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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介の受難
103/228

取り調べを受ける朧木

 ともかくその日はとんでもない始まりだったのだ。だが朧木には更なる運命が待ち受けていた。

 お昼過ぎとなった頃である。さくらはまだ出社していない。猫まんもいない。ヴォルフガングもいない。朧木だけが事務所にいる時に訪れた。パトカーのサイレンの音が外から聞こえる。どこかで事件でもあったのかと朧木は思った。

 と、コンコンと玄関をノックする音。


「はい、ただいまー」


 不在のさくらに変わって朧木が来客を出迎えに行く。玄関を開けた先にいたのは・・・いかつい刑事達だった。

 刑事は警察手帳を見せながら室内に入ってきた。


「私は近くの署の者ですが、朧木良介さんですね? たまに署のほうで捜査協力を頂いていると伺っています」

「はいそうです」


 朧木の知り合いの刑事ではなかった。刑事課も広い。朧木も刑事全員の事を知っているわけではないのだ。


「失礼ですが、昨日朧木さんはどこにいらっしゃいましたか?」


 刑事の表情はとても固い。


「どこ・・・と申されましても・・・」

「でははっきりと伺います。占い師のキャシー梅田さんが亡くなっていた事件についてはニュースでもご存知でしょうか」

「えぇ、拝見いたしました」

「朧木さん。そのキャシー梅田さんの占いの館に昨日訪問していませんでしたか?」


 朧木は確かに訪れていた。


「はい。確かに訪れていましたが・・・」


 刑事の目が鋭く輝く。


「朧木さんはその占いの館で大暴れしたとか・・・キャシー梅田さんが占いの館からいなくなる直前にあなたが占いの館から出てくるところを目撃した女性が複数います。建物の防犯ビルにも確かにあなたが出てくるところが映っている」


 朧木はしまったと思った。確かに大立ち回りをしてしまっている。その翌日にキャシー梅田が死んでいたのだ。真っ先に嫌疑がかけられていてもおかしくは無い。


「それは・・・」


 朧木は咄嗟にうまく説明できずにいた。


「朧木さん、署まで同行願えますでしょうか?」


 刑事が有無を言わさぬ口調でそう言った。朧木にとっては蒼天の霹靂。だが十分に理解できる話であった。


「・・・わかりました」


 朧木はおとなしく捜査協力に出るのであった。



 長年色々な人間たちが出入りして来たのであろう警察署の取調室。無機質なデザインで飾り気の無い壁と机。机に置かれたライト。その机を挟み込んで刑事と朧木が座る。

 刑事がドン、と机を叩いた。


「お前がキャシー梅田をやったんだろう! とは言いませんよ。あぁ、おどろかせてしまってすみません」


 よくある刑事ドラマかと思うような始まりだった。


「いや、さすがにそこは驚きますよ!」


 雰囲気に驚かされるし、いきなり事情聴取ともなれば尚の事だ。


「ですがね。朧木さん、あなたなぜ自分が疑われているのかはわかりますでしょう?」


 刑事はいかつい顔をしていて何を考えているのか読みづらかった。


「確かに僕は占いの館を訪れましたよ。そこでキャシー梅田さんとも揉めました。その時に椅子と一つ壊したくらいですよ。僕がやったことといえば」

「朧木さん、困るんですよねぇ。器物損壊罪、ご存知ですか? 他人の所有物を損壊する事は犯罪であると刑法261条で定められているんですよ」


 朧木はまず占いの館の器物損壊の件を咎められていた。


「いやぁ、それにもわけがありまして・・・その場にいた人間の成れの果てが抜刀して切りかかってきたものでして、咄嗟に座っていた椅子を投げて応戦したんですよ。椅子を切ったのは僕じゃなく相手なんです」


 朧木の台詞に刑事が困った表情をする。刑事は指先で机の上をトントンと叩いている。


「そのあたりの事情はわたくしにはわかりませんがねぇ。なんですか、人間の成れの果てぅて。妖怪とも違うわけでしょう? それに、その場の状況を証明できる人物も証拠も無いわけで。器物損壊罪は親告罪であり、損壊した物の所有者から告訴でもされなければ成立しませんが、キャシー梅田さんが殺害された件はそうはいきませんよ。前日に揉めた朧木さんが真っ先に疑われるのは当然でしょう。・・・ただ、不可解な点も有るため困っているんですがね」


 刑事の様子に朧木がおや? といった表情をした。


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