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朧木探偵社  作者: 神島世判
朧木良介の受難
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占い師

 女狐CLUBでパワフルな女幽霊とであった翌日。朧木はジュリアに頼まれた女の子のアパートを訪れていた。

 質素ながらに整理された部屋。ただしカーテンは締め切ったままだった。現れたのは青い顔をした女性。


「僕は女狐CLUBのジュリアさんに君のことを頼まれてやってきました。都内で陰陽師もやっている探偵の朧木良介と言います」


「ジュリアさんからお話は聞いてます。何でも色々な事件を解決されている凄腕とか」

「凄腕だなんてそんな。僕は僕にやれるだけのことをしているまでです。それで、今回は何があったんですか? 御話を伺ってもよろしいでしょうか」


 女性は居住まいを正した。


「はい。朧木さんは最近噂の運命の相手を知る魔術というのはご存知でしょうか」

「えぇ、聞き及んでいますよ」

「では詳細の説明は省きますが、私もあの魔術を試したんです。ちょうど深夜0時。洗面器に張った水の上に男の人の顔が浮かんできました。その人は知っている人物だったんで、『あっ』といいながら口を開いてしまったんです。そうしたら咥えていた針が水面に落ちてしまいまして・・・ちょうど水に映った男性の左目の辺りに落ちてしまったんです。そうしたら水の色が血の様に真っ赤になってしまって・・・」

「ふむ・・・その時の水はいかが致しました?」

「気味が悪かったんで捨ててしまいました。あれがあったほうが調査はしやすかったでしょうか?」

「まぁ、見てもわからない事もあるかと思いますがね。それでそれからどうなりました?」

「私には特に何もなかったんです。ただ、ある日事件が起こりまして・・・その・・・水に映っていた男性が事故で左目を失明してしまったんです。私、驚きました。あの時水面に針を落としたときも左目の辺りでしたし、もしかしてこれは何か関係があるのでは? と思ってしまって・・・それからは気分が悪くてずっと仕事も休んでいました」

「それは無理も無い。しかし災難でしたね。むぅ、偶然と片付けるにはいささか難しいか」

「はい。それはもう私も気になっていたんです。あれが私のせいなら私はどうしたらって思い続けまして」

「関連性は今のところわかりません。ですが、この魔術が危険なことだけははっきりと感じました。今までそんな噂の話は聞いた事がない。この魔術を広めた人物にきちんとした話を聞いた方がいい。由来や出自がわかればもしかしたらと思います」


 女性が困ったような表情をした。


「私も噂で聞いただけでして・・・ただ、この魔術。ある繁華街の占い師が広めたのが元になったという噂も聞いた事があります」

「占い師? ふぅむ。占い師の中には本物の魔術師がやっているものもいる。もしかしたらありえるかもしれませんね。僕はその占い師を探してみる事にします。あなたはひとまず体調を戻す事に専念した方がいい。後のことはお任せください」

「わかりました・・・。何かわかった事があったら教えてください。もし私が原因だった場合はあの人に償いたいんです・・・」


 女性はぺこりとお辞儀をした。ただ、その表情はまだ晴れない。彼女を安心させねばなるまい、朧木はそう思った。

 朧木は女性のアパートを後にする。いかんせん手がかりが無い。繁華街の占い師というだけで探さなければならないのだ。だが、ふと思い立った。噂話として流れているというのなら、ネット上にもどこかに記録が残っているのではないかと。

 朧木はスマホでインターネット検索を行う。件の噂話の出所を検索したところ、該当しそうな情報があった。ある占い師が広めたという。

キャシー梅田。それが占い師の名前だ。渋谷道玄坂のラブホテル街付近に占いの館を構える実力派といわれている。

朧木は早速占いの館を目指す。店名は知れていたので、探すのはそう手間ではなかった。だが、店には長蛇の列が並んでいた。朧木もキャシー梅田に会うために、女性客だらけのその列に並んだ。男性客はいてもカップルの片割れ。男一人で並んでいるのでとても目立つのであった。


「うーむ。なんとも気まずい・・・だがこうせざるを得ないな。ここまで繁盛しているという事は占い師としての力も一流なのだろう」


 待つこと二時間。ようやく朧木の番が回ってきた。レースの垂れ幕の中に入ると一人の女性が座っていた。ローブで身を包んでいて、顔にもヴェールが掛けられているので素顔は判らない。テーブルの中央にはとても大きな水晶の玉。いかにもな占い師の姿をしていた。


「あら、男性一人の客とは珍しい」

「ははは、ちょっと恥ずかしかったですよ」


 朧木の目にはキャシー梅田は魔術師の類には映らなかった。水晶玉も普通のものである。


「それで、今日はいかがな事を知りたいのかしら」

「そうですねぇ。たとえば・・・運命の相手とか」


 朧木はとりあえず話をあわせる事にした。何を聞いたものかと思ったが、ここに来る客の大半の目的であろうことを聴いてみることにする。


「お任せあれ! ナンダーラヘンダーラー・・・」


 占い師が水晶玉の上で手を左右する。特に水晶玉に何かが映るわけでもない。


「あら、あなたは既に運命の相手と出会っているわね。身近にいるんじゃないかしら。・・・タイミングを逃さない為にも積極的にアプローチはかけるべきね」


 当たり障りのない事を言われる。だが、ふと朧木はついさくらの事が頭をよぎった。他に普段から関わっている女性は魔紗ぐらいか。他に思い当たるとすればジュリアくらいだ。・・・意外と思い当たる節はあるのであった。だが、どの女性ともそんないい関係ではない。


「ふむ。・・・実は最近女性の間で噂の、運命の相手を知る魔術というのが気になりまして。キャシー梅田さんがその始まりの人であるという噂を聞いて今日は来たんですよ。その話を詳しくお聞かせ願えないでしょうか」

「あら。あなたもあの噂を聞いてきたのかしら。ええ、良いわよ」

「やり方は既に有名なんで大丈夫です。その魔術がどういった魔術なのか知りたくてですね」

「へぇ、そんな事気にする人は今までいなかったはね。効果はあるのだからそれでいいんじゃないかしら」

「得体の知れない魔術は怖いじゃないですか。だから背景だけでも教えていただけたらなと思いましてね」

「背景といわれてもねぇ。ちょっとお待ちになって」


 キャシー梅田はテーブルの下から古びた本を一冊取り出した。・・・どうも魔術書であるようだ。朧木の目にも本物であると見て取れた。表紙には謎の文字がびっしり書かれている。


「へぇ、本格的な魔術の本をお持ちなのですね。・・・その表紙。人皮装丁本なのでは?」


 朧木はついうっかり踏み込んで尋ねすぎた。一目で人皮装丁本かどうかを見破れるようなものは一般人にはいない。


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