決闘
朧木はその剣撃を刀で受け止める。
「霊剣・破軍。かつてこの国に存在した破敵剣という北斗七星が描かれた霊剣を元に鍛えられた刀だ。北斗七星の一つである破軍星の力を宿している!」
ぎりぎりとつばぜり合いとなった。その際にフェイ・ユーがまじまじと破軍を見る。
「なるほど。確かに呪術的な霊剣ネ。だがまずかったネ。私が手にしている剣もれっきとした七星剣よ。本場北斗七星の霊性やどる剣の力を見るがいいネ!」
一際大きな金属音。フェイ・ユーが大きく七星剣でなぎ払ったからだ。朧木は弾き飛ばされる。その隙にフェイ・ユーが七星剣を構える。そうすると七星剣の刀身にうっすらと青いオーラが纏わり付く。
「目で見てわかるほどの霊性! これが本物の七星剣の力か!」
「我が霊力を纏わせたネ。受けるよ。火生符。燃えよ。点火!」
フェイ・ユーが懐から符を取り出して七星剣に押し当てる。
そうしたとたんに七星剣の刀身が燃え上がる。
「ちぃ、七星剣に道術も織り交ぜたか!」
朧木の表情には余裕が無い。火生符で火球でも作って投げ飛ばしてきたならば、破軍の力で打ち破って見せるつもりだったが、火生符を七星剣に押し当てて発火させるとは思わなかった。
「さて、我が道術、剣技。受けきれるカ?」
フェイ・ユーはブォンブォンと勢いよく七星剣を振り回す。回転する七星剣は炎のきらめきをその場に残し、剣筋には火の粉が宙を舞う。
フェイ・ユーは凶悪な笑みを浮かべた。その瞬間にはあっという間に朧木との間合いをつめていた。
ガキィンと金属音が鳴る。七星剣と破軍が打ち合う音だ。火の粉が飛び、朧木を襲う。
再びガキィンと金属音が鳴った。火の粉を受けた朧木への追い討ちを朧木が打ち払ったのだ。だが朧木は弾き飛ばされていた。朧木が壁にどかっと衝突する!
「なんと重い剣撃だ・・・・・・」
「どうしたネ。陰陽師。お前の力はこんなものカ?」
「これは呪術的闘争。なるほど。北斗七星そのものの刀を相手に北斗七星の中の一つの星の力だけで戦おうとするのが間違いだった」
朧木がよろめく。思ったよりも先ほどの一撃が効いていた様だった。
「そういう事ネ。戦いは初めから趨勢は決まっていたネ。お前では力不足ネ。今回の一件、私が片付けるネ。お前は引っ込んでいるがいいネ」
朧木を見下ろすフェイ・ユー。朧木は片膝をつきかけるが立ち上がった。
「・・・・・・諸天善神に願い奉る。陰にひなたに歩く道。市井の者の静謐を守らんが為、我が行く手に勝利を」
朧木良介は戦勝祈願の祝詞をあげる。そして彼は略式で反閇を行った。その歩行法は禹歩。
「・・・・・・その独特の歩法。北斗七星の形にステップを踏んでいるネ。それも道教がルーツのものカ」
「術者の行く手を清め、魔を打ち払う歩行法だ! そして受けよ。金生水!」
そう言うと朧木は指で霊剣の刃に沿って触れた。みるみる刃に水が滴る。
朧木は一気に間合いをつめた。渾身の一撃。フェイ・ユーは難なく受け止めたはずだった。
バキィ! 重い一撃がフェイ・ユーの七星剣に放たれた。激流に変わった刃の水がフェイ・ユーの七星剣の炎をかき消した。
「私の道術が・・・・・・」
ガキィン! と、一際甲高い金属音。今度はフェイ・ユーが朧木の剣の一撃と水流を受けて弾き飛ばされた。ザザザザッとフェイ・ユーが地面を転がる。
「何度も言うがこれは呪術的な闘争だ。同じ北斗七星の力を宿せば、後は術の属性の相性次第。刀は金。陰陽道の相関では火剋金でこちらが不利となっていたが水は火に剋つ。水剋火。そして刀の金は水を生み強める。刀より水を作る金生水の力の相性によって打ち破った」
フェイ・ユーがよろよろと立ち上がる。
「参ったネ。朧木サン。思っていたよりやるネ。なるほど、その腕があれば通り魔にも勝てるかもしれないネ。力ある者は認めるヨ」
フェイ・ユーは刀を鞘に納めた。
「あぁ、やっと引き下がってくれるようで何よりだよ」
朧木はやれやれと言った風に服の土ぼこりを払い落とした。
「山国議員の部下は通り魔に返り討ちにあっているネ。この男を訪ねるヨロシ」
フェイ・ユーは一人の男の写真を朧木に投げ渡した。
「この写真は?」
朧木は写真を受け取り尋ねた。
「彼が通り魔事件の犯人ね。『沖田総司』という昔の剣士の『転生者』らしいヨ。それも前世の記憶を呼び覚ますというオカルトドラッグの流通ルートに名が上がっているヨ」
「・・・・・・そうか。3段突きの技は刃物がどうじゃあなく、使い手自身の能力か。しかしやる事が通り魔とは地に堕ちたものだ」
フェイ・ユーが高らかに笑った。
「転生者の人格等はこの時代に生まれ育った環境が作るネ。今の彼のアイデンティティは剣士の転生者であるということ。ただそれだけネ。特別何かをやろう等とは思ってもいない」
「誰かの転生者は生前持っていた物に強く関心を持つと聞く。丁度加州清光の片割れを僕が預かっていたところだ。こちらから出向かずとも向こうからやってくるかもしれない。なんなら僕が加州清光を持って沖田総司の生まれ変わりを名乗ったっていい。通り魔の拠り所に揺さぶりを掛けてやるさ。借り物で自我が肥大化した自己顕示欲の塊君なら無視できないだろうよ」
「朧木サン。あなた、中々面白い事をやる人ネ。興味がわいたから私は高みの見物と行くネ。ただ、この件から手を引くというわけではないネ」
「ご丁寧にありがとう。だが、僕はそれで十分だ。この件は僕が片付けよう」
フェイ・ユーはその場を立ち去った。後には静けさだけが残る。
「話を聞くほどにどうしようもない通り魔だな。そんなやつの犠牲になった人々が哀れだよ」
朧木は誰にとも無く呟いたのだった。




