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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介の受難
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魔術本

 朧木は翌日のキャシーの行く手を知る事となった。だが、それは事件としてだ。


「キャシー梅田が自宅で怪死しただと!?」


 それは朧木にとっても衝撃だった。ニュースで占い師のキャシー梅田が謎の死を遂げたと伝えられている。死因は出血多量。全身を針で刺したかのような傷が元で死亡したらしい。


「良介、どうしたかいね?」


 猫まんは朧木の様子がおかしい事に気が付いて声を掛けた。


「昨日取り逃がした占い師が自宅で殺されていたらしい。・・・いや、他殺かはまだはっきりとはしていないが、どうもそうとしか思えん死に方だな。まるで拷問にでも掛けられたような・・・」


 朧木は驚愕している。


「ふぅむ。それは困った事になったねぇ」

「影法師を連れていたから背後に妖怪がいるのは間違いなさそうなんだが・・・」

「地獄に落ちた人間どもの成れの果てかいね。それはろくな妖怪じゃあないだろうねぇ」

「昨日その殺されたキャシー梅田が所有していた魔道書を手に入れてきたんだ。こいつをみてくれ。僕には読めない字で書かれている」


 朧木はテーブルの上に昨日手にした魔術書を置いた。猫まんがテーブルの上に乗って本を覗き込む。


「これは・・・ラテン語だねぇ。昔ゆえあってラテン語の本も読む機会があったから少しは読めるよ。表紙に書かれているラテン語は特に意味を成さない言葉の羅列だねぇ」

「ふむ。ロレム・イプサムというやつか」


 ロレム・イプサム。無意味な言葉や関係の無い文章をダミーとして記述する、デザインとして評価する為の表現技法。内容を評価する必要は無い為、全く無関係の文章等が用いられる。


「そんなところだろうねぇ」


 猫まんはぺらりとページをめくった。怪しげな図等の出てくる本だった。


「中身ははやり魔術に関するものかい?」

「索引をみるとそのようだねぇ」

「猫まん。その本の中に運命の相手を知る魔術というのはないかい?」


 猫まんはぺらりぺらりとページをめくる。


「・・・そんな面白そうな魔術は無いねぇ。どれも禍々しいものばかりだよ。・・・似たようなので、悪しき運命をもたらす結婚相手を事前に知り、呪う魔術なんていうのがあるねぇ。なんでも針を口に咥えて水面を眺めるのだとか」

「それだ! なるほど。知るだけでなく呪う技法だったのか。だから運命の相手が失明した女性は本来の使い方をしてしまったのだな・・・なぜ女狐CLUBに関わる女性ばかりが運命の相手を知る事が出来るのかわかってしまったな・・・彼女らには不幸な事だが」

「良縁を知る方法ではないようだからねぇ。悪縁を知り、尚遠ざける魔術、というよりも呪術だねぇこれでは」


 猫まんは魔術書を閉じた。


「実践的魔術であるのはわかった。確かにこれは危険だな。なんとかこの魔術の噂を封じられないだろうか・・・」

「難しいだろうねぇ。少なくとも一度は結婚を考えるような相手が現れるのだもの。まっとうな恋愛のおまじないと勘違いをする子が多発するだろうよ。・・・これは社会に与えられた呪いの様なものだねぇ。人間も本当に度し難い」


 猫まんはいやだいやだといってテーブルから降りた。


「悪い運命の相手でも知る事ができる・・・一応効果的な魔術ではあるから、本当のことを広めても無くなりはしないか・・・」

「そうだろうねぇ。それはそれで需要はあるだろうからねぇ」

「この本も何らかの形でキャシー梅本の手に渡ったようだが・・・背後に妖怪の気配がある。まだ黒幕ははっきりとはしていない。このままで終わるとも思えないな」

「困ったものさね。悪さする妖怪もいなくなる事はなさそうだよ」

「ふぅむ、この魔術、丼副君にも本当のことを話せないぞ。これはこれで彼女は食いついてしまうだろう」

「あの子も困ったものだからねぇ」


 猫まんは笑っている。だが朧木は真剣そのものだ。


「しかし困ったな。今回相談を受けた女性に本当のことを話したものだろうか・・・。かえって気にしてしまうかもしれんが・・・。ふぅむ。被害者に償いたいとも言っていたが、本来は良縁ではない相手。あまりお勧めはできないのだが・・・」

「どちらにしても事故は起きた。ならばきちんと話はしておくべきではないかねぇ」

「・・・ありがとう、猫まん。僕の考えも纏まったよ」


 朧木は意を決したようだった。


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