罠にかかる通り魔
朧木が沖田総司の生まれ変わりと言う噂をネットに流すこと1週間。刀関連のサイトや新撰組関連のサイトに念入りに投稿する事によって噂をばらまくことで、犯人が関心を持っているであろうエリアに偽りの情報を張り巡らす。
式神を用いて街中を警備しているが、通り魔は一向に姿を現さない。どうやら通り魔は現在潜伏中のようだ。現れないなら炙り出すしかない。情報戦、心理戦によって犯人を追い詰める。それは朧木自身をターゲットにさせることで完遂する。
朧木は所長デスクのパソコンを眺めていた。『朧木という探偵は沖田総司の生まれ変わりらしい』と自作自演の偽情報を書き込んでいた。内容が内容だけにしょうも無い事をやっているな、と朧木は苦笑する。
「これで通り魔が出てきてしまったら、それこそ通り魔がそれだけどうしようもないやつという事になるな」
朧木は開いていたサイトを閉じた。
と、そこにさくらがお茶を持ってきた。
「朧木さん。調子はどうですか?」
「あぁ、ことさら丁寧に犯人を刺激する情報を撒いておいたよ。後は犯人が動くのを待とう」
「朧木さんはいつも受動的ですけれど、待ち伏せする戦術が得意なんですね」
「僕が待ち伏せされる側かもしれないぞ。なんにしても気の抜けない生活だよ。警察じゃないから能動的捜査なんて限界があるし、致し方ないとはいえ不本意な作戦でもある」
「表向き事件は沈静化しましたが・・・」
「裏では山国議員の子飼いの者達が返り討ちにあっている。体裁があるので隠し通すつもりのようだがね。面目は丸つぶれだろうよ」
「チャンスですね」
「それは悪い発想と言うものだよ。山国議員が事件を解決してくれるならそれに越した事はないのさ。一般人にとってはね。僕も少し困るが面倒は無くて助かるというものだ」
「だけど一向に解決する気配は無いですね」
「発端は櫻田神社から刃物の切っ先が盗まれた件だが、こんな面倒な事件を頼まれていたとはねぇ。報酬が高すぎたから嫌な予感はしていたんだよ。美味しい話なんてないという教訓かな」
「探偵事務所としてはそれで万々歳なんでしょうが」
「無事解決できればの話だね」
と、朧木とさくらがそんなやりとりをしていると、ふいに事務所の電話が鳴った。さくらが事務デスクに戻って電話を取る。
しばらく電話でやり取りが続いていたが、どうもさくらの様子がおかしかった。さくらは電話を保留にしてから顔を上げた。
「所長、その・・・お電話です」
朧木が怪訝な表情をする。
「どなたかな?」
「わかりません。名乗らなかったもん・・・」
「変な電話だなぁ。そういうのは切ってしまって良いよ。社会マナーがなっていないような者を、まともに相手にするような礼儀作法など無い・・・と言いたかったが、今の自分はそんな者を相手にしている最中だったな」
朧木は電話を受け取った。
「お前が朧木良介か」
電話口の向こうから低い男の声が聞こえてきた。
「確かに僕が朧木良介だが、あなたはどなたかな?」
「俺の事などいい。手短に話す。加州清光をもって3日後の晩に廃工場跡まで来い」
朧木はその瞬間に相手が誰だかわかった。
「・・・・・・そうか。君が沖田総司クンだね?」
朧木の声には軽蔑が混じっていた。
「なんだ。気が付いていたのか。そうだ。俺こそが本物の沖田総司だ。噂の偽物にはご理解いただけていたようで何よりだ。それなら話が早い。『俺の加州清光を返せ!』」
「そうはいかない。君はこの時代にやってはいけないことをやってしまった。君が何者であろうがそれは許されない」
「御託はいい・・・・・・俺が興味のあるのはあの刀だけだ」
「いいかい。これは最後通告だ。己の愚かさを恥じて自首するが良い」
朧木は強い口調で言った。
しばらく無言が続いた後、がちゃりと勢いよく電話が切られた。
「がちゃり、と受話器を下ろしたか。やはり公衆電話辺りから電話をしていたな! 今どき公衆電話を使うものは少ない。式神を張り巡らせてもらった」
朧木はすばやく式神に命じて町中の全ての公衆電話へと向かわせていた。
当たりだった。
式神が電話ボックスから出てくる男の姿を捉える。灰色のパーカーを着ていて、すっぽりとフードを被っている。フェイ・ユーから渡された写真の人物に一致する。
式神に後をつけさせる。沖田総司はしばらく歩いた後に一軒のボロ屋に入って行った。一見すると誰も住んではいなさそうなボロ屋だった。恐らく持ち主不明のまま放置されている空き家だったが、どうやら無断で入り込んでいるようだ。
「朧木さん、急にどうしたんです?」
「どうしたもこうしたも、通り魔の居場所が見つかったよ。逆探知を恐れて公衆電話を使ったようだが、それがかえって仇になったようだ」
「そっか。式神とやらを使ったんですか?」
朧木は頷いた。
「どうやら町中に張り巡らしておいたのが正解だったようだ。さて、相手の居場所は見つかった。指定の時間まで僕は動けないと思っているだろうからこれは好機だな」
「これから直ぐに出向くんですか?」
「まずは警察にタレこむのさ。彼らの顔を立てなければ。通り魔は転生者とはいえこの時代の人間だ。法の裁きは免れない。僕も現場には同行するがね」
朧木は警察署と電話を掛けた。現在捜索中の通り魔事件の犯人に関する有力情報を提供しているのだ。
「丼副君。僕はこの後警察の方達に同行する」
そう言いながら朧木は霊剣破軍を手に取った。
「刃物を持って同行するんですか?」
「場合によっては警察に協力しなくてはいけないからな。ちょっとした捕り物となる。では行って来る」
「気を付けてください……」
心配するさくらを背に、朧木は颯爽と事務所を出ていった。




