激突する陰陽師と道士
魔紗が朧木のところを訪れてより3日が経過した。朧木探偵事務所側からすれば何も変化がない日常が続いたようにしか見えなかった。だが、そうではなかったらしい。いつものように朧木が所長デスクに座っていたが、ある時突然大きな声を上げた。
「あっ、いつの間にか街の見張りの式神が倒されている!」
朧木は所長デスクから起き上がった。
「どうしたんです?」
さくらは朧木の声に驚いて尋ねた。
「どうしたもこうしたも、僕が放って置いた式神の反応の数が減っているんだよ!」
「通り魔にやられたんですか?」
「以前うちに来た中国の道士の仕業だなぁ」
「あー、あの火のお札を使った人」
「以前にも奇襲で式神を一体倒されちゃったからなぁ。機嫌が悪ければ僕の式神と知ってて引き裂くかもしれない。・・・・・・このままうちに来るかもしれないな」
「うわぁ・・・・・・お茶を出した方がいいですか?」
「友好的にくるとは思えないから不要だよ!」
招かれざる客が来るかもしれないと思うと落ち着かないだろう。さくらはそうだった。朧木はフェイ・ユーが自らの元を訪れる際の理由を考えていた。だが朧木がどれほど考えようとも彼と関わる理由はわからなかった。山国議員の一派と揉めるような真似もしていない。
しばらくするとコンコン、と事務所のドアがノックされた。さくらがびくんと反応する。
「し、所長・・・・・・」
さくらがすがるように朧木の顔を見る。仕方ないといった風に朧木が玄関のドアをあけた。
「やぁ、朧木サン。今回は私が訪れるのを気が付いていたようネ」
「・・・・・・またうちの式神を一体駄目にしてくれましたね?」
「あぁ、どうにも人外のものがうろついているのが癪でネ。つい条件反射で切り裂いたヨ。気が立っていた。謝るネ」
朧木は警戒を解いてはいない。玄関口で立ち話のままだ。
「フェイさん。今日は何の御用でしょうか?」
「ふっふっふっ。今日は朧木サンには良いお知らせかもしれない話をしに来たネ」
朧木は「ん?」と言った表情を浮かべた。想いもがけない話の切り口だったからだ。
「それは一体どういった話でしょうか?」
「なんと、山国議員の手下達が通り魔に返り討ちにあっているネ。実にふがいないヨ」
それこそ朧木には思いもがけない話だった。
「・・・・・・それは初耳ですが・・・・・・」
「イイヨイイヨ。これほんとの話ネ。山国議員の手下達が行方不明になっているネ。先日命からがら逃れてきた奴は通り魔に半殺しにされていたネ。みんな、相手を甘く見すぎたヨ」
「それはお気の毒に」
朧木は無感情にそのように言ってのけた。内心こうなる可能性も考えていなかったわけでもなかった。だが、懸念する内容でもあった。つまり、通り魔は狼男に負わされた怪我から立ち直っているという事だ。
「そうそう。実にお気の毒ネ。私思ったヨ。この国の道士達は不甲斐ないネ。もしかしてお前もそうなのカ? とネ。悪いが確かめさせてもらうヨ」
そういうとフェイはすらりと刀を抜いた。朧木は抜き身の刀を見て身構える。
「困った来客だな! 丼副君、壁にかけてある刀を持ってきてくれ。それは装飾じゃないからな!」
さくらが慌てて事務所の壁を見回す。壁には『破軍』と銘が描かれた額縁の中に刀が掛けてあった、さくらは壁に掛けてある刀を手に取り朧木に渡す。
「朧木サン。話が早いネ。剣術には自信あるカ?」
朧木も鞘からするりと刀剣を抜く。
「さぁて、僕は平和主義者でね。ご期待に沿えるかは自信が無いよ」
朧木も刀剣を構えつつゆっくりと玄関から外へ出た。建物の中で暴れられては敵わないので、少しずつ建物から離れるように歩を進める。
「あぁ、言い忘れていたネ。中国の道士、剣術も鍛えるね。桃の木剣などを使うこともよくあるヨ」
そういいながらフェイ・ユーは跳躍した。あっという間に朧木との間合いを詰める。と、同時に振るわれる刀。
ギィィン。と鳴り響く剣戟の音。全く躊躇いもなく振るわれたフェイの一撃を朧木はなぎ払った。
「あぁ、僕も言い忘れていた。陰陽師と言うのは刀とも縁が深くてね。特に霊剣と言うものを鍛える時に居合わせるときがあったんだ」
フェイ・ユーが笑った。
「ソレ、使う方じゃあなく刀を鍛える方ネ?」
そう言いながら上段、下段、袈裟切りと容赦の無いフェイ・ユーの剣筋が朧木を襲う!
「あいにくと過去の時代の妖怪退治は刀を用いる事も多くてね。故事に習って剣術を学ぶ者もいる」
朧木はその剣筋すべてを見切り、刀で受け、あるいは避けた。
「ほう、思ったよりやるようネ。霊剣と言ったカ。なにか特別な力でもあるネ?」
フェイ・ユーは日常会話でもしているかのようにフレンドリーに話しかけてくるが、容赦の無い剣の一振りの剣撃も一緒だ。




