狼男現る
人通りのない夜道。明かりも無い場所で蹲る男が一人。男は苦しそうに唸っていた。が、やがて背丈が一回りも大きくなった。全身体毛に覆われている。そんな男を影から人形のような子供が見ていた。式神だ。
男が町明かりに照らし出される。突き出た口には牙が並び、目は爛々と輝いている。巷で噂となっていた狼男だった。狼男は変身を終える。きょろきょろと辺りに人気が無い事を確認しようとして、人影を見つけるのだった。
「さすがに狼。気配を隠して近づけないか」
物陰から現れたのは朧木良介だった。狼男が驚く。
「誰だ! 教会の者か?」
狼男が誰何した。狼男の鼻に酒の匂いが漂った。狼男は相手がただの酔っ払いなのかと考えそうになっている。狼男は朧木から漂う酒臭さに幾分無意識に緊張が解けていた。
「あぁ、僕かい? あまり気にしなくていいよ。今日はお話に来たんだ」
緊張を解きかけていた狼男は朧木の言葉に、思わず身構えそうになった。朧木は自分に会いに来たと言う。それなのに酒臭いのだから計りかねたのだ。
「俺を狼男と知った上でやってきたのか?」
狼男は半歩後ずさった。目の前に現れた男の素性も能力も計りかねている。
「僕はこの町で探偵の真似事をさせてもらっているしがない者だ。今回は通り魔事件の参考人である君の話が聞きたくてやってきた」
通り魔と言う単語に狼男が身構えた。
「俺が犯人だと思っているんじゃないのか?」
朧木良介は半分笑顔で両手を突き出し、そうではないと言うジェスチャーを取った。
「僕はそうは思わないよ。特に今の君の姿を見てそう思う」
狼男の顔は狼そのもので、全身毛に覆われ、両手は狼の手であり鋭い爪を光らせていた。
「どういうことだ?」
狼男が思わず尋ねる。
「君のその手さ。通り魔事件の被害者は鋭い刃物で刺されている。今の君の手は刃物を持つには不向きだし、そもそも刃物なんて必要とないほどの爪を持っている。君達狼男は怪力だとも聞く。『人間のように』刃物を持つ必要なんて無いと思ってね」
朧木良介の目の奥がきらりと光った。朧木良介は目ざとく狼男の両手を見据える。
狼男は思わず自分の手を見た。
「・・・・・・確かに俺は刃物なんて使わないが、それで俺は犯人ではないとそう読んだのか?」
「あぁ、正確には予想の範疇を出なかったんで、直接本人に聞いてみたかった」
狼男は警戒を解かなかった。
「俺があんたを襲う等考えもしなかったのか?」
朧木良介は両手を横に広げて首を横に振った。
「まさか。そんな事は考えもしなかったさ。だから途中でいつもどおり酒を呑んで過ごしていた」
朧木良介は半分嘘をついた。荒事になる可能性も考慮していたのだ。だが、酒一杯を呑んだ程度で狼男に負けるとは考えてもいなかった。
狼男はその鼻に確かに酒臭さを感じていた。だから朧木良介は嘘をついていないと自然と感じていた。心持ち狼男は警戒を緩める。
「嘘ではないようだな。では俺に何のようだ?」
「通り魔が現れた事件と同じ場所で君の目撃例が出た。つまり、君自身が通り魔事件とは全く無関係ではない可能性を考えた。何があったのかを知りたくてね」
「俺が嘘をつくとは考えないのか?」
朧木良介は興味なさそうに首を横に振る。
「君の目撃情報が出てから通り魔事件はなりを潜めた。君の体の傷跡を見れば、何かあったなとは思うがね」
町明かりに照らされた狼男の頬にはまだ新しい傷跡が残っていた。狼男は思わず手で頬を触る。
「・・・・・・あの晩、俺は妖しく輝く刃物を持った男と遭遇した。奴は人を一人刺した後だった」
朧木は狼男の話を興味深そうに聞き始める。
「あの晩。と言うと君が通り魔に間違われた事件の時かな」
「そうだ。あの晩。俺は通り魔と遭遇した。やつはオキタソウシの生まれ変わりを自称していた。やつは自己陶酔していたが、どうも前世の記憶を呼び覚ますオカルトドラッグをキメてやがった。戦いになり、俺はやつに『3箇所を同時に』引き裂かれたんだよ。並の人間じゃない」
狼男の言葉に対して、朧木の顔が真剣なものに変わる。




