段に出るほどの無茶はしないネ」
「それはどうかな? フェイ・ユー。お前もチャイニーズマフィアとのつながりの噂があるんだが」
「待つネ。それ、ただの噂ネ。私、中華街の主の用心棒ヨ。マフィアじゃないネ」
「だが、お前のお仲間がうちの従業員を連れ去った事には変わりない」
「それがおかしいネ・・・・・・さては通り魔に返り討ちに遭った連中の仕業ダヨ。このままでは解雇されるからきわどい手段に討って出たネ」
朧木が破軍の切っ先をフェイ・ユーに向ける。
「そいつらの居場所に案内しろ」
そう言う朧木は真顔だった。黙ってフェイ・ユーは頷く。




