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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介と見る霞町
24/228

女エクソシストの立場

 背後で大きな動きがあった頃、朧木探偵事務所はいつものままだった。さくらが事務デスクで暇そうにしているほか、所長である朧木良介は所長デスクで考え事をしていた。

 猫まんは出かけているようで姿が見えなかった。

 いつもと違う光景があるとすれば、それは事務所内に魔紗が居る事だ。魔紗は突き刺すような視線で朧木をにらんでいる。憎悪ではなく対抗意識が垣間見られるそれは、何かを問いただそうと間を伺っている時の空気に等しい。


「朧木良介。小耳に挟んだ事なのだが、貴様が狼男を捕らえたと聞いた」


 朧木は困った話を聞かれたと感じた。情報が伝わるのが早すぎる。恐らくは亜門が情報を流したのだろう。どこまでいっても朧木の都合の悪い動き方をするものだ。だが朧木は状況の進捗報告を亜門にしないわけにはいかなかった。怪貝原議員の連絡先を知らないわけではなかったが、事は亜門から依頼されているのだ。亜門をないがしろにするわけには行かなかった。そうしてしまえば、今以上に関係がこじれてしまう。


「魔紗さん。お耳が早いですね。確かに僕が捕らえました」


 朧木は正直に答えることにした。今のところはそうするところで問題はない。


「中々やり手のようね。狼男を力でねじ伏せたらしいじゃない」

「あぁ、うちの従業員の一人が優秀でね」

「そう。狼男の処遇については不法入国が問いただされるはず。場合によっては当方が身元引受人となる用意があるわ」


 教会側の話は朧木の予想通りだった。


「あぁ、それなら助かるね。うちじゃあ引き取れないから。だが、狼男君は通り魔事件の重要参考人だ。未だに犯人とも疑われている。つまり、事件解決までは彼は自由にはなれないんだ」

「そう。それで私に協力でも求めるわけ?」


 魔紗は探るように朧木に尋ねた。どうやら朧木の動向を警戒しているらしい。


「君が刃物を持った武装勢力を鎮圧する訓練でも受けているのなら頼みたいところだが」

「あいにくと私は対テロについては専門外なの」


 残念ね、といわんばかりのジェスチャーで魔紗が答える。だが、恐らく彼女は刃物を持った男とも戦えるだろう。魔物との戦闘訓練は対人だろうが問題なく経験を発揮できることだろう。


「そんなわけだ。エクソシスト殿のお力が必要な局面ではないということで、現状は静観願いたいところなのだが」


 朧木は敢えて教会側の手出しを避ける形をとった。


「そう。『私は』それで問題ないけれど、山国議員の一派が活動を始めたらしいわよ。これは亜門から聞いた話だから確かな情報でしょうね」


 朧木は一瞬眉をひそめた。朧木自身が動けない状況であるのは国家権力と競合するわけにはいかないからであった。だが、山国議員の一派は陰陽寮という国家権力と並ぶ勢力を目指す集団だ。どうやら今回は最初から遠慮など無いようだ。

 これは面倒な事になると朧木は感じた。


「これはこれは。重要な情報をありがとう。警察と山国議員が雇った集団があれば、直ぐにでも事件は解決してくれそうだな。僕としては楽が出来そうでなによりだよ」


 朧木は本心にも無いような事を一つも二つも並べ立てた。まずは事件が直ぐに解決する等思っても見ない。近接戦闘で狼男を上回った人間だ。警察の手には余るだろう。山国議員の手下がどれほどの腕前かはわからないが、フェイ・ユーと名乗った男のことを思い出した。中国の道士もいるのなら、或いは事件解決も可能なのかもしれない。だが、彼らが出張っていく以上は朧木自身が動かぬわけには行かない。そしてそれは山国議員の手下との競合と成りえるので、決して楽には行かないのだ。


「あんた、そんなにのんびり構えていても言いわけ? あんたの進退問題が関わっていると思ったのだけれど」

「あー、困ったね。事件解決してくれるのは良いけれど、僕の生活が大変になっちゃう。これはとても問題だ」

「すっとぼけているけれど、あんたに何か策はあるわけ?」


 朧木は魔紗の様子を伺った。彼女は亜門との繋がりがある。話を聞かれて困る事はあるのだ。話してよいか迷っている風だった。そして朧木は考え抜いた挙句・・・。


「・・・・・・・・・あるよ。無策ではない。犯人の方向性は大体見えてきた。彼の能力はともかく、性格のほうはある程度予想がつくくらいにはね」


 朧木の言葉に驚いたのは魔紗の方だった。魔紗は朧木に何の策も無く、警察関係者ともつながりのある朧木の立場上の問題で、動けないものとばかり考えていた。


「まさか、そこの子のように囮捜査でもしようって言うんじゃないでしょうね?」

「あぁ、丼副君のことか。彼女も随分と無茶をやるものだ」


 事務デスクでさくらが「うっ」と嫌そうな表情を浮かべていた。


「自分で考え付いたのだろうけれど、それを実行に移そうという行動力は評価できるわね」


 魔紗が事務所の中を見回して言った。


「あぁ、彼女なら思い立ったら即行動だからね」

「従業員であの調子なのだから、雇用主なら更なる無茶でもするんじゃないかしら」


 魔紗が呆れるように言った。


「んー、餌でおびき寄せるという点では僕の発想も丼副君のそれと変わらないなぁ」

「餌? 通り魔が何を必要としているというのさ」

「彼のアイデンティティかな。自我の拠り所としている節があるものを知ったので、逆に利用する価値はある」


 朧木は狼男から聞いた話を元に計画をしていたことがあった。その計画はうまくいく確信を持っている。


「そう。教会側としては協力致しかねるけれど、あなたがうまくいくことを願うわ」


 教会は朧木が事の顛末を抑えた結果だけを横から掻っ攫うつもりのようだ。

 朧木としても邪魔さえ入らなければそれで良かった。


「それはそれとしてだね。僕の方としては狼男君を保護しなくてはいけない。ずっと先の話はまだ確約できないが、ね。もし彼が逃げ出したときは君達が好きにするといい」


 という朧木の言葉に対し、魔紗は満足そうに頷く。


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