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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介と見る霞町
12/228

秘策あり

 翌日。さくらはバイトが無かった為、その日は朧木探偵事務所ではなく先日訪れた教会を目指していた。

 相変わらず人気はない。受付に老婆が一人いるだけだった。いや、階上のフロアから魔紗が見ていた。


「おや? また来たわけ?」


 今度は魔紗が先に声をかけてきた。ちょうど出かけようとしていたところだったようだ。


挿絵(By みてみん)

「はい。今日はお願いがあって来ました」


 さくらはぺこりとお辞儀をした。


「改まって今日は何の用? できれば手短にお願いしたいのだけれど」


 魔紗は出掛け直前とはいえ、さくらの話を聞く気のようだ。


「実は通り魔の犯人探しのお手伝いが出来ないかと思いまして、お願いに来ました」


 魔紗はさくらの話に驚いている。その理由は2点。まず一つ目。先日に朧木良介の抱えている問題を話したにもかかわらず、今日このようにしてお手伝いしようと申し出ている事。二つ目。化け物退治に積極的に関わりたがっている事。


「あなた、危険を承知で言っているわけ? 犯人が人間ではないという情報は既にあったはず」

「承知の上です。そんな危険な相手を野放しにしている方がもっと危険だと考えました。なら、可能な限り専門家に協力して、一刻でも早く事件の解決に繋がってくれた方がましです」


 魔紗は少しだけ邪推した。朧木良介の立場もある。協力を申し出ながら足を引っ張りに来た可能性。あるいは事件に関わる情報を引き出そうとしている可能性を考えた。

 実際、さくらには事件に関わる情報を引き出そうという動機や目的はなかったが、結果としてそうなる事は明白だった。


「なら、おとなしく帰ることね。探すには情報が少なすぎて決め手にかける。今は少しでも怪しい者が居ないか歩いて探して回るくらいしか出来ないのだから」


 さくらは頷いた。


「そうです。目撃情報もないんです。だから、私が囮になって夜道を歩き回ります」


 魔紗は意外そうな表情をした。ただでさえ危険な相手。狼男を相手に囮捜査の囮役をやるというのだから。


「さすがに理解しかねるわ。それであなたになんのメリットがあるわけ?」

「事件解決に繋がります」


 魔紗の言葉にさくらは速答した。その答えには偽りはない。


「......あなた、きちんと考えて行動するタイプ?」


 魔紗の疑問。さくらにとってその答えはNOだった。が、


「考えた上での判断です!」


 と、さくらの答えは違っていた。


「うーん。私が狼男を探して回っても警戒されるだけだから、どうやって効率よく探したものかと思っていたけれど、協力者が出来るなら大分やれる事は広がるわね」

「朧木さんは『時が来るまで待つ』といって動かないみたいだし、それなら魔紗さんに協力した方が、事件解決も早いかもって考えたんです」


 さくらの台詞に魔紗がピクリと反応した。


「ん、朧木は待つ、とそう言っていたの?」

「えっ? そうですが。それがなにか?」


 さくらは魔紗が何を気にかけていたか、全くわからなかった。


「そう。朧木には何かあてがあるようね」

「そうなんですか?」

「......あなたが知らないなら、やはりただ単に日和見を決め込んだだけかしら?」

「話の途中で事務所を飛び出したきりでして、詳しい話は知らないです」

「......あなた、放って置く方が危なそうね。いいわ。囮捜査の話に乗ってあげる。朧木に何か策があるなら、こちらも無策なままではいられないから」


 意外や意外。魔紗はさくらの話に乗って来たのだった。これには魔紗の思惑もある。つまり、朧木良介の動向を知る手段としてさくらの位置づけを捉えたのだ。打算も込みだが協力者も欲しかったのもある。

 魔紗はさくらの背後の方を向いた。


「そんなわけだから、後ろの猫ちゃんも手伝ってくれるかしら?」


 魔紗が当て込んだ戦力。それはさくらのお目付け役。猫まんだった。

 物陰からのそりと猫が姿を現した。


「やれやれ、気付かれていたのか。なら、ただの猫の振りはやめだ」


 猫まんだった。さくらが驚く。


「化か猫! いつの間に?」

「あぁ、あぶなかしい子がどこにすっ飛んでいくのか気が気でなくて、後をつけていたのさ。予想を斜め上に突っ切って、まさか教会のお嬢さんに協力を申し出るとは思わなかった」

「化け猫ね。朧木良介がただの猫を飼っているとは思わなかったから、あの日あなた達の事務所を訪れた時は静かに様子を見ていたのだけれど、ずっと飼い猫の振りをしていたでしょう」


 魔紗はびしっと猫まんを指差した。


「あの時にはもうばれていたのか。外見はただの猫だからわからないかと思ったんだがねぇ」


 猫まんは二本足ですっと直立した。


「動物の妖怪には動物の妖怪。人間の知覚だけでは追い切れない可能性が強いから、日本の動物妖怪の手でも借りたいところね」


 猫まんは目を細めた。


「......ほう、それは猫の手も借りたい、と言う事ですか。くっくっくっ!」


 猫まんは愉快そうに喉を鳴らした。満更でもなさそうだった。


「借りたい猫の手って、それはなんの役に立つかもわからないような手でも欲しいって意味でしょうが!」


 猫まんが前足でぽんと手を打った。


「なるほど。少なくとも何かしらは役に立ちますとも。相手が相手だけにわたくしのような猫もどきの手でも欲しいと」


 猫まんの言葉に魔紗は頷いた。


「そうね。ないよりはあったほうが良い。現状では手がかりもつかめていなくてね。化け猫の力も借りられるなら、この子の協力の申し出は受けても良い」


 魔紗は条件を付け足す形で協力を受け入れる構えのようだ。さくらはそこまで考えてもいなかったが、猫まんにとっては意外な答えだった。

 猫まんは朧木良介を信じている。何かしらの準備をしている事をほぼ確信していたが、自分達にできる事があるなら何かしらは行いたい。猫まんは朧木良介にさくらを見ているように頼まれたが、放って置いても危険なところに突っ込みかねなそうだ。なら、化け物退治の専門家の力を借りられておく方が安全そうだと考えた。


「わたくしなら構わないが。さて、この子がなんていうやら」


猫まんがさくらの顔を見上げる。


「猫まんが同意するって。なら私も当初の予定通りに囮捜査の囮役をやるよ」


 魔紗は頷いた。


「話は決まったようね。ならば早速今夜から見回りしましょう。名目は町内会の夜間見回りという事で」


 かくして、ここに二人プラス一匹の協力体制が出来上がった。連携力があるかどうかはまだわからない。


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