アスラの生きる場所
※異世界転生・転移モノではありません。
私はアスラ、ケロイドの村出身の冒険者だ。
薄緑色の髪と蜂蜜色の瞳、ティーズウェスト国の端の端の端にある小さな村の風習が気に食わなくて9歳の時に村を出た無鉄砲が取り柄の冒険者。
危険なクエストを積極的に引き受けて来た私に付けられ通り名は「爆弾娘」から最近「野生のドラゴン」と呼ばれているらしい。
ドラゴンは古くからある伝承の1つで、人の世を一夜にして滅ぼしたとされた伝説の悪竜がその名で呼ばれていたはずだ。
全く、花の乙女に悪竜の通り名なんて、失礼極まりない。
しかし共に旅をする相棒ゼルなんか「国王殺しの犯罪者」だから、怖さや悪さは調和されてるんじゃないかなと最近は気にしなくなって来た。
魔法の腕は旅の間に磨いて来た。
アスラとして生きている時間は、精神的にとても自由だ。
今までアスラでは無い時間に見聞きした知識や経験がこちらの世界では人には無い感覚として表せる。
魔力が身体中を巡る感覚、その魔力を留める技術、発動するまでの待機時間、発想を行動に移せる勇気、イメージを形にする発想力、魔法のバリエーションの豊かさ、その全てがこの世界の魔法使い達を上回っていると知ったのは、魔法の練習を行っていた時にとある有名な魔法学校の先生と出会ってからだ。
独学で学んだにしては魔法の種類が多過ぎる事や発想力の転換に物凄い勢いで「君は天才だ」とまくしたてられ悪い気はしなかったし、むしろ認められて嬉しくもあった。
12歳まではその先生に連れられて嫌々ながらも学生生活を余儀なくされたが、元々勉強は嫌いでも知識を付けるのは楽しめたので退屈ではなかった。
先生の計らいでこの世界で新たに元素が見付かった際の一端を担った事による発見者権限を貰ったのである程度お金に困らない様になってから、魔法学者を目指さないかと言われて私は断った。
学生は別として、ひとつの事だけにじっとしてるのは性格的に無理だからと言うと、先生は悔しそうに、だけれど分かっていたかの様に「そうか」と諦めてくれた。
認めてくれてここまで連れて来てくれた先生には感謝しかないし、これからも魔法に関してはずっと付き合って行く物だから二度と帰って来ないつもりは無いけれど…私は自分の為に先生の元を離れる決心をする。
私は自分で知っていたのだ。
自分がどう言う性格でどう言う人間なのか。
いくつも別の人間に切り替わってもそこだけは変わる事は無い、変われないもの。
たくさんの人に出会ってもそこだけは頑として譲れない。
だけれど私はアスラとして生きる時間の中で確かに、誰かに認められたのだと理解出来た。
ただ後ろ指を刺されるだけじゃなくて、私と言う存在をこの場所で見付けて貰えたと分かったことがこれ以上無く嬉しかった。
そこからはもう、自由に際限など無い。
やりたい事をやりたい様に、知りたいと思う好奇心を殺さないように日々はっちゃけて過ごしていた。
森や林、川や海。
行けるところはどこまでも行った。
大陸は広くなんでもあるのだなと自然豊かな場所を特に巡っていた。
土地により地方により少しずつ違いはあれどやはり人が生きている場所にはある程度のクオリティがあるなと笑えた。
人が生きる上で必要な物や、その土地を収める領主の色が濃いところ。
人々が平和に暮らしている国の空気の穏やかさ、未踏の土地の空気の静けさ。
争いの中にある国特有の空気の重さ。
それらを肌で感じながら、やはり私は平和が良いなと身に染みる。
厳かで神聖な空気は自分の中の魔力が浄化される気がしてとても好きだ。
だからこそ教会や祭壇にはよくお邪魔する。
知歩のお地蔵様巡りやリューナの教会通いもそれの内に入るのかもしれないなと思いながら、私は読んでいた本を閉じて瞑想の時間を終わらせた。