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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介と見る霞町
22/228

狼男の話

 朧木が一連の手続きを済ませてから狼男を警察署から連れ出すまでに数時間を要した。

 夕方頃。朧木は狼男と並んで街中を歩いていた。狼男とは言っても人間の姿をしているので、街中を歩いていても全く問題がない。


「ところで狼男君。名前はなんていうのかね?」

「おいおい。曲がりなりにもあんたは魔術師(メイガス)。自らの真の名ではなくとも、名など知られないに越した事はない。俺は名乗るつもりは無い」

「おかしな警戒のされ方をしているなぁ。そんなつもりは無かったんだけれど。それに君は僕の事を過大評価しすぎだよ」


 朧木は敵には過小評価されていたいタイプだった。朧木は少なくとも過大評価された挙句に対策を講じられるような事にだけはなりたくないと考えている。


「俺の事は狼男でいい。メイガスに名で呼ばれるなんて事にはなりたくないからよ」

「はいはい。狼男君。君は任意で狼男になれるのかね?」

「あぁ。満月の晩はそうは行かないが、普段は自分の意思で変身をする」

「狼の姿にならなくとも、狼並みの嗅覚は得られるのかい?」

「そこは問題ない。なんだ。俺に警察犬の真似事をしろと言うのか?」


 朧木は狼男にリードをつけて犬のように飼いならしている光景を思い浮かべた。・・・犬ならまだしも中途半端な狼人間の姿では奇異な姿としかならなかった。


「・・・・・・犯人の匂いは覚えているかな?」


 朧木は妄想を振り払って狼男に質問した。


「覚えている。・・・・・・が、あれ以降見かけたことは無い。怪我をしているのだろう。じっと身を隠して動かないようだ」

「・・・・・・ふむ」


 朧木は顎に手を当て思案した。狼男の目撃情報が出た時以降は通り魔が現れた話は出ない。ということは狼男が反撃した結果、手傷を負わせた可能性は高い。

 入院したのならば病院から足取りを追える。だが、傷病理由が病院にばれる。闘いの末の怪我ともなると、警察がかぎつけていてもおかしくは無かった。よって病院に居る線は薄い。


「俺は俺なりに事件を追っていた。あれ以降は陰も形も無いことだけは確かだ」

「相手のほうも君の正体が狼男であることを知っているのだろう。なら警戒している事だけは確かだな」


 妖刀所持者が犯人で人外が被害者の事件が発生した。事件簿には残らない形の事案であるが、それは解決するべき者が別であるというだけのこと。

 朧木は少々困っていた。世間が犯人だと思っている狼男は犯人ではない。そして真犯人は自らが依頼された失せ物探しの物品の所持者であるということ。そして犯人の足取りがつかめなくなってしまった事。時間の経過だけでは不利な状況としかならない。


「なぁ、メイガス。あんたの使い魔はどうなんだよ」

「式神なら特に怪しい者は見かけていないなぁ。一般人を装って潜まれたら流石にわからないからね」

「刀の妖気を捉えたりとか出来ないのかよ?」

「そんなことが出来たら、君じゃなくまず刃物を持った男を追いかけるだろうよ・・・そういえば、通り魔は君に刃物自慢をしたのかい?」


 朧木はふいに閃いた。


「あぁ、自慢げに刀の銘の御講釈たれていたよ」

「なら犯人ははやり好事家の類だな。今回の件以前から日本刀に絡んだ商品を買ったりしている可能性がある。プロファイリングの精度次第だが、これは案外いけるかもしれないな」


 犯人が自慢げに刀の銘を明かしたという事は、『はじめからその刀目当て』で櫻田神社に盗みに入ったという可能性が高い。そんな人間は最初からその手の物に興味を強くもっている可能性が高いのだ。


「なら、そういった店に縁のある者の犯行か?」

「折れた刀をナイフに打ち直すような者だ。どこかに依頼した可能性が高いな。その線から追ってみようか」


 朧木は探偵事務所に電話し、さくらに都内の刀を取り扱う古美術商を探させた。その際に、折れた刀をナイフに打ち直させた者が居ないかも探させたのだった。


「狼男君。決戦の時は近いかもしれない。君は相手にリベンジしたいかね?」


 狼男は口を大きく横に開いて笑った。まるで狼のように大きく口が裂ける。


「あぁ、この前の借りを返したい」

「では君に通り魔を任せよう。なに、僕は荒事が苦手でね」


 狼男がせせら笑った。


「はっ、よく言うぜ。格闘技をやっている鬼神を使役しているなんてよ。ところであの時の護法童子とやらはどうした?」

「彼なら本日有給さ」

「ゆうきゅう? なんだそれは」

「有給は有給休暇だよ。文字通り僕は彼を使役しているので、労働基準法が適用されるんだよ。彼も従業員なものでね。現代では護法童子を使役する為に労働契約を結ばなきゃいけないんだから嫌な時代だよ。経営者の僕には有給休暇なんて概念すら存在しないというのに。使役される側の方ががちがちに権利で護られているんだから」

「あん? 使い魔に賃金払って雇っていたのか?」

「そうなんだよ。鬼神にお布施と言う名のお給金を払って使役させていただいているんだ。なんなら君もうちの従業員になるかい? 給料は弾むよ?」

「俺はやめておくよ。狼男が使い魔に成り下れるかってんだ」

「現代の使い魔契約は給料あるからお勧めなんだってよ。グッドファミリアというフリーペーパーに条件のいい使い魔契約を載せてあるから、気になったらいつでも電話をくれ。なに。君なら正使い魔雇用が妥当だろう。週休二日。社内旅行ありで月収28万辺りなんてどうだ? ただし危険な仕事も伴うがね」

「時々命がけの戦いがあります、だろうよ。かなりブラックじゃねーの?」

「仕事中の戦いで怪我をしようが労災はおりるから安心してくれ。なんでも使い魔の共済組合があるとかなんとか。いやはや、この辺りは使い魔を雇う側にも便利になったものだ。団体企業保険っていうの? 従業員が怪我や死亡をした際の企業保険なんてのもあるんだから」

「大分黒い職場だろう?」

「何を言うか。アットホームな職場を心がけているよ」

「それ、ブラックな職場の常套句だろうよ」

「うーむ。雇われる側の意見もためになるなぁ。今後の為にもう少し勉強しよう」


 と、朧木と狼男がそんなやり取りをしていたところ、朧木の携帯電話が鳴った。

 さくらからの電話だった。朧木が依頼した古美術商などを探した結果、なんと折れた刀の打ち直し依頼が一件あったのだ。


「超法規的措置っていうのは便利でね。僕はそのカードも使えるんだよ。たとえば一般企業に情報開示請求も出来ちゃう。特殊探偵としての捜査特権ってやつだね」

「なぁ、メイガス。あんた、現代的過ぎたりやしないか?」

「何を言うか。過去の魔術はその時代の最先端。つまり『現代的』なんだよ。僕は僕なりに現代の術を作り出そうともしているし、必要なことなら全て取り入れる。必要とあれば現代的な手段も取り入れた上で、この時代の術者ってやつをやるだけさ」

「鬼神といい、この国の連中は現代的って話だよ!」

「日進月歩。人も神様も精進していると言いたまえ。怪しい男の情報は掴んだ。先に警察にその情報をリークしておくことにしよう。後は警察の捜索次第だ」

「なんだ。俺達は動かないのかよ?」

「刃物を持った危険人物となると、僕らよりもまず警察の出番さ。まだ相手はただの人間の線が強い。僕の捜査特権もまだ使えないと言うわけだ」

「面倒くさい。なんとかならないのかよ!」

「僕の捜査特権は狼男という超常に対しては有効でも、ただの刃物を持った危険人物ではねぇ。だから情報リークするのさ。刃物そのものは所有者に帰ればいいだけなので、僕としてはあまり無理をしないに限る」


 朧木と狼男は一旦探偵事務所に戻ることにした。

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