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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介と見る霞町
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点火

「先ほど、そこで妖怪の類と間違えて切り裂いたネ。これ、あなたの使う術カ?」


 フェイ・ユーはすっと破られた人型の紙を差し出した。


「・・・・・・これは僕が放った式神。紙切れに仮初めの命を吹き込んで従者として使う術です。・・・そうか。さっき感じた式神が消えた反応はあなたの仕業でしたか」


 フェイ・ユーは興味深そうに紙切れを眺めている。


「そうカ。そうカ。これが日本で発達した術ネ。道術には無かったからわからなかったよ。引き裂いてすまなかったネ」


 フェイ・ユーは糸目を尚細めてすまなそうにしている。


「えぇ、陰陽道と言うものの術です。陰陽道は中国の道教にルーツを持ちますが、式神は確かに日本独自の術です」


 朧木良介もフェイ・ユーに興味を持ったようだ。少々警戒をしている。


「申し遅れたネ。私、フェイ・ユー。道術に少々精通している。最近この町にやってきたネ。あなた、このような術で自分の住まいを警護させているのカ?」


 フェイ・ユーは笑顔で自己紹介をしながら朧木良介に尋ねた。もっとも、その笑顔は本当に愉快で楽しくて笑顔なのかはわからない。


「いや、自分の屋敷の警護の為ではないですよ。・・・・・・ちょっとした事件の捜査の為に町中に放っているんです」


 フェイ・ユーは頷いた。


「沢山街中で見かけたネ。普通の者は気がついていないようだが、私のような術者なら何事かと思うネ」


 さくらは物陰で話を聞いて驚いていた。朧木良介が何もしていないと思っていたのだ。


「既に街中に数十体。一日おきに数を増やしていっていますね。まぁ、先日お目当ての相手が早々に現れてしまって、準備不足で対処できませんでしたが」


 さくらが狼男に遭遇したのは想定よりかなり早かったようだった。本来なら町中に張り巡らせた式神で捜索する予定だったのだ。

 フェイ・ユーが「くっくっくっ」と笑う。どうやら心底愉快そうに笑っているようだった。


「あなた、中々のやり手のようネ? この術。数体も使役できればいいほうネ。それを数十も同時に使役しているなら、相当な使い手であるのがわかるネ」

「・・・・・・とは言っても、探している者を見つけるのが目的。式神達は特に何も出来はしませんがね」

「いや、それだけで十分ね。そうそう、自己紹介が足りなかったね。私、山国町議会議員の客人でもあるネ」


 フェイ・ユーの口から出てきた山国という名。その名を聞いて朧木良介は笑った。


「・・・・・・なるほど。僕にとっては想定外の客人と言うわけだ。きちんとしたもてなしが出来ずに申し訳ない」


 朧木は笑顔のままに、どこか壮絶な気迫を放つ。


「・・・・・・あなた、いい笑顔する。私、今日はただのご挨拶ネ。中国でもまずは挨拶がとても大事。先に言わずともわかっているだろうが、今回の件。背後の町議会議員達の進退問題がかかっているね」

「なるほど。色々な意味で今後のご挨拶と言うわけだ」

「そういう事ネ。私には事件がどうなろうが知ったことではないが、お手並み拝見するヨ」

「ならば、是非ご静観頂きたい・・・・・・」


 と、朧木良介が言葉を紡いだところ、いつの間にかフェイ・ユーは左手をポケットに入れていた。フェイ・ユーの左手がすっとポケットから符を取り出す。


「これが返事ネ。・・・・・・点火(ディェン フゥオ)!」


 フェイ・ユーはそう叫ぶと右手をさっと応接室のテーブルに振りかざす。テーブルの上に置かれていた破られた式神の紙にぼっと火がついて燃え上がる。それは一瞬大きな炎と成ったが直ぐに消えた。

 朧木良介が慌てて立ち上がったところ、目の前に座っていたフェイ・ユーの姿はいつの間にか消えていた。フェイ・ユーの座っていた場所に、ひらひらと一枚の符が舞い落ちる。

 朧木良介はその落ちていた符を拾い上げた。


「・・・・・・点火。発火の力を持つ火生符か。火種となる、と言う意味かねぇ」


 朧木良介はそのようにのんきに述べている。さくらは自分のデスクの影で驚いていた。


「朧木さん。な、何ですか、今の?」


 朧木良介が振り返る。


「これは中国の道教に伝わる道術。その中の符術の一種さ。ま、ちょっとしたご挨拶、なんだってさ」

「朧木さん、なんだか平然としてますね?」


 さくらは全く動じていない朧木良介の様子に気がついた。


「なにかしらが現れるのは予想していたからねぇ。教会の女性のエクソシストに続いて中国人の道士か。競合他社が多くて困るよ」


 朧木良介はそういうとおどけて見せた。とはいえ、内心はライバル企業? がわんさか現れて心穏やかではない。安楽椅子探偵になりたいという男にとっては過当競争にも等しい状況が出来上がってきていることが、気が気でならないのだ。


「ところで、山国町議会議員とは誰なのですか?」

「あぁ、僕のスポンサーのライバルさ。狼男よりよほど手ごわそうな相手だよ」


 さくらはふと何かに気がついたようだ。


「あのぅ、常々思っていたのですが、町議会議員ってこの町の何なのですか?」


 朧木良介は「ふむ」と一言呟いた。


「この霞町を取り仕切る行政機関の代表者、とでも言うかね」

「なんだか話を聞いていると、とても大きな権力を握っているように聞こえましたが」

「この『霞町』の町議会議員というのが大きいのかもね。霞町は『特別な』町だから」


 という朧木のセリフにさくらは首を傾げた。

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