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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介と見る霞町
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戦う意思

「狼男を同時に三箇所切りつけ、再生能力でも定評のあるのに怪我を負わせたというのか・・・場所がこの霞町だけに、まるで本物の沖田総司だな」


 沖田総司は斬られた者が一突きされたと感じた時には三度も突かれていたと思うくらいの達人だったと伝承が残っている。そして沖田総司は敵対していた者から「大石鍬次郎、沖田総司、井上らは無闇に人を斬殺する」と言われるくらいに恐れられていた。

 朧木は沖田総司が池田屋事件で使った刀を思い出していた。その刀の銘を。

 狼男は頬の傷をなぞる。


「そんなご大層な相手だったかどうかはわからないが、俺はそいつにやられた。一撃見舞ってやったがね。俺も被害者の一人だ。そう言ったら信じるのか?」 

「僕は信じるかな。そうか。君のおかげであれ以降は犠牲者が出ることは無かったのか」


 狼男は頷いた。


「わき腹に一撃くれてやった。直ぐには動き出せない怪我のはずだ・・・もっとも、相手もただの人間とは思えない動きだったからそれもどうだかわからないがな」

「狼男と白兵戦ができる相手だなんて、厄介な事には違いないな。やれやれ。予想外に面倒な仕事となりそうなのには変わらないか」


 朧木良介は心底うんざりしたようだった。


「あんた。俺をどうするつもりだ?」

「うん? 僕はどうするつもりもないよ。現時点では君も善良な市民であることには変わりは無い。だが、この町の権力者等は君が犯人だと思っている。警察機構もその線で追っている事だろう。事件解決までは静かにしておいた方がいいんじゃないかな」

「あんたが解決しようとでもしているのか?」

「僕が動く事には変わりないだろうね。狼男に3太刀も同時に浴びせる普通の人間がこの世にいるのが当たり前ならその限りでもないが・・・それはなさそうだ。君の目撃情報が欲しいが、妖しく輝く刃物を持っていた以外の特徴は無いのか?」

「パーカーのフードを被っていたから顔は良く見ていない。あれ以来、似た格好のやつを見ると苛ついて仕方が無い。闇夜にうっすらと輝く刀身の刃物を持っていた以外は覚えていないな」


 さくらをナンパした男もパーカー姿だった。八つ当たりでもされたのだろう。


「うーん。危険な相手、以外の情報は掴めないか。全く、面倒な事件だよ」

「なら、今日から俺も狩りに参加させてもらおう。この怪我の借りを返したいんでね」


 狼男はじゃきっじゃきっと爪を鳴らして構える。


「しばらくはじっとしていた方がいいと思うがねぇ。僕以外の連中は君が犯人だと思って追っている様だし」

「あいにくと俺はそうやすやすと捕まるようなへまはしない」


 狼男はあっさりと朧木良介に発見された事は意識していないようだった。それもそうだろう。式神を同時に80体も展開できるような術者のほうがまれだ。


「あー、そうそう。教会から派遣されてきた物騒な人も君の事を探していたよ」


 朧木の言葉に狼男は嫌そうな表情を浮かべた。


「ちっ、しつこい連中だ。遠く国を離れて来たのだから放って置けばよいものを・・・」

「君は母国の教会関係者とはあまり仲がよろしくないようだね。この街にいる以上は反社会的行為さえ行わなければ市民として認められる。『この街くらいだろうよ。よくわからない者にも温情をかけるような街は』」

「だから良かったんだが、俺も自分自身の平穏を妨げるような真似をされれば何もしないとは言い切れないぞ。これは警告だ」


 狼男はざっと後方へ下がった。


「伝えるなら直接本人達に伝えてくれ。僕は派遣されてきた子からは目の敵にされているようでね」

「とぼけた男だ。少なくとも貴様自身もただの人間ではないな! 何者だ!」


 狼男は身構えた。彼が気がついたときには朧木良介は大分間合いを詰めていたのだった。


「おいおい。僕自身はなにもしないさ。そう構えなくとも・・・・・・」


 そういう彼らの周囲には沢山の童子姿の式神が取り囲んでいた。


「いつの間に・・・・・・」


 狼男は周囲を見て驚愕する。


「君を重要参考人として捕らえさせてもらうよ。滞在許可の無い超常現象は認められないんでね」


 朧木良介は腕組みをして仁王立ちする。彼を背に、真上には満月が昇る。


「ただの優男かと思ったが、なかなかしてやってくれるじゃねえか」

「僕は一応この町の治安を守る身。それでは『君を保護させてもらおう』さて、どうする?」


 狼男はにやりと笑った。


「俺ら狼男はどこまで行っても反体制派の象徴、そしてモンスター。後はわかるよな?」


 狼男のすごみに対し、場を静寂が包む。瞬く間に緊張感に包まれた。


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