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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介と見る霞町
21/228

人狼の扱い

 満月の晩の翌日。昼の警察署の中で悠々と座っている男、朧木良介。彼は警察署の待合室で狼男と向かい合っていた。


「やぁ、狼男君。日本の警察署は如何かな?」


 朧木はにこやかに狼男に挨拶をした。


「別荘にしちゃあいい場所じゃねーか。これで首輪でも付けられなきゃ良いんだがよ」


挿絵(By みてみん)


 狼男は首に付けられていた首輪を指でトントンと叩いた。発信機付きの首輪で、狼男の居場所は筒抜けとなっていた。


「君の腕力なら簡単に引きちぎれるだろう。だが、それが付いている間は君の行動に自由が認められるんだよ」


 狼男は腕組みして椅子に深く座った。


「敗者は何もいえねぇさ。それよりこんな回りくどい真似をしてなんなんだ?」

「中々聡い様で。実は君は通り魔事件の重要参考人なんだ。最初は犯人と(もく)されていたくらいにね」


 狼男は憤慨した。


「おいおい、ふざけるなよ。どちらかと言えば俺も被害者の側だ。まったく、この国の警察は何をやっているんだよ」

「まぁまぁ。君は事件現場で狼男の姿で目撃された。当初は君が犯人だと世間では疑っていたんだよ。警察も君を重要参考人として追っていた。僕もね」

「人気者はつらいねぇ。刃物なんざに頼らねぇような化け物を通り魔として追うような馬鹿な連中とは笑える話だぜ」

「そう。僕としては狼男が刃物に頼らないだろうし、狼の手で刃物を振り回そうとも思わないだろうと思っていたから、犯人は最初から別に居ると気がついていたがさ」

「あったりまえよ。天下に名高いモンスターの端くれ。それがなぜに刃物なんざに頼らなきゃいけないのか」


 狼男は狼男で居る事にプライドを持っているようだった。生まれ付いてのモンスター。存在自体が人類を脅かす存在である。本来なら人間に協力等しないだろう。だが、今回は事情が異なる。


「その狼男が通り魔相手に後れを取ったわけだ」


 朧木の台詞に狼男の顔色が変わった。


「・・・・・・そうだ。あっという間だった。同時に3箇所を刃物で突かれていた。とても人間業じゃあなかったぜ」

「その犯人の素性はわからないが、手にしていた刃物が僕の追っているものである可能性が出てきた。刀の名は・・・・・・」

「加州清光」


 朧木が言いかけたのを狼男がさえぎった。


「・・・・・・その名を知っているのか?」


 朧木が少々驚いた。


「犯人がナイフを抜いた時に自慢げにそう名乗っていたよ」

「ナイフだって!?」


 朧木は思わず素っ頓狂な声を上げた。探し物がナイフに打ち直された可能性が出てきたからだ。犯人は加州清光の折れた切っ先をナイフにしていたようだった。


「そう。なんだ。刀じゃなくナイフだったぞ」

「やれやれ。依頼主には発生する出来事の解決も頼まれているんだったかな。探し物の沖田総司の刀がナイフになっているだなんて。面倒な仕事に面倒な出来事ばかりが重なる」


 朧木は疲れきった表情でこめかみを押さえた。


「ご大層な刃物じゃねえか。どーりで俺に傷をつけるだけの事はある」

「狼男君。君が自由を求めるならば、幾つかの手続きを踏まなければならない。僕に協力してもらえるだろうか?」


 狼男は意外そうな表情を浮かべた。


「俺が自由になれるだって? そんな話があるのかよ?」


 朧木は頷いた。


「あるとも。司法取引が行われる。君が通り魔の姿を見ている唯一の目撃者だ。捜査協力をお願いしたい。そうすれば君の不法入国と滞在の件は超法規的措置によってなんとうやむやになる!」

「ほう、俺の協力がねぇ」

「そうでなければ君は本国に強制送還されるだろう」


 狼男が豪快に笑った。


「おいおい。おれは母国がどこなのか話をしていねえぞ。どこに強制送還されるんだってよ」

「バチカンさ」


 狼男の余裕だった表情はあっという間に青ざめた。


「どういうことだよ?」

「あそこから派遣された女性が君の事を探している。恐らくは君の身元引受人を名乗って出てくるだろう。そうなると君の偽造身分証を作り上げて、当のバチカンへ強制連行さ」

「あんなところに連れて行かれたら一生自由なんて得られねーよ!」

「そんなところだ。教会の人間は君がここに居る事に気がつくまであまり時間はかかるまい。どうするかね?」

「ちょいと面倒くさいが手伝ってやるよ」

「話が早くて助かる。では僕が君の身元引受人となろう」


 朧木はそういうと近くの警官に話しかけた。狼男の身柄を引き受ける手続きを済ませている。


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