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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介と見る霞町
13/228

夜間警備隊

 夜。麻布霞町は夜の帳に包まれた。霞町は雑居ビルや飲食店が多い街である。大通りは人が多い。しかし、そんな人通りの多い道を敢えて避ける者がいた。

 さくらである。彼女は人気のない通り道を選んで歩いていた。


「うわぁ、自分で言ったは良いけれど、心細いなぁ......」


 自ら囮役を買って出た彼女は、いざやってみると軽く後悔していた。さくらは後ろを振り返る。通り魔を警戒してではなく、魔紗が後をつけてくれているはずと思って振り返ったのだ。実際、さくらのやや後方を魔紗が尾行していた。魔紗は周囲の者達に警戒をしている。そして、気配を隠してもう一匹の猫まんもさくらのあとを追っているはずだった。

 猫まんは傍目にはただの猫にしか見えないので、野良猫のように振舞ってもらって街中に紛れ込んでもらう形となった。

 さくらは後ろを振り返ったが、誰の姿も見つけることは出来なかった。魔紗も尾行は慣れていたもののようで、気配は完璧に消していた。


「ほんとにちゃんと来ているんでしょうね......」


 さくらは猫まんのことを思い浮かべながら、そんな事を独り言として呟いた。

 さくらは夜空を見上げる。星など見えない。満月にほぼ近い月が見えているくらいだった。夜も21時を回った頃であっただろうか。

 さくらは気を取り直して歩き始めた。

 と、一人の歩行者が前方に現れる。フード付きパーカーを被り、素顔はあまりよく見えない。さくらは通行人の類かと思って軽く道を横にどけた。

 と、前方から歩いてきた通行人も、さくらの側に歩いた。

 さくらは内心どきりとした。通行人を避けようかと思ったが、そうこうしているうちにさくらの目の前にフード付きパーカーの男が立った。

 さくらは内心、目の前の男が通り魔なんじゃないかと身構えた。


「ねぇねぇ、こんな時間にこんな場所を歩いて暇なの? 良かったら俺と遊ばない?」


 ただのナンパだった。

 さくらは心の中で脱力した。こんな時間にこんな場所でナンパなんてするやつが居るんだと思った。咄嗟に言葉が出てこなかったのは、男が通り魔なんじゃないかと身構えていたからだ。


「すみません、急いでいますので」


 さくらはそういって、いつものようにナンパをかわすようにして先を急ごうとした。さくらはたまにナンパされる事はあった。見た目には美少女だったので、性格まで知らない男ならば引っ掛けるくらいはできるだろう。もっとも、さくらの性格を知る者ならば、ナンパなんぞしようとも思わないかもしれない。


「まぁまぁ、そんなかたい事言うなって!」


 男はさくらが避けようとした先に立ちふさがる。さくらは内心辟易した。日中のナンパでもこんなしつこくはない。時間帯からいってもなにが目的なのかは明白だった。


「ちょっと、しつこい!」


 さくらは男を振り払おうとした。が、男がその腕を掴んだ。


「ちょっとだけでいいからさ、遊ばない?」

「や、離してください!」


 さくらは男の腕を振り払おうとした。が、男の力が強いので振り払えない。さくらは通り魔相手とは違った身の危険を感じた。


「ちょいと、そこの男。その子の手を離しな」


 女性の制止の声。さくらと男が振り返ると、そこには魔紗が居た。


「何だお前は......おいおい、日本人ばなれした良い女じゃねーか」


 魔紗はハーフ。そして容姿も端麗だ。男の手が魔紗のほうに伸びそうになる。


「よっ、と」


 魔紗はそういうと、男の手をとりひねり投げた。見事な背負い投げだった。男はどかっと地面に叩きつけられる。


「がはっ!」


 男は地面でもんどりうっている。


「海外は日本ほど治安がよくないものでね。身を守る術くらいは身につけているよ」


 と、言いながら、魔紗はパンパンと手のホコリを払った。

 男は起き上がり逃げ出していく。ほうほうのていで通りの向こう側へ消えて行った。

 と、猫まんも姿を現す。


「やれやれ、大丈夫だったかい。さかりのついた人間のオスか。季節を選ばないだけ、人間の方が節操はなさそうだねぇ」

「こら、猫まん! 助けにくらい来てよ!」


 さくらが猫まんに怒った。


「ただの人間が相手じゃあ、わたくしが出て行くわけにはいかないだろう」


 さくらは魔紗を見た。ナンパ男を相手に助けてくれた。根は悪い者でもなさそうだ。


「まったく、予定と違う者がほいほいと引っかかってくるとは思わなかったね」


 魔紗は両手を広げてやれやれといった風に首を横に振った。


「私はゴキブリホイホイか!」


 さくらは思わず叫んだ。

 ......と、ふいにどこかから男同士が言い争うような声が聞こえてくるのだった。


「なんだい。今度は酔っ払い同士の喧嘩か何かかな」


 魔紗が言い争う声を聞いてそう呟いた。飲食店も多いので、十分にそのような事も考えられた。だが、言い争う声が急に叫び声に変わった。


「「!?」」


 さくらも魔紗も猫まんもさすがに驚いた。叫び声の現場へと走る。

 路肩に倒れていたのは先ほどのナンパ男だった。


「なんだ。おい、何があったんだ?」


 魔紗が男に詰め寄った。


「お、狼男が現れた・・・」


 ナンパ男はそういって道の遥か前方を指差した。そこには街灯の明かりの元、人型の毛むくじゃらの姿が立っていた。狼男が振り返る。そして脇道へさっと入って行った。あっという間に姿をくらました。魔紗が狼男を追いかける。猫まんはさくらのそばについていることを選んだ。


「参ったねぇ。まさかこんなタイミングで出てくるとは」


 猫まんも狼男の気配には気がつかなかったようだ。しばらくして魔紗が戻ってきた。


「まんまと逃げられたよ。まったく、さすがは狼。狩りの専門家。泳がされていたのは私達の方だったみたいだね」


 魔紗は悔しそうにそう呟いた。

 さくらが足元を見ると、先ほどのナンパ男がだらしなく気絶していた。


「・・・釣れたのがこんな男一人だけじゃなくて良かった」


 さくらは策に一定の結果があったので満足した。捕まえられなかったのは残念だが、確かに狼男は存在した。

 ならば、あの狼男が件の通り魔なのだろうか。


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