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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介と見る霞町
20/228

打倒狼男!

 朧木良介は押し黙り、カチカチカチと三度歯を噛み合わせた。それは天鼓と言う呪法の一つ。

 そして反閇と呼ばれる儀式が略式で行われる。陰陽道の邪気払いの手法の一つだ。


「諸天善神に願い奉る。陰にひなたに歩く道。市井の者の静謐を守らんが為、我が行く手に勝利を…平穏なる未来へ、まかりとおる!」


 朧木良介は戦勝祈願の祝詞をあげる。そして彼は人差し指と中指を立てた。己の指を刀に見立てた行為で刀印と呼ぶ、その指で刀を振るうようにシュッシュッと振り払い、四縦五横呪(しじゅうごおうじゅ)を唱え、刀印にてドーマンを切った。

 ややあって、朧木良介は独特のリズムで歩を進める。禹歩と呼ばれる呪術的歩行法。足拍子を踏むことにより大地を踏み鎮めるという。


「おい、優男。やる気満々じゃねえか。嫌いじゃねえぜ。やるかい」


 狼男が挑発する。その瞳は金色にぎらつき輝く。


「僕の名は朧木良介。我が朧木流は世の為、人の為に振るわれる剣。いざ、尋常に・・・・・・勝負!」


 朧木良介は左手をそのままに、右手を狼男へとかざす。周囲に居た式神たちが一斉に狼男に飛び掛る。


「しゃらくさいわ!」


 狼男は爪を一閃。二、三体の式神が狼男の爪で引き裂かれて、あっという間にただの紙切れに変わる。


「御神酒代わりに一杯呑んできたが、流石に余裕をかましすぎたかなぁ」


 と、朧木良介はすっとぼけたような台詞をはいた。


「はっ! こうなる可能性も考えた上で酒を引っ掛けてくるなんざ、俺も舐められたものだなぁ!」


 群がるように一斉に飛び掛る式神たち。狼男はさらに爪を一閃した。もう一体の式神がただの紙切れとなる。

 朧木良介は右手でくるりと円を描く。式神たちが狼男を取り囲んで円陣を組んだ。


「なぁに、丁度いい景気づけだよ。神気は体内で練る。御神酒も体内に奉納しなきゃね」


 円陣を組んだ式神たちが飛び掛る。


「こんな紙切れ、何体呼び出したところで役になんざ立ちゃしねえぜ!」


 狼男は両腕を広げてその場で回転し、ダブルラリアットをした。狼男の豪腕で式神たちは弾き飛ばされる。


「流石はメジャーな西洋の妖怪。僕の式神程度じゃあ足止めにもならないか。・・・・・・ところで、うちの女性従業員が君を見かけたようだが、怪我をしていた身で何のつもりだったのかね?」


 朧木良介は式神をけしかけながら狼男に尋ねた。


「あん? この間の無茶するお嬢さんか? 悪質なナンパに引っかかったようで災難だったな。ナンパ野郎が気に食わなかったんで、ちょいと狼男姿で説教してやったのよ。あのクソガキ、女には舐めた真似して強気だったくせに俺を相手には腰を抜かしやがってよぉ。俺はああいう野郎は大嫌いなんだよ」


 狼男は式神をさらに数体の式神を引き裂き、ただの紙切れに還した。


「ふむ。『やはり僕は君を保護しよう』」


 朧木良介は剣に見立てた指を立てた左手を狼男へと向ける。


「おいおい。俺より弱いあんたが俺を保護するだってぇ?」


 狼男は更に飛び込んできた一体の童子を無造作になぎ払おうとする。


挿絵(By みてみん)


 が、童子はその腕をがっと掴んだ!


「な、なんだぁ?」


 狼男が驚愕する。


「あぁ、そいつは式神じゃないよ。護法童子というんだ。神霊や鬼神の類さ。彼も怪力が自慢でね」


 護法童子と呼ばれた童子は狼男の腕を掴んで投げ飛ばす。狼男はコンクリートの壁にめり込むように弾き飛ばされた。


「がはっ、なんて力だ! 神霊だとぉ? 気にくわねぇ単語だぜ!」


 倒れた狼男にマウントを取るように護法童子がのしかかる。


「さぁ、ゲームセットかな?」


 狼男の様子を見た朧木良介はそう呟いた。


「こんなガキみてぇなやつに俺がやられるとでも・・・・・・」


 マウントを取られた狼男は護法童子に殴りかかろうとする。だが、護法童子には効いていない。腰が入らず、パンチが腕の筋力だけで放たれて、たいした威力が出ないのだ。護法童子は悠々と一撃パンチを狼男に見舞った。


「おいおい。狼男君。君は近代格闘技がお嫌いかね?」

「なんだってぇ? 近代格闘技をする神霊だとぉ?」

「鬼神だって体を鍛えたり格闘技をやったりするものだよ。研究と研鑽は途絶えるものではないな」


 狼男は俄然戦意を失っていなかった。


「ちっ、こんな子供だましで・・・・・・」


 狼男は護法童子に掴みかかろうと不用意に腕を伸ばした。


「おいおい。その子を相手にそんな真似をすると・・・・・・」


 朧木良介が何かを言いかけたところ、護法童子は狼男の腕を取って捻り、関節を締め上げる。


「ぐっ、がぁぁぁぁぁぁああああああああ!」


 夜の街に狼男の絶叫がこだまする。


「ほら言わんこっちゃ無い」

「く、くそっ、天下の狼男様が神霊相手に近代格闘技で敗北するなんざ、あってたまるかよぉ!」


 狼男はなおも力づくで技を振りほどこうとする。


「あー、怪力ならその子も自慢なんだが・・・・・・」


 護法童子が容赦なく技をがっちりきめる。みしみしと狼男の腕から音が聞こえ始める。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁあああああ!」


 狼男の叫び声がとまらなくなる。


「やれやれ。僕は君を保護するのが目的なんだ。痛めつけるつもりはない。式神たち。狼男を捕らえろ」


 腕ひしぎ十字固めで身動きが取れなくなった狼男に式神たちが群がる。式神たちは狼男にぺたぺたとお札を貼った。


「な、なんだぁ? 力が抜ける!」


 狼男は情けない叫び声を上げた。


「そいつは邪気を払うお札さ。人外の力を振るおうにも振るえなくなる。つまり今の君はただの人間と変わらないって事さ。さて、確保」


 狼男は両手と両足に枷を付けられた。


「ちっきしょう。こんな連中に・・・・・・」

「僕はよほどの事がない限りは動かないがね。だが、この街の平穏は僕が護る」


 敗因。護法童子は近代格闘技を体得した神霊にして鬼神。それに対して狼男は格闘技には素人。同じ怪力同士でも怪力頼みに慢心した狼男の敗北であった。


「ちっ、降参なんざするかよ! だがはっきり言っておく。おれは少なくとも反社会的な活動はしちゃいねえよ」


 朧木良介はにっかり笑った。


「あぁ、その話を信じよう。君はうちの従業員を見かねて出てくれたようだからね。囮捜査をやっていたのを気づいていたんだろう?」

「・・・・・・あー、あの教会の女とつるんで何かをやっていたのは見ていたよ。ほんと、俺を犯人と想定してやっていたのかしらねぇが、あぶなかしい真似をする嬢ちゃんだねぇ」

「君は根が善人なのだろう。滞在許可の行政上の手続きならうちに任せてもらおうか。なに、慣れたのが居るんで問題ない」

「・・・・・・負けたよ。俺は力ある奴には逆らわねぇ。大人しくしているさ」

「狼は集団への帰属意識は強い。君に認めてもらえるのなら話は早い」


 かくして、狼男は朧木良介に確保された形となったのだった。


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