人を呪わば穴二つ
「・・・あなた、もしかして本物の魔術師かしら。何の御用? もしかして私の人気を探りに来た人?」
「あぁ、申し送れました。僕は陰陽師をやっているものです。職業柄占いにも通じていて、それで昨今有名な占い師の技とはいかがなものかと思いましてね」
朧木は自らを明かしつつもこの場を訪れた本当の動機は隠した。だが、朧木は既に警戒域に入っている。人の皮で表紙を作るような魔術書がまっとうなものである確率は低い。そしてその話をしてもキャシー梅田に驚いた様子はない。どうも承知の上で使っているようだった。
「そう、ある意味同業者ってわけなのね。なら自分の商売道具をさらけ出すような真似は出来ないわね。お引取り願えるかしら」
キャシー梅田に警戒される形となった。
「それがそうもいかないんですよ。その魔術に危険性が示唆されましてね。僕はその調査を行っているんですよ。あなたはその魔術の危険性をご存知なんですか?」
「危険性って何よ。広めたのは運命の相手を知る方法じゃない」
どうやらキャシー梅田は危険性を知らずにその魔術を広めているようであった。
「あなたの魔術の呪いで失明した方がいるんですよ。これを黙認するわけには行かなくなりました。あなたにはその魔術を使わないように周囲の人達に伝えてもらいたい!」
キャシー梅田はぱたりと本を閉じた。
「私の人気に嫉妬しているわけ? いまさら止めるわけないじゃない。この魔術のおかげで私は有名になれたんですもの・・・」
キャシー梅田がパチンと指を鳴らした。浪人笠を被った影法師が現れる。
「こいつらは・・・あなた、妖怪と繋がりがあるんですか!」
「本当に色々と御詳しいのね。それが今日の命取りよ。お前たち、やっておしまい!」
影法師が抜刀し朧木に襲い掛かる! 朧木は座っていた椅子を盾に後退する。狭い室内では思うように動けない。その間にキャシー梅田は逃げ出そうとしていた。
「逃がすか! 月魄刃!」
朧木の立てた人差し指と中指の間に、青白い三日月の刃が現れる。そしてそれはキャシー梅田の行く手をさえぎろうと飛び交う!
「きゃあっ!」
キャシー梅田は驚いて本を取り落とすが、そのままに這いつくばって一目散に逃げ出した。後を追おうとする朧木の行く手を陰方師達が遮る!
「影法師め、邪魔だ!」
しかし朧木は徒手空拳である。刀を持った相手には分が悪い。朧木は座っていた椅子を担いで影法師に向かって投げ飛ばす。
影法師は椅子を刀で払おうとするが、椅子に刀が食い込んだ。そこにすかさず朧木が跳び蹴りを放つ。ドカッと吹き飛ぶ陰法師。
影法師はよろよろとしながらキャシー梅田のあとを追って撤退して行った。無手でも影法師に後れを取るような朧木ではなかった。
「むぅ、逃がしたか。しかし・・・」
朧木は床に落ちていた魔道書を手に取った。この魔道書の内容を解析すれば魔術の正確な情報もわかるであろう。
所変わってそこは暗いビルの中。朧木から逃げ出してきたキャシー梅田が札束を手に酒を呑んでいる。どうやらこれまで溜め込んだ金のようだ。と、そこにキャシー梅田の携帯に電話が掛かってきた。
「・・・はい。先生、本日は陰陽師を名乗る男が現れました。先生から預けられているあの影法師のおかげで何とか逃げおおせられましたわ! ただ、先生から頂いていたあの魔術書はなくしてしまいまして・・・」
キャシー梅田は不安だった。電話の主から与えられていた今の自分の拠り所となっている魔術書を置いて逃げてきてしまったのだ。だが、電話の主はどうやら気にしてはいないようであった。
「・・・はい、はい。そうでございますか! 先生にそういっていただけますと私も助かります。ええ、今回の目的はどちらにせよ果たせそうだと? 私が先生の御手伝いをできていたのであれば幸いでございますわ!」
キャシー梅田は上機嫌だった。どうやら電話の主に褒められたらしい。
「今回噂に上がっている魔術の事ですか? あぁ、あれは本来であるならば災いをたらす運命の相手を事前に知る魔術でございますわ。酒癖が悪かったりギャンブル癖があったりDVをするような相手と結婚する運命にある女性が、その運命を先に知り『呪い』で相手を撃退する魔術、でございましたか。ですが、そのような陰気な魔術では幅広い女性の支持を獲得するのは難しいと判断しまして、良縁の運命のある相手を知る魔術として広めましてよ。一度は結婚まで行くのですから少なくとも思うところのある相手のはず、と読みまして・・・えぇ、わたくし、そのように致しました。・・・えぇ、でかした、と先生に言ってもらえて私も光栄ですわ!」
キャシー梅田は客に嘘をついて魔術を広めていた。当然相手を害する目的の魔術である事は知っていたのだ。
「えぇ、えぇ。人を呪わば穴二つ、というこの国の俗信が本物かどうかを試すですか。どういったお話なのか全く見えませんが・・・ええ、確かにあれは相手を呪う魔術でございますので、魔術を用いた女性は何らかの罰が与えられてもおかしくは無いでしょう」
キャシー梅田は困惑している。電話の主の意図が読めないようであった。
「・・・はぁ、ウィンチェスター・ミステリー・ハウスでございますか。サラ・ウィンチェスターが霊媒師に言われて増築した家、左様でございますか。霊障を避けるために・・・ウィンチェスター家が代々製造してきた銃のせいで大勢の者を死に至らしめた為に受けた霊障にございますか。世の中には色々な禍があるのでございますね。それがいかなる意味をもたらすか、でございますか。・・・はぁ、なるほど。殺された者は引き金を引いた相手だけを祟るだけに限らない、と。なるほど、教訓的な話になるのでございますね・・・えぇ、それがいかがいたしまして?」
・・・やがて電話は切られたようで、キャシー梅田は携帯電話から離れた。
「最後の話の意図が全くわかりませんが、はてさて。先生のお心はわたくしにははかりかねますわ。しかし、わたくしに栄華をもたらしてくれた事は確か! ほっほっほ、いずれはテレビ出演も果たし、もっともっと有名になって見せましてよ!」
キャシー梅田は札束を手に高笑いした。・・・と、その時である。ぽたり、ぽたりと札束に赤い液体が落ちる。・・・それは血であった。
「えっ、なに?」
それはキャシー梅田の額から流れ落ちる血液。ぽつり、ぽつりとキャシー梅田の肌に針で空けたような穴が空く・・・。
「痛い、痛い! なに、なんなのよ!?」
流れ出る流血がキャシー梅田の視界をふさぐ。キャシー梅田は札束を床に落とした。
「あっあっあっ・・・」
キャシー梅田は床に崩れ落ちた。・・・ぽつり、ぽつりと体に針を刺した様な穴が開いていく・・・。




