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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介と見る霞町
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情報かく乱

「ならば交渉成立という事で・・・それにしてもあなた達の淹れるお茶は香りが飛んでいて、まるでなっちゃいないわね」


 魔紗がティーカップからお茶を飲みながらそう呟いた。魔紗はちらりとさくらの方を見た。来客の応対は朧木がしているため、さくらは事務デスクでお仕事だった。そのためだんまりである。


「ずいぶんとお茶にうるさいんだね。意外だ」


 朧木は魔紗にそう返した。日常会話になったのが意外だったようだ。とはいえ魔紗が朧木に突っかかっていく方向性であることは変わらなかった。


「ティーポットにお茶を淹れる前にはお湯を入れて温めておくものよ。それから紅茶の葉にお湯を注いだあとは少し蒸らすの。茶葉が広がるのを待ってからカップに注がなきゃ」


 魔紗がティーポットの中のお茶を見てからそう言った。決してお茶が薄かったわけではないが、指摘としては細かかった。


「これはこれは手厳しい。気をつけるよ。海外暮らしが長かったから流石に鋭いね」


 お茶出しをしたのはさくらだったが、朧木は我が事のようにそう言った。


「今時はこの国から出たこと無い者でも紅茶の香りや味くらいはわかるでしょ」


 魔紗は出自が日本であるが、育ちは海外だった。


「僕にはそこまで香りの違いがわからなかったからなぁ。気にもしなかったよ」

「さて、話はおしまい。私達教会側は朧木良介、あなたの成功を祈ります。では」


 魔紗は立ち上がるとそのまま朧木探偵事務所を後にした。

 しばらくしてさくらがお茶の片づけを始める。


「朧木さん。私のお茶の淹れ方。そんなに駄目でしたか?」


 朧木は「うーん」と考えている。ぱっとは答えが出ないようだ。


「僕はそうは思わないけれどなぁ。お茶にうるさい人には気になるんじゃない? 正しいお茶の淹れ方をご教示して行ってくれた位には友好的だと考えていいのかな」


 駄目出しではあるが、どうすればよいのかを提示していっただけましなのだろう。少なくともいちゃもんを付けられただけではないのだから。もしかしたらあれはあれで魔紗の友好のつもりだったのかもしれない。それであるならそれはそれで魔紗という人物も大分人付き合いを苦手とする人物なのかもしれなかった。


「そうだ。朧木さん。通り魔を探す策なんてあったんですか?」

「ある。というより手は打っておいた」


 朧木は自信満々にそう答えた。


「どんななんです?」

「魔紗さんもお帰りになったことだし話しても大丈夫かな。櫻田神社に奉納されていた沖田総司のかつて所持していた刀。折れた刀のもう片割れの方を僕が預かったのさ」

「えっ、何のためにです?」

「通り魔は折れた切っ先をナイフに変えて所持し、狼男相手にも自慢しているような様子だからね。きっともう一つの片割れの方も欲しがると思ってさ」

「神主さんはよく許可しましたね?」

「一時的に借りるだけだからさ。後はネットに情報を流して置いた。朧木探偵事務所の探偵が加州清光を所持している、とね。ついでに言えば加州清光の正統な所有者である、とも」

「その刀の方も修理できないんですか?」

「うーん。刀と言うのは折れてしまうと溶接してまた直すというのは無理なんだよ。切っ先のあるほうを短刀などに打ち直すことはあったようで、犯人もそれを知っていて切っ先をナイフにしたようだがね」

「じゃあ、切っ先の無い方はもう直せないんですか」

「溶かして打ち直すことは出来るが、それは加州清光がもはやそうでなくなるという事もであるな・・・・・・おや、これはいけるかもしれない。ネット上に加州清光を溶かして打ち直そうと検討しているらしいと情報を流してみよう。ここまでやれば犯人は引っかかってくれるかもしれない」

「犯人を挑発しておびき出すつもりなんですね。なんだか私の囮捜査のときと大差ないような気が・・・・・・」

「何を言うか。相手が求めるものを知り、予め罠を張るのは定石だよ。この策を使わない手は無い。危険人物を野放しにしているくらいならば、できる手は打った方がいいだろう」

「それはそうなんですけどね!」


 朧木は朧木で出来る限りの罠を張っていた。さくらは朧木が何もしないでいるのではないとわかり安堵した。

 通り魔を探す者、おびき寄せる者。様々な者が様々な思惑で動く霞町。事体が変わるまでに、そう時を必要とはしなかった。


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